9話 紅弓
(レイティルシア side)
「そういえば自己紹介の途中だったね。俺の名前はリオン•ホワイトローズ。……最強で無敵のお兄様だ!!」
……何を言ってるんだ、こいつは?
この場でお兄様って名乗る必要性はあるのか?
って、ちょっと待て。
今、自分の事を『リオン•ホワイトローズ』と名乗ったよな?
ホワイトローズ家は我がハルジオン王国の三大貴族の一つ。
そこの『リオン•ホワイトローズ』といえば、『神童』としてワタシの耳にも入ってきている。
剣や魔法の腕は十二歳でありながら、既に国内トップクラス。
その上、学問にも通じていて、最近では商会も立ち上げようとしているとか。
同年代にそんな凄い人がいるのかと感心していたが、実際の『リオン•ホワイトローズ』は、夜中に野草を食べ、自分のことを『お兄様』と名乗るちょっと頭のおかしい人物だったとは……理解が追いつかないぞ。
だが、さっきの動きを実際この目で見てリオンが『神童』と呼ばれるのにも納得せざるをえない。
これでも多少は腕に覚えがある。
相手の動きを見ればどれくらいの使い手かくらいは測ることができる。
その上で……リオンは、少なくともワタシよりも強い!
「さて、ウォーウルフ。一回だけチャンスをやるよ。今なら逃げてもいいけど……どうする?」
「グッ、ルッ……ラァァァァァアアアア!!!!」
リオンからの提案を、ウォーウルフは怒号で拒否をする。
ウォーウルフは既に立ち上がり、臨戦体勢に入る。
「流石はこの山のボスだな。その心意気に免じて、俺も相手をしよう!」
そう言うと、リオンは右腕に魔力を集中させる。
……なんて魔力量だ!!
それに、これだけの魔力をこんな簡単にコントロールできるなんて……。
「炎魔法……『紅蓮ノ弓矢』」
魔法名を唱えると、リオンの右腕には炎で創られた弓が握られる。
「なんだ、この魔法は? ワタシも見たことがないぞ」
「そりゃあ、そうだよ。だってこの魔法、俺のオリジナルだもん」
……驚いた。
まさか、ワタシと同じ年齢で、既にオリジナル魔法を創る奴がいるなんて。
「さて、それじゃあ……やるか!」
リオンが弓の弦を引くと、弓の中心に炎が集まり出す。
……な、なんなんだ、この魔法は!?
更に魔力が高まっていくのを感じる。
「グッ……ギャァ!?」
ウォーウルフが驚いた様な声を上げる。
それもそうだろう。
リオンの背後にいても、この魔法の迫力に足がすくみそうなのに、その照準を自分に向けられているんだ。
恐怖を覚えるのも仕方ないだろう。
「ジッ、ギッ……ギャァァァァ!」
あまりの恐怖に耐えられなかったのか、ウォーウルフはプライドを捨て、敵前逃亡を測る。
瞬く間に距離が離れていき、ウォーウルフが段々と小さくなっていく。
だけど、リオンは焦るどころか、余裕を持って弓を構える。
「悪いけど、この魔法からは逃げられない……よっと!」
そう言うと、リオンは炎の矢を放つ。
そして、放たれた矢は放射線を描きながら、真っ直ぐにウォーウルフめがけて飛んでいき、そして……
「グッ、ギッ………ガルァァァァァァ!」
ウォーウルフは矢に射抜かれて、悲鳴と共に焼き尽くされていく。
威力も凄まじいが、それ以上に驚いたことがある。
放たれた矢はまるで意志を持っているかのように、ウォーウルフを追いかけていった。
な、なんなんだ、この魔法は!?
◇◆◇◆◇◆
(リオン side)
「よし、命中! これなら実戦でも通用するな」
『紅蓮ノ弓矢』から放たれた炎の矢は、ウォーウルフを追いかけて、一撃で仕留めた。
最近創った魔法だったけど、威力、速度共に問題はない。
それに、一番苦労した特性も問題なく発動したし、満足いく魔法ができたな。
「リオン……今の魔法はなんなんだ?」
「あぁ、アレ? 自動追尾型の炎魔法だよ」
「じどうついび?」
「簡単に言うと、敵を射抜くまで追いかけ続けて、絶対に当たる魔法ってこと!」
「そんな事、可能なのか!?」
「まあ、色々細工をしないとだけどね」
今回のケースだと、俺がウォーウルフの横腹を蹴った際に魔力でマーキングをする。
『紅蓮ノ弓』の矢は、そのマーキングを追いかける性質を持っているから、それで自動追尾を実現させた。
魔法は完成こそしたけど、それでもまだまだ改善点はある。
もっと改良して、より強力な魔法を創ってみたいな。
異世界転生して、俺が今一番ハマっているの間違いなく『魔法開発』だろう。
だって、魔法だぞ!
今まで漫画やゲームの世界だけだったものが、この世界なら魔法を使って自由に再現ができるんだ。
オタクの俺にとって、こんなに楽しいことはない。
「そうか……流石は『神童』だな」
「あー……その呼び名、嫌いなんだ。普通にリオンって呼んでくれ」
別に俺は神童でも天才でもないから、そう呼ばれるのはむず痒いし、あんまり好きじゃない。
俺はただのお兄様だ。
クロエの誇れる兄であるために、色々努力をしているだけなんだけどなぁ。
それに、剣術や体術ではメイドのユーリにいつもボコボコにされてるから、そんな大それた名前で呼ばれるほどの者でもないしね。
「そうか、分かったよ、リオン。それと、ワタシはお前が気に入った。良かったら仲良くしよう!」
どうやら、俺はこの少女に気に入られたようだ。
子どもとはいえ、こんな美少女に気に入られらのは悪い気はしないな。
「そりゃどうも。えーっと、君は……」
そういえば、この子の名前、なんだ?
まだ自己紹介も終わってなかったわ。
「ワタシのことはレイって呼んでくれ! 親しい人はそう呼んでくれている」
「オーケー、レイね。これから、よろしく」
レイ……か。
『ブロファン』の登場人物にそんな名前のキャラクターはいなかったはずだ。
レイを見て既視感を覚えたのは勘違いだったようだな。
「それじゃあワタシは家の者達が心配すると悪いし、そろそろ帰ろうかな」
「なんだ、折角仲良くなったと思ったのにもう帰るのか?」
「大丈夫、どうせすぐ会うさ」
……うん?
なんで、レイは再開することを、そんな確信めいてるんだ?
「それってどういう……」
「それじゃあ、またなリオン!」
そういうと、レイはさっさと帰ってしまった。
「……行っちゃった」
レイの素性とかもうちょっと詳しく聞きたかった気もするけどしょうがないか。
レイはすぐ会えるって言ってたし、また今度会った時にでも、もうちょっとゆっくり話してみよう。
さて、俺もそろそろ帰るとするか!