第64話
「ど、うも」レイヴンは取り敢えず挨拶をした。「初めまして、レイヴンです」
「あなた今、どこにいるの?」コードセムーと名乗った双葉は、いきなり所在情報を求めてきた。「アフリカ? それともアジア?」
「それ、は」レイヴンは返答に詰まった。
「うん、レイヴンは答えなくていいです」モサヒーが言葉を添える。「セムーさんには、うん、ぼくが知っている情報を伝えるとしか、うん、約束していませんので」
「え」レイヴンは動揺した。「君たちは、どういう──」
「私たちはね」セムーが先立って答える。「大切な関係になる約束を交わしたの」
「た」レイヴンの動揺は深まった。「大切な……って、まさか」
「うん、重要な情報を取り交わすという意味で、うん、そうなりました」モサヒーが解説する。
「そ」レイヴンはひどく安心した。「そうか」
「うん、レイヴン」モサヒーは声を落とした──それは彼にしては珍しく、どこか悲し気に聞こえる声だった。「何も相談せずに決めてしまい、申し訳ありません」
「いや、そんな」レイヴンは再び慌てた。「モサヒー、君はもしかして、危険な目に遭っていたりはしないのかい? 今はどんな状況なんだ?」
「うん、はい」モサヒーは元気を取り戻した様子で元の冷静な声になり状況を話した。「今現在は、ボブキャットさんと、キャンディさんと、セムーさんと共にいます。今お伝えした順番通りに、来る途中で知り合いました」
「そうか」レイヴンは頷き「キャンディさんというのは?」と質問した。彼の持つ地球産動物のリスト内に、その動物名は見つからなかった。
「うん、キャンディさんは」モサヒーは説明した。「他惑星産動物です」
「たわ」レイヴンは言葉に詰まった。
「保護施設から抜け出してきたようです」
「えっ」レイヴンは空中からさらに飛び上がった。「それは大変だ、すぐに連れて帰らないと」
「うん、それが聞くところによると、うん、施設はもう閉鎖されてしまったと思われます」
「閉鎖──」
「うん、はい。キャンディさんと他にもいたらしい『仲間』たちには、うん、食餌も水も与えられなくなり、ただ閉じ込められていた部屋の鍵だけが、うん、外されたとの事です」
「そんな」レイヴンは背筋の凍る思いにかられた。「それは、モサヒー、君が前に言っていた、予算削減の煽りを受けてということなのかな」
「うん、その可能性はあると思われます」
「キャンディさん……気の毒に……その動物さんは、大丈夫なのかい? 体調を崩したりとかは」
「でかばかはげ馬のこと?」セムーがまたしても割り込んできた。「ああ、もうびっくりするぐらい大丈夫みたいよ。おつむの中身以外はね」
「うん、セムーさん、余計なことは、うん、キャンディさん、落ち着いてください、うん、ボブキャットさん、逃げないで二人を止めてください、うん、レイヴン、また連絡します、うん、それじゃ」
ふつりとすべての声が消えた。
「──」レイヴンは、通信が終了したということを認識しつつも、だから次に自分がどうすべきであるのかを不思議といえば不思議なほど判断つかずにいた。
「レイヴン、大丈夫ー?」
遥か下の方から自分の名を呼ぶオリュクスの声にはっと現実を見ることを思い出し、急いで地上に向け降下する。「ああ、大丈夫だ。すまないね」と返事をしながら。
いひひひひひひ
現実においては今もなおアオバネワライカワセミが笑うように鳴いていた。




