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どうぶつたちのキャンプ  作者: 葵むらさき


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第72話

 それは、ハシナガイルカだった。

「おお」レイヴンは思わず触手を、求めるがごとく空中に向け差し伸ばした。


 ざぶん


 ハシナガイルカは水面を割って潜り込んでいった。

「ああ」レイヴンは思わず触手を、追うがごとく海面に向け差し伸ばした。


 ばしゃっ


 そうかと思うとハシナガイルカは再び水面を割って空中に飛び出してきた

「おお」レイヴンは再び触手を、求めるがごとく空中に向け差し伸ばした。


 ざぶん


 ハシナガイルカは再び水面を割って潜り込んでいった。

「ああ」

「レイヴン、声をかけてみたらどう?」コスが、再び触手を追うがごとく海面に向け差し伸ばすレイヴンに提言した。

 はっとしてレイヴンは触手を引っ込めた。そうだ、感動の中鑑賞している場合じゃない。


 ばしゃっ


「あの、こんにちは」叫ぶ。


 ざぶん


「ああ」届かなかったことに無念の声を漏らす。


 ばしゃっ


「あっ、あの、ええと」


 ざぶん


「こんにち」挨拶が途切れる。


 ばしゃっ


「ハシナガイルカさん」

「ハシナガイルカさん」

「ハシナガイルカさーん」コスとキオスとオリュクスが同時に呼びかけた。

 ハシナガイルカはそこで初めて一行の存在に気づいたかのように視線を向けた。


 ざぶん


「ああ、だめだったか」

「ううん、見て」

「おーい、こんにちはー」

 三人の声に答えるように、ハシナガイルカは一行の真下の水面から頭を覗かせ──水中にとどまったまま──「どうもー」と返事をした。

「ほら、レイヴン」コスが促す。

「──あっ、うん、ええ、こんにちは」なかば茫然と見ていたレイヴンはっと自我を取り戻し挨拶をした。「ぼくは、レイヴンといいます」

「こんにちはー、レイヴーン」ハシナガイルカは陽気な声で答え、左右に体を揺らした。

「ええと、ハシナガイルカさん、ですね?」レイヴンは確認する。

「ああ、そうだよー」ハシナガイルカは今度は水中でくるくると回りながら答えた。「レイヴンといえば、結婚したんだっけー?」声を高め、一瞬水中に姿を消したかと思うと、数メートル離れたところから


 ばしゃっ

 ざぶん


と飛び上がり飛び込み、それからまた一行の真下に戻ってきた。「おめでとーう」

「あ、ありがとう、まあ、ぼくというか、ぼくの友人が、その」レイヴンはしどろもどろになった。

「これからどこに行くのー?」ハシナガイルカは水面近くで輪を描くように泳ぎながら訊ねてきた。

「あ、はい」レイヴンは何度目かにはっと自我を取り戻した。「北へ、アジアへ行きたいんです」

「そっかー」ハシナガイルカは泳ぎを止め見上げた。「ついて行こうかー?」

「は」レイヴンは思わず触手をくるくると回した。「はい、是非お願いします!」

「オッケー」ハシナガイルカは再び水中に潜り


 ばしゃっ

 ざぶん


と数メートル離れたところから飛び上がり飛び込み、今度はそのままの位置で頭を覗かせた。「こっちだよー」

「あっ、はいただ今」レイヴンは引っ張られるようにハシナガイルカのいる方へ浮揚推進を開始した。「すみません、どうも、ありがとうございます、本当に」わたわたと礼を述べる。

「いいよー」ハシナガイルカはご機嫌な様子で北に向かい泳ぐ。

「すごいなあ、かっこいいなあ」収容籠の中でオリュクスが興奮した様子の声を挙げる。「ハシナガイルカさん、こんにちは。ぼくはオリュクスです」

「んー?」ハシナガイルカは泳ぎながら少しだけ振り向いた。「オリュクス? こんにちはー」

「ハシナガイルカさん、すごいですね!」オリュクスは賞賛の声を挙げ続けた。「あんなにいっぱい飛び上がって、かっこいいです!」

 レイヴンは微笑みながら、今ここでオリュクスがハシナガイルカと一緒に泳いだり、あわよくば一緒に水中から飛び上がったり、してみたいと言い出した時になんと言って制するかをモサヒーばりに高速で考えなければならなかった。

「こんにちは、ぼくはコスといいます」

「ぼくはキオスです、ハシナガイルカさん」

 だがなんとコスとキオスもどうやら感動と懇意になる欲求を覚えだした様子でハシナガイルカに声をかけたのだ。もちろんそのこと自体は喜ばしいことだが──

「こんにちはー、コス、キオス」ハシナガイルカは泳ぎながら明るく答える。

「すごいですね、あんなにたくさんジャンプできるなんて」

「うん、かっこいいです」そしてなんとコスとキオスまでもが賞賛を惜しまずにいる。

 まさかそんなことはないと思うが、この動物たち全員が揃って、ハシナガイルカとともに泳いだり飛び上がったり飛び込んだりしたいと言い出したとしたら一体なんと言って──レイヴンは混乱し始めた。

「どうして、飛び上がるんですか?」不意にオリュクスが質問した。

 レイヴンはあれ、と意外に思った。オリュクスが動物の行動に対して「意味」を考えるというのは、もしかしたらこれが初めてかも知れない。

「うーん」ハシナガイルカは泳ぎながら少し考えた。「地球を感じるから、かなー」

「地球を?」訊き返したのはレイヴン、オリュクス、コス、キオスの全員だった。

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