4話 親友
……え?
なんか、めちゃくちゃ怒ってないか?
「お兄さま……わたしが目をはなしたすきに、なにをしているのですか?」
「えーっと……」
「お兄ちゃん、この子、だぁれ?」
「おにっ!? ……お兄さま、せつめいをおねがいします」
クロエの目からハイライトが消えていく。
……美少女の真顔って、幼くても迫力があるんだなぁー……。
「お兄さま? おへんじは?」
「っ!! サーイエッサー!」
クロエの威圧感に負け、つい反射的に立ち上がって敬礼をする。
今のクロエに逆らっちゃダメだと、本能が叫んでいる。
「えーっと、この子の名前はラミィで、さっき友達になったんだ」
「ともだち……ともだち、へー、お兄さまにおともだちですか?」
「ああ」
「……お兄さまにはわたしがいるのに……」
「……ん?」
最後の方は声が小さくてうまく聞き取れなかった。
「……っ! とにかく、お兄さまのいもうとはわたしだけです! わたしいがいの人に『おにいちゃん』なんてよばせないでください!!」
「えーっと……」
つまり、クロエがこんなに怒っているのは、兄である俺が他の子に兄のように慕われているのが嫌だってことか。
つまりは嫉妬。
なんだよ……かわいいかよ!!
えっ、ちょっと待って、俺の妹可愛すぎないか!?
普段は大人びているのに、ふとした時に見せる年相応の振る舞いとか、最高すぎる。
これが……『萌え』の極地!!
「ちょっと、お兄さま! きいているのですか!?」
「っと、ああ、ごめん。ちょっと意識が飛びかけてた」
人ってトキメキが過ぎると周りが見えなくなるんだな。
「ねぇ、お兄ちゃん。さっきからこの子、こわい」
クロエのフォローをしようと思ったら、ラミィが俺の裾を掴みながら隠れる。
そういえば、ラミィにはクロエの紹介をしていないままだったな。
「大丈夫だよ、ラミィ。この子は俺の妹でクロエっていうんだ。今はちょっと不機嫌だけど、本当は素直で可愛くていい子で最高の妹だよ」
「……ふーん……へー……そーなんだ」
……あれ?
なんだか、ラミィの機嫌も悪くなってきたようだぞ?
その証拠に、ラミィらさっきまで俺の服を掴んでいたはずなのに、いつのまにか俺の背中をつまみ始めている。
……地味に痛いぞ、これ!
いつの間に俺はラミィを怒らせたんだ!?
「ちょっと、あなた! お兄さまからはなれなさい!」
「いや! お兄ちゃんはわたしのお兄ちゃんだもん!」
「……なっ!? ちがいます!! お兄さまはわたしのです!!」
クロエとラミィが互いに俺を兄だと主張しながら、俺の両腕を引っ張り合う。
大岡裁きかな?
てか、互いに全体重をかけて引っ張っているから、子どもの体には負担がでかい。
……つまり、めっちゃ痛い!!
「あのー、お二人さん? ちょっと落ち着きませんかね?」
「うー!! はなしてください!!」
「あなたこそはなしてよ!!」
「……あっ、俺の声全く聞こえてませんね、これ」
さて、どうしたものか……。
美少女が俺を取り合う構図ってのは捨て難いが、このままだと俺の肩が外れかねない。
……仕方ない。
少し実力行使するか。
「ふんっ!!」
「きゃっ!?」
「えっ!?」
俺は両腕を無理やり上に上げ、二人を持ち上げる。
「……さて、どっちも少しは落ち着いた?」
「……はい」
「……うん」
二人ともムキになっていたけど、落ち着いてくれてよかった。
これなら俺の話もちゃんと聞いてくれそうだな。
今回は、『お兄ちゃん』呼びに浮かれてクロエの気持ちを汲んでやらなかった俺のミスだ。
だから、ケジメはつけないとね。
「ラミィ……俺のことをお兄ちゃんって慕ってくへたのは嬉しかったよ。だけど、俺の妹は世界でクロエだけなんだ。だから、俺はラミィの兄にはなれない……ごめんね」
「……っ!?」
俺からの拒絶の言葉に、ラミィは言葉を詰まらせる。
こんな小さい子にはっきり言う言葉じゃないのは分かっている。
だけど、周りくどい言い方はラミィのためにもならない。
その上でちゃんと線引きをしないとな。
「だから、俺はラミィのことをこれからは『妹分』として接するよ」
「いもうとぶん?」
「妹のように接するってこと。俺の妹はクロエだけだけど、妹分はラミィだけだよ」
「えーっと……えー……うん? じゃあこれからも『お兄ちゃん』ってよんでもいいの?」
「勿論!」
むしろ『お兄ちゃん』と呼んでほしいまである。
今更ラミィに『リオンさん』なんて他人行儀な呼び方をされたら傷ついてしまう。
「うーん、じゃあ、わかったよ!」
完全に理解はしていないようだけど、自分なりに解釈したようだ。
「クロエもそれでいい? クロエの『お兄様』は俺だけだし、俺の妹もクロエだけだからね」
「わ、かりました……」
クロエも俺からハッキリと妹はクロエだけだと言われたことで納得したようだ。
「よし、それじゃあこれで二人とも仲直りな! 折角知り合ったんだし、みんなで遊ぼうよ!」
「……わたしはべつにかまいませんけど……」
「……ラミィもいいよ……」
さっきまで喧嘩してたし、まだ照れくさいのかな?
よし、ここはお兄様として二人の仲を取り持つとするかな!
「それじゃあ改めて自己紹介でもするか! ちなみに俺はリオン•ホワイトローズ。クロエのお兄様でラミィのお兄ちゃんだ!」
「……クロエ•ホワイトローズです。よろしくおねがいします」
クロエが俺に続いて自己紹介をする。
うんうん、流石は俺の妹!
偉過ぎる!!
「ラミリア•ガーネットです。よろしくね」
ラミィもクロエ同様、名前を言ってお辞儀をする。
へー、ラミィの本名ってラミリアっていうのか。
それを短くしてラミィね。
なるほどなるほど……って、えっ!!!!
「ラミリア•ガーネット!?」
ラミィのフルネームを聞いて思わず大声で驚いてしまう。
「えっ、うん……ラミィのなまえはラミリアだけど……どうしたの?」
「……あぁ、うん、大声出してごめん。ちょっと色々と衝撃の事実に頭が混乱してるだけだから」
どうしたもこうしたもない。
むしろ、なんで今まで気がつかなかったんだ。
何が『ラミィは初めて会った気がしない』だ。
寝ぼけてるのか、俺は!
そりゃあ見覚えもあるさ!!
だって、この子は……『ラミリア•ガーネット』は……!
『ブロッサム•ファンタジー』の主人公の親友だ!