【1】
「ー別れよう」
夜の寒い中、息を白くしながら、彼氏の神山修二が言った。チラチラと雪が待っている。コートや手袋をしているが、コンビニの駐車場は凍えるように寒かった。店内の暖かい光を恋しく思いながら、上田ひかりは言い返す。20代前半で、色白だった。髪はボブカットである。
「…は?」
言葉を出すと、やはり息は白かった。しかし、修二は心配してくれる気配はなく、ぶっきらぼうに言う。
「それだけ。ーじゃあ」
「ちょっ、ちょっと待ってよ」
腕を伸ばして捕まえようとしたのだが、避けられた。ひかりはショックを受けながら言う。
「何で…? 何で急に」
「急にじゃねえよ。前から思っていたんだよ」
「え…?」
ひかりが動揺しながら固まる。修二はこの際だと思ったのか、はっきり言ってくる。
「お前、女に見えないんだよ」
「…。嘘でしょ?」
一番突き刺さった言葉だった。まさか存在を否定されるとは思わなかった。
「じゃあな。元気でな」
修二は手をあげて行こうとする。ひかりは慌てて、止める。
「待ってよ…!? 何でそんなこと…」
「俺もう彼女居るんだよ。ーさようなら」
修二は車に向かっていく。ひかりは呆然とし、動けなかった。今日、仕事終わりに会おうと約束していたから、浮かれた気分でやってきたのに、背中には冷たいものが流れる。いつもみたいに抱きしめてくれたり、キスしたりしてくれると思って仕事を頑張ってきたのに、手ひどい仕打ちだった。
「そんな…」
待ってと言おうとしたが、修二はこちらを見もせず、行ってしまう。本当にひかりに興味がないようだった。ひかりの目から自然と涙が流れる。恋愛モードのドキドキとは違う、心淋しい心臓の音が聞こえてくる。
「うう…。何で…」
ようやく手を動かし、涙に触れる。悔しさと切なさといろんな感情が湧き出してくる。
「馬鹿…」
大声で叫び、ひかりはその場に座りこんだのだった。