怪しい思惑、vs父上!?
「カイって、第二王子のことだよね? ってことは……君たち、謀反を企んでるわけ?」
――完全に、忘れてた。
「えっ、あ、えっと、それは……!」
レンはしどろもどろ。セイラの唇が開くのを、ただ見つめることしかできない。
まずい、どうする? どうしたら――
「それ、協力してあげよっか?」
「……へ?」
思わず、ぽかんと口が開いた。
この子、何考えてるんだろ…?謀反ってこと、知ってるのに?
レンは動揺、混乱と焦りに支配されていた。
「そんな大げさに考えなくてもいいじゃん」
セイラはまた、花が咲くように笑った。
「つまり、ぼくの味方になってくれるってこと? でも、なんで?」
うれしいけど、混乱する。隣国のご令嬢が、なんでぼくに??
再びレンの頭は、混乱に支配された。
「ん〜、おもしろそうだから! ねっ?」
セイラが首をかしげて笑う。
……わけわかんないけど、かわいい。
が、レンは第3王子といえども幼い英才教育を受けている。感情を支配することをまだ諦めてはいなかった。
そこで、もう少しセイラの思惑を探ろうと、口を開きかけるとーー
「もしかして、迷惑、だった?」
潤んだ瞳が、レンの思考を破壊した。けっきょく、14歳の少年の理性なんてこんなものなのだ。
うわあああ、めっちゃかわいい、もう、わけわかんないけど、味方になってもらお!
「ちがう! ぜんっぜん迷惑じゃないよ! セイラ、できるならぼくの味方になって欲しい」
思わずぺこっと頭を下げて、手を差し出すと、
「うん、もちろん! よろしく、レン」
セイラはその手を握って、またにっこりと笑った。
こうして、ぼくには――
セイラっていう、ちょっと変わった、でもすごくかわいい協力者ができたんだ!
*
「だから〜、わたしもこのお城で情報集めしたいの!」
「うーん、それはちょっと難しいかも。正当な理由が必要で……」
「え〜、じゃあレンの婚約者っていうのは?レンがわたしに一目惚れしたことにするの」
「え゛」
そのやり取りを、物陰からじっと聞いていた者がいた。
その人がノアの部下だということを、レンたちはまだ知らないーー
*
セイラに「いいよ」って言われたけど……本当に、婚約者なんて言っちゃっていいのかなぁ。
会場へ戻る途中、ぼくはそんなことを思いながら、ふと横にいるセイラをちらっと見た。
廊下の月明かりが、セイラの横顔を美しく照らす――
――キレイだな。
そう思った次の瞬間、セイラがくるっとこっちを向いて、ふいに尋ねてきた。
「ねぇ、次の満月って、いつかわかる?」
「えっ?」
つぎの、満月…? なんでそんなこと聞くんだろ?
少しだけ不思議に思いながら、僕は答えた。
「うーんと、たぶん……1ヶ月後くらい? 今はもう、下弦の月になりかけているから」
廊下の柱が一瞬、セイラの顔に影を落とす。
「……なにか、あるの?」
ぼくがそう尋ねると、セイラは少しだけ早口で、でも笑いながらこう言った
「ううん、なんでもない。それより、ほら、もう会場の前だよ」
気がつくと、立派な扉が目の前にあった。
「準備はできた!?」
さっきまでとは打って変わって、明るい笑顔で聞いてくるセイラ。
「うん、いくよ」
気になるけど、それよりも今はもっと重要なことがある!なんたって、今から父上に嘘をつくんだから!
ぼくはグッと気持ちを引き締めて、会場の扉を開けた。
流れる優雅な音楽と、たくさんの人のざわめき。
この後きっと、いろんな噂が飛び交うんだなぁって思うと少しゆううつ。でも、もう決めたんだ。ぼくはセイラの
手をそっと取り、国王のもとへ歩き出した。
「父上!」
声をかけると、話をしていた国王がゆっくりと振り向いた。
「少し、お話がありまして」
できるだけ落ち着いた声でそう言いながら、内心ではドキドキが止まらない。
……でも、ぼくの声、震えてないよね!?
「ふむ、なんだね」
父上は相変わらず、厳格でどっしりとした雰囲気。豊かな口ひげが、いかにも「国王!」って感じだった。
……ああ、やっぱり見た目だけなら、すっごく優しそうなのになぁ。
そんなことを思いながら、ぼくはなんとか言葉を続けた。
「実は、紹介したい人がいて……」
ぼくがそう言うと、隣にいたセイラが静かにドレスのすそを持ち上げて、お辞儀をした。
その仕草があまりにもきれいで、まるでお花がふわっと咲いたみたいだった。
……セイラ、すごいな。全然、緊張してるように見えないや。
「お初にお目にかかります。セルラルド王国レオンハート家長女、セイラ・レオンハートと申します」
透き通った声が、まるで鈴にように響き渡る。
そのとき、少しだけ……ほんの少しだけだけど、父上のこわい顔が和らいだ気がした。
……でもやっぱり、こわい!!
「実は……彼女に一目惚れしちゃって。婚約者にしたいんだけど…」
ぼくは精一杯の笑顔でそう言ったけど――
内心では、足がガクガク震えてないか、すっごく心配だった!
先ほどまで父上と話していた人が、ぼくの言葉を聞いた瞬間、まるで幽霊でも見たかのように肩をびくっと震わせた。
……あちゃー、やっぱり、まずかったかも。
そんな予感が頭をよぎる中、ぼくは小さく息をのんで、国王──父上の言葉を待った。
「それは、それは…」
父上の低い声が、ぼくの心臓をビクンッとふるわせた。