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2話 兄様

 

「ク、ロエ……」


「はい! おにいさま、ぶじですか?」


 これは夢なのか?

 俺の目の前に何故か、最愛の推しであるクロエがいる。

 しかも、五歳くらいの幼い姿で。


 クロエの幼少期のスチルはゲームや公式絵でも出たことはなかったけど、この子はクロエだと絶対の確信がある。


 この俺が、クロエの姿を間違えるはずがない。


 それに面影もちゃんとある。


 翡翠のように輝く瞳は変わらず、髪の色は薄く青みがかかった白髪で、毛先は緩くウェーブがかかっている。

 ゲームでは腰まで伸びていた長髪は、現在は肩くらいの長さでショートボブになっている。


 長髪もいいけど、これはこれで……いい!!


 とりあえず感謝の課金をしたいんだけど、どこに振り込めばいいんだろうか?


「あの……おにいさま、どうされたのですか?」


 あまりにじっと見つめていたら、クロエが不思議そうに聞いてくる。


 おにいさま……おにいさま……お兄様!!


 なんという甘美な響き!

 シスコン属性もなければロリコン属性もない俺が、推しからの『お兄様』呼びで完全に性癖を壊されてしまった。


 まあ、何が言いたいかって言うと……控えめに言って最高ってことだ!

 俺が……お兄様だ!!!!


「あの……ほんとうに、だいじょうぶですか、リオンおにいさま」


 あまりの喜びに我を失いかけていたら、クレアが心配そうに話しかけてくる。


 それと少し時間が経ったことで、記憶が整理されていく。


 リオン・ホワイトローズ……それが俺の名前だ。


 ハルジオン王国の三大貴族のひとつ、ホワイトローズ家に俺は去年、養子として迎え入れられた。

 年齢は、まだ六歳の子どもだ。


 そして目の前にいる少女は『クロエ・ホワイトローズ』。


 俺の一つ下の義理の妹だ。


「あー、ちょっと待って。今、色々混乱しているから整理するよ」

「えっと……はい」


 リオン・ホワイトローズとしての記憶と、日本でサラリーマンをしていた時の記憶が混合している。


 そして、ひとつずつ頭の中で情報を整理していく中で、俺はある結論をつける。


 ……どうやら、俺は『Blossom Fantasy』の世界に異世界転生していたようだ。


 しかも最愛の推しの義兄として……!


「こんな事あるのか……?」


 これは夢なのだろうか?

 夢ならば覚めないでほしい。


 なんせ、今、俺の目の前にはクロエが実在しているんだから。


「っ……痛っ!」


 感動で固まっていると、頭に痛みが走る。

 頭をさすると、そこには大きなコブができていた。


 それと同時に、こうなった状況も思い出してくる。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「いたい……いたいです、おにいさま。はなしてください」


 俺はクロエの髪の毛を鷲掴みにして乱暴に振り回す。


「ふん! 気安く僕に命令するな」


「な、なんでこんなイジワルをなさるんですか?」


「貴様の、その下品な髪が気に入らないからだ」


「そんな……」


「それに僕のことはお兄様だなんて気安く呼ぶな! 僕はこのホワイトローズ家の養子になったが、貴様の兄になった覚えはない!」


 俺は更に力を加えてクロエの髪の毛を強く引っ張る。


「い、たい……は、なして……ください!」


 痛みに耐えきれなかったのか、クロエが俺の腕を無理やり振り払う。


「……えっ? うっ、わぁぁぁぁぁぁ!!」

「っ!? おにいさま!!」


 その反動で僕は足を踏み外し、近くの階段から転げ落ちてしまった。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 回想終わり。


 つまり、完全なる自業自得で俺は階段から落ちたわけだ。

 多分、その時の衝撃で前世の記憶のようなものを思い出したのかもしれないな。


 なるほどなるほど……。


「ふんっ!!」


 俺は自分の頬を全力でビンタする。


「ええっ!? おにいさま、なにをなさってるんですか!?」


 俺の突然の行動に、クロエが驚いて大声を上げる。


「何って……お仕置きだよ。例え神だろうと、クロエを傷つけるものは許されないからね」


 だけどこんなものじゃあ、俺の気が晴れない。

 クロエの美しい髪の毛を傷つけ、更に痛い思いをさせたんだ。


 それに俺は……リオンの罪はそれだけじゃない。

 クロエと出会ってからの一年間、今日のようなイジメを毎日のように繰り返していた。


 そのケジメはつけないとな!


「そうだ! 腕を折ろう!!」

「ええっ!?」


 クロエの髪を掴んだ腕を折れば、少しはクロエへの罪滅ぼしになるだろう。


「ほんとうにっ、おやめください!!」


 クロエが思わず、俺の腕を掴んで静止する。

 こんな罪深い俺のことを止めてくれるなんて、優しすぎるだろう。


 ……まあ、少し冷静になって考えると、いきなり腕を折ろうとしたらドン引きするか。

 前世の記憶と現世の記憶が混同した上、この一年間のクロエへしたことへの罪悪感に押しつぶされて、つい暴走してしまった。


 だけど、謝罪の気持ちがなくなったわけじゃない。


 俺は両手をつき、深々と額を地面に擦り付ける。

 いわるゆる土下座だ。


「ごめん、クロエ。本当にごめん」

「えっ!?」


「さっきの髪を掴んだこともだけど、君と出会ってから今までの全てに対して謝らせてほしい」


 リオンとしての記憶を思い返すと、それは酷いものだ。


 クロエへのこれまでの暴言や暴力……それは決して許されるものではない。


 だけど、もし許されるのなら……!


「クロエがいいなら……改めて、俺を君のお兄様にしてくれないか?」


「っ!? それは……ほんとう、ですか?」


「ああ、俺は兄として、クロエのことを一生守るって誓う。だから、俺のことを側においてくれないか?」


 恨んでくれても、利用するだけの関係でも構わない。


 俺のこれからの人生は、クロエを幸せにすることだけに捧げると決めたんだ。

 君が幸せな未来を手にするためならなんだってしてみせる。


 クロエが信じられないといった目で俺を見つめる。

 今までの俺を知っていたら簡単には信じられないだろう。


「しんじて……いいのですか? クロエのおにいさまに……かぞくになってくれますか?」


「勿論!」


 むしろこっちからお願いしたいくらいだ。

 クロエの兄になる名誉なんて、百億円を積んだとしても惜しくない!


「っ! わかりました……よろしくおねがいします、おにいさま!!」


 今日、初めてクロエの笑顔をみた。

 ……なんということでしょう。


 その笑顔は百万ドルの夜景すら霞むほどの輝きを発している。

 俺はこの先、お兄様として、この笑顔を守り続けると、心の中で決意した。


 今から俺が……お兄様だ!!!!

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