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どうぶつたちのキャンプ  作者: 葵むらさき


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第63話

 植生が、アカシアからユーカリの木々に変わってきた。この乾燥した地に、驚くほどたくさんの木が生えている。


 いひひひひひひ


 そんな中、誰かが爆笑しているかのような声が聞こえた。

「あれは──」レイヴンが浮揚推進しながらその方向に注意を向ける。

「アオバネワライカワセミっすねー」アカギツネが地上を小走りに走りながら答える。「ディンゴさんたちがー、先に出会ってるかもっすねー」

「ああ、うん」レイヴンは答え、なぜか少しばかり苦笑した──無理もない。

 収容籠から解放したオリュクスと、彼の『見張り役』ディンゴとは並び競い走り、遥か遠くへ行きどこにも姿が見えない。

 最終的に目指す方向だけは打ち合わせているが、二頭がそこへ無事に辿り着いてくれることについては、なかば祈り信じるしかなかった。

「大丈夫だ、任せておけ」ディンゴはそう言って走り出したが、大丈夫の根拠は明らかではなかった。

 ひひひひひひ

 アオバネワライカワセミの声が近づいてくる。

 やがてその木が見えてきた。

 くわっくわっ

 鳴き続けるアオバネワライカワセミの止まっている木だ。

「あっ、レイヴン!」木の根元近くからオリュクスが呼ぶ。「早く来て!」

「オリュクス、どうしたんだい」レイヴンはスピードを上げ近づいて行った。

「ええどうも」アオバネワライカワセミが樹上から挨拶をしてくる。

「あ、こんにちは、どうも」レイヴンも挨拶を返す。

「いひひひひひひ」だし抜けにアオバネワライカワセミは笑った──ように鳴いた。

「え」レイヴンは一瞬とまどったが、ディンゴもアカギツネも特に警戒などしていない様子だったので、この鳥に取ってはこれが普通なのだろうと理解した。

「マルティのことだよ!」オリュクスが地上を飛び跳ねながら叫ぶ。「双葉といっしょにいるって!」

「マルティ?」レイヴンは驚いた。「双葉と?」

「あー、レッパン部隊からの情報とー、同じ内容っぽいっすねー」アカギツネが言う。

「ええそう言ってました、小さい鳥が。いひひひひ」アオバネワライカワセミは頷いた。「小さい鳥はオオヅルから聞いたらしいですけどね。うひひひひ」

「オオヅルさんから」レイヴンは復唱した。「小さい鳥さんというのは」

「小さい鳥はね」アオバネワライカワセミは伝えた。「食っちゃいました。いひひひ」

「あ──」レイヴンは言葉を失った。

「翼の生えたネコと双葉は揃って、海からあまり離れていないルートを東方向に進んでいるらしいと、言ってましたよ。いひひひひ」

「そう、ですか」レイヴンは答え、ふと考えた。

 双葉が、ずっと一緒にいる──

 それは、何のためだろう?

 まあ一番考えられるのは、マルティコラスを探し当てた自分、レイヴン=ガスファルトを、ただちにその場で捕獲するための要員だろうということだ。

 しかしそれなら、もっと賢い──というか小狡いやり方があるだろうに。

 どこかに身を隠しつつ──例えば草葉や木陰、可能ならばマルティのたてがみの中などに──レイヴンが近づくのを待ち、一気に仕留める、という方策こそが、ギルドらしいといえばらしいのではいか。

 何故こうも、他の動物たちに丸わかりの状態で、どこまでも堂々と随伴しているのか。

 その双葉の目的は、一体何なのか?


「レイヴン」


 その時、その声が聞こえた。

 はっと上空を見上げる。

「うん、ぼくですモサヒーです」

 だが当然のことながら声の主の姿がそこに見えるはずもなかった。

「モサヒー?」レイヴンはそれでも無意識の内に、ユーカリの樹冠近くまで高速で移動していた。「どうだい、そっちの様子は」

「うん、はい」モサヒーは伝えるべき情報を高速でまとめているようだった。「ギルドの動向について、うん、判明したことを伝えます」

「おお」レイヴンは思わず身を乗り出した。「是非聞くよ」

「うん、レイヴン」モサヒーは伝え始めた。「ギルドが君を捕らえようとしている理由は、うん、マルティコラスの世話役として必要だと考えられているからのようです」

「マルティの? 世話役だって?」レイヴンは驚きの声を挙げた。

「うん、はい」

「ど、どういうこと? ギルドは、その、マルティの世話を──まさか、ろくにしていないっていうんじゃないだろうね?」

「うん、ひとまず食餌は与えているようです。うん、体温や代謝状況などもチェックはしているとの事ですが、うん、ただマルティとのコミュニケーションが取れないことに、うん、手を焼いていると」

「コミュニケーション……ああ」レイヴンは頷いた。

 そうか。言われてみればそうだろうな。マルティは──

「あれ」だがレイヴンは訊ねた。「モサヒー、君そんな情報をどこで手に入れたんだい?」

「うん、それは」

「ハーイ、レイヴン」突如聞き覚えのない声が感知帯に響いた。「初めまして」

「うん、セムーさん、何してるんですか」モサヒーが珍しく焦ったような声を出す。「うん、勝手にレイヴンの信号を読み取らないでください」

「え」レイヴンは一体どういう現象が起きているのか、頭ではすぐに理解できなかったが、生体的本能では瞬時に読み取っていた。

 この『声の主』は──

「私はギルド構成員、コードセムーよ。いわゆる双葉ね」新たな声の闖入者は自己紹介し、レイヴンの生体本能の読みが真であることを裏付けた。

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