レンたちが、見つけたもの……!
ツーン、とした空気が鼻を突いた。カビ臭くて、重たいにおい。
中にはぽつんと、一つだけ机があるだけ。思ってたより、簡素な部屋だった。
でも――それよりも、ずっと気になるのは。
「なにこれ、血……?」
セイラが眉をしかめてつぶやく。
「なんだか、気味が悪い」
壁に赤黒く、にじんだ文字が書かれていた。
“まさか、他にもいたとは……”
“偽りの顔、満月の光が打ち砕く……?”
「……」
横目でセイラを見ると、その顔が一瞬だけ曇ったように見えた。
「とりあえず、何か手がかりがないか、探してみよう」
ぼくが声をかけると、セイラは小さくうなずいて、いつもの調子を取り戻した。
部屋を探していると、セイラが何かを見つけて声を上げた。
「ねえ、これ……」
「何かあった!?」
黄ばんだ封筒を差し出してくるセイラ。
「う、うん。でも、文字がちょっとかすれてて……」
封筒を受け取ると、セイラの手が少し冷たいのに気づいた。
でも、それ以上に気になったのは、封筒の宛名だった。
“ノア・オルフェオ様へ”
「ノア……?」
これはどうやら、ノアに宛てた手紙のようだった。
「ノアって……第一王子の?」
セイラが首を傾げた。
なんの手紙だろう?
不思議に思いながらも中を開けると、こんな内容の手紙が入っていた。
“誠に聡明な見解でございます、ノア様。そして、もしその仮説が正しければ、“あの事”にも説明が
つきます。ですが、もしかしたら次はあなた様を狙ってくるのかもしれません。わたくしは証拠を
求めてルミナスへ向かいます。くれぐれも、お気をつけて。』
――署名は、すでに滲んで読めなかった。
「ノアが……なにかに気づいてた……?」
なんだか信じられなかった。今の兄様からは想像できない。
でも、あの“あの事”ってなんだ?
「ともかく、今日はこの手紙が一番の収穫かな」
セイラの声がぼくの耳を抜けていった。
*
帰り道、セイラがふと思い出したようにつぶやいた。
「……そういえば、ルミナスに行くって書いてあったね」
「たしか、北の……」
何かの仮説が、ぼくの中で形になりかけたそのとき。
「ねえ、止まって」
セイラがぼくの手を引いて、ぼそっと言った。
「ど、どうしたの? おばけ……!?」
「違うよ。あそこ、灯りがついてる。誰か喋ってるみたい」
指さす先には、今は使われていないはずの古い物置。
「……ほんとだ」
「ちょっと、聞いてみよう?」
ぼくたちは口パクで合図しながら、そっと物置の前へ近づいた。
中からは、小さな声の会話が聞こえてきた。どうやら、男の人がふたり。
「……王様とノア様はやはり……」
「……ああ、満月の夜には……」
「あの娘は……」
「……計画を……」
「しっ、声を抑えろ!」
「……すまん……」
――それきり、会話は途切れた。
ぼくとセイラはそっと顔を見合わせ、静かにその場を離れていった。
*
その夜、ベッドに横たわりながら、ぼくは考えていた。
王様は――父上は――厳格で…無茶苦茶な政治をするような人には見えない。
ノアは……手紙の内容と、さっきの会話を思い出すと、何かが引っかかる。
セイラも、なにかを隠してる気がする。
そして……カイにも、あれから会っていない。
コンサートの準備で忙しいって言ってたけど――
あれから、ずっと、なにかが噛み合っていない気がする。
秘密が多すぎて、なにが本当なのか、もうわからないよ……。
レン:わかっているのは、ノアの体型くらいで……。ホントに、この国でなにが起きてるの!?