国王暴走!?ノアの命令と、カイの思い
突然、ガチャッと扉が開いた。銀色の指輪がはめられた、太い指が最初に見える。ドスドスと重たい
足音とともに、その人物は会議室へと入ってきた。ノアだった。
「……おいおい、なんの騒ぎだ?」
不機嫌そうに言い放ったその声も、すぐに驚きに変わった。床に倒れ込んだ家臣と、その傍らで
無表情に座る国王の姿を目にして、ノアの顔が歪む。
「父上……!?」
その瞬間、まるで操り糸が切れたように、国王の手が力なく垂れた。そのまま椅子へと沈み込むと、
あの冷たい無表情は嘘のように、ふたたび厳格な王の顔へと戻っていた。
―えっ……!?
「おい、大丈夫かっ!? すぐに医務室へ運べ!」
家臣たちが慌てて動き出す中で、ノアだけは冷静だった。
「そいつの心配は後でいい。……いったい、何があった?」
鋭い声で命じるノアに、家臣たちは互いに顔を見合わせ、戸惑いながら首を横に振った。
やがてそのうちの一人が、恐る恐る口を開く。
「……わかりません。隣国の調査報告書を読んでいた最中に、突然……」
「……はぁ〜? 本当かよ……カイ?」
ノアの鋭い視線が、こちらに向けられる。
「う、うん……」
ーあんまり、ちゃんとは見てなかったけど……
「まあ、なんか父上の気に障ったんだろう。そいつが目覚めたら、二度と会議に出るなって言っとけ」
「し、しかしそれではこの者は今後……」
「知らん。お前らでどうにかしろ。それより腹が減った。食事を用意させろ」
ー……ノア、最っ低だな。どうして、そんな非情なことができるのか、僕にはわからない……
「ちょっと待ってよ、兄さん。この人は……ぼくが引き取る。いいよね?」
カイの声に、ノアは目を細め、少し呆れたように鼻で笑った。
「物好きなやつだな。好きにしろよ」
そう吐き捨てると、イライラした様子で声を張り上げた。
「おい、食事はまだか!! 腹が減って死にそうだぞ!!」
その叫び声が響くなか、血のにおいが残る会議室に、次々と料理が運び込まれてくる。
ーうっ……。この状況で食べるのか……?
カイはノアを睨みつけ、静かに振り返って、周囲の家臣たちに言った。
「……今日の会議は、ここまでにしよう。また後日、改めて場を設けるよ」
「はっ!!」
家臣たちは、まるで救世主でも見るかのような目でカイを見た。
ーこのままでは、いけない。
強く、そう思う。ノアに任せていたら、王国がどうなってしまうのか、わからない。
料理の匂いが満ちていく部屋をあとにしながら、カイは負傷した家臣のもとへ急ぎながら、こう、
強く思った。
ーレンと、話し合わなくては……。