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どうぶつたちのキャンプ  作者: 葵むらさき


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第69話

 ディンゴとアカギツネは海岸に並び立ち、レイヴンらを見送ってくれた。彼らは、あたかもイエイヌのようにそれぞれ尻尾を振り、名残を惜しむ気持ちと、短期間ではあったがともに旅をした友人らの幸運と無事を祈る気持ちと、いつか将来においての再会を祈る気持ちとを表してくれていた。

 が、大分遠ざかったところで不意にアカギツネが横にいるディンゴに何かを語りかけた様子が見られたかと思うと、いきなりディンゴがアカギツネを追い始め、二頭の姿はともにオーストラレーシアの大陸の奥へと消えていった。

 レイヴンは最後の最後で少しだけ心配を胸に抱えることになってしまったが、それでも前に進むしかない。収容籠を注意深く抱え、浮揚推進するのだった。

「あれっ」その時キオスが声を挙げた。「レイヴン、あそこにゾウさんがいるよ」

「え、ゾウさん?」レイヴンは驚き、キオスが示す方向を見た。浅瀬の、水の中だ。「ゾウさんは、ここには──あ」

 レイヴンは見つけた動物のもとへ降下していった。

 そこにいたのは、ジュゴンの親子だった。

「どうも、こんにちは」レイヴンは納得しながら声をかけた。ジュゴンは、確かにゾウの近縁種だ。「ぼくはレイヴンといいます」

「どうもー」ジュゴンはのんびりとくつろいでいた様子で、ゆっくりとレイヴンの方に向き直った。「ご結婚、おめでとうねー」

「──え?」レイヴンは面食らった。

「お友達が結婚したって、レッパン部隊が言ってきてたよー」ジュゴンはゆらゆらと浅瀬に浮かびながら説明した。

「と、友達が……?」レイヴンは混乱ののち衝撃を受けた。

 まさか、モサヒーのことをいっているのか? 結婚って、誰と? まさか、もしかして、あの喧噪じみた喋り方をする双葉と? いやまさか、しかしどうして──

「レイヴン」キオスが、まるで前足を持ち上げ甘えるイエイヌのようにおねだりをしはじめた。「ねえ、ぼく外に出たいよ」それは珍しいことだった。

「うん!」だがレイヴンの前にオリュクスが答えた。「ぼくも!」

「え、ええっ」レイヴンの中枢帯は次々に大量のエネルギーを必要とした。「外に出るって、でも君、キオス、君は泳げないだろう」

「ぼくが泳ぐよ!」キオスが答える前にオリュクスが提言した。「キオスはぼくの背中に乗っていたらいい!」

「それにジュゴンさんがゾウさんの近縁なんだったら、もしかしたらぼくも泳げるかも知れないし」

「お前ら、レイヴンを困らせるなよ」コスが諫める。

「おかあたん、くさ、おいちいねー」突如ジュゴンの仔が声を挙げた。

 見るとジュゴンの親子は水中で、海草をぱくぱくと食しているところだった。彼らの周囲に鮮やかな黄色と黒のストイプ模様に彩られたコガネシマアジたちがおこぼれの微生物狙いで泳ぎ回っている。

 平和だな。

 レイヴンの心中に、ふとそんな想いがよぎる。

「──じゃあ、よくよく注意してね。もちろん、危険だとぼくが判断したら、すぐに引き上げるからね」そう言い聞かせてから、レイヴンはまずキオスを外に出した。

 海の水は、キオスの脚の上にまで届き、その腹もすっかり水に浸かる状態になった。

「うわあ」キオスは初めて味わう感覚、自分の体をゆるやかに押す水の優しい圧力、その冷たさに、思わず身震いして感嘆の声を挙げた。「すごい……でも、きれい!」キオスは辺りを見回した。

「レイヴン、ぼくも、ぼくも」

 オリュクスが暴れ出す前に、レイヴンは望み通り彼もまた外に出した。

「うわあーい!」さっきまでオーストラレーシアの大地を走り回っていたことはもう記憶に残ってもいないのかと思わせるほど、オリュクスは水中を、すいすいと高速で泳ぎ回った。

「オリュクス」キオスが呼ぶ。「ぼくを乗せてくれるんじゃなかったの」

「いや、それは」レイヴンが言い、

「無理だよ」コスが言い、

「えー……そうかあ」キオスは残念そうながら納得し、

「うわあー! この海は、あったかいねー!」オリュクスは美しいサンゴ礁のそばまで悠々と泳ぎ回った。

「シュモクザメに気をつけてねー」ジュゴンが息継ぎのため水面から顔を出して声をかけた。

「おかあたん、あれ、だれ?」仔が声をひそめて訊ねる。

「こんにちは。ぼくは、キオスだよ」キオスは、水中でゆっくりと脚を動かし、ジュゴンの方へと近づいて行った。

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