第58話
コードセムーは、アメリカバイソンの群れ──数十頭いるところを見ると、雌とその子どもから成るものだろう──を見つけた。
「保護されているんだろうけど、悪いわね」そう呟いた後、一頭の子を分解し収容した。
母親らしきアメリカバイソンが突然姿を消した子を探し始め、駆け回り、大きな咆哮を挙げ、大地に自らの体を叩きつけた。
「お疲れ、じゃあね」セムーは軽くそうとだけ言うと、素早くその場を離れた。
「待ちな」だがすぐに、行く手を阻む者が現れた。
ハチドリだ。空中で超高速に羽ばたき、まっすぐにこちらを見ている。
「あらどうも」セムーは挨拶をしながら瞬時に電子線の射出準備をした。相手は一羽だ。問答無用で分解するか。
「お前、双葉だな」ハチドリは鋭い視線と嘴を向けたまま、鋭く訊く。「レイヴンって奴を捜してるのか」
「レイヴン」セムーは復唱した。そうだ、見つけ次第連れの動物もろとも捕獲しろという面倒くさい指令が下された、その対象だ。「そうだと言ったら、何?」
「レイヴンの仲間が近くにいるぞ」ハチドリは告げた。「ボブキャットを連れている」
「仲間?」セムーは訝し気に訊き返した。「なんで知ってるの?」
「伝わって来たのさ」ハチドリはシンプルにそうとだけ答えた。「行けよ。そいつのところに」
「──なんでそんなこと教えてくれるの?」セムーはなおも問い質した。この近づきがたい超高速羽ばたき鳥は、何を考えている?
「レイヴンを捜してるんだろ」ハチドリは繰り返した。「レイヴンの仲間に遭えば、レイヴンもすぐに見つかるだろ。だからさ」
「──なんでそんなに親切に教えてくれるの?」セムーはついそんなことを質問した。
「レイヴンを見つけたらさ」ハチドリは鋭い視線を微塵も揺らがさずに答えた。「お前ら双葉全員、消えてなくなるんだろ」
「は?」セムーは一瞬、わけがわからず固まってしまった。「なんで?」
「そういう情報が来てたぞ」ハチドリは続けた。「レイヴンを見つけた双葉は、消えていなくなるって」
「いや、だからなんでよ」セムーは頭に来て声を荒げた。「私たちがレイヴンにやっつけられるっていってんの?」
ハチドリは少しの間返事をしなかったが「消えて、いなくなれよ」とだけ答えた。
「ふざけんじゃないわよ」セムーは電子線を射出した。
しかしハチドリが正面から突撃してくる方が速かった。
「きゃっ!」セムーは咄嗟に回避し、電子線はあさっての方向へ流れてしまった。
急いで体勢を整えたが、ハチドリはすでに射程距離から遠くへ飛び去ってしまった後だった。
「うー」セムーは口惜しさに唸るしかなかった。「なんなのよ、まったくもう」むしゃくしゃした思いに苛まれながら、とにかく進むしかなかった。
レイヴン。
その捕獲対象は、一体どんな奴なのか?
そいつに遭ったら自分たちの方が消えていなくなるとは、どういうことか?
レイヴンは恐るべき能力あるいは技術の持ち主で、ギルド員などものともしない強敵なのか?
それにしては、ギルド本部からはまことに気軽に、通常使っている電子線を通常通り気楽に起動して、あっさり捕まえればよい、という雰囲気でしか通達はされて来なかったじゃないか?
どちらかが、間違っている?
つまりさっきのハチドリが受け取ったと言っていた、レイヴンに関する情報が間違っているのか、あるいはギルド本部のレイヴンに対する認識が間違っているのか。
「──仲間……」セムーはハチドリの言葉を思い出した。近くに、レイヴンの仲間がいると言っていた。
ボブキャットを連れている、と。
せっかくの『親切な助言』だ。ひとつ、乗っかってみるのも悪くない。
コードセムーは、いまだ収まらないむしゃくしゃを心の隅に抱えたまま、ボブキャットの生体信号を捜し始めた。




