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どうぶつたちのキャンプ  作者: 葵むらさき


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第55話

 ぎゃお──んん


 遠吠えが聞こえた。

 ボブキャットはびくりと身を竦ませたが、すぐに舌打ちして前進を再開した。「ごみ漁り屋か」と呟きつつ。

 モサヒーの方はただちに生体信号を検索し、それがコヨーテの遠吠えであることを認知した。双葉──ギルドが狙う対象ではない。だがこの種族も広範囲に分散し棲息しているものたちだ。何か情報を掴んでいるかも知れない。

 声の聞こえた方へと浮揚推進していく。

「まじか」ボブキャットは顔をしかめた。ごみ漁り屋に話しかけるつもりなのか?


 ぎゃぎゃおお──んんん


 遠吠えの声が近づく。

 本当に、やかましい奴だ。ボブキャットはうんざりし、自分が尾行している相手──レイヴン本人ではないがその仲間らしい、モサヒーと名乗っていたか──もきっと、内心ではうんざりしているはずなのだが……と思うも、後に続くしかない。

 そしてその動物はいた。

 まさにコヨーテ、よく啼くイヌ科だ。

「うん、こんにちは」モサヒーは挨拶をした。「ぼくは、うん、モサヒーです」

 コヨーテははたとモサヒーに目を向けた。だがすぐに視線を下ろし「なんだあーん、ごみ漁り屋かあーん」と言った。

「うん、えっ」モサヒーは自分がごみ漁り屋と呼ばれたと思い驚いた。

 しかしそれに続いて「ごみ漁り屋はそっちだろうが!」と背後から怒鳴る声がしたので、自分に向けて言われた言葉ではないことはすぐにわかった。

 振り向くと、怒りの様相を示したボブキャットがまるごとその姿を現している。

「なんだとあーん、ごみ漁り屋はそっちだろうがあーん」コヨーテはそう言い返すと空に向け、あおお──ん、とまた遠吠えした。

「うるさいっての!」ボブキャットはもう一度怒鳴った後「あっ」と急に正気に戻り、モサヒーを見上げた。「しまった」

「うん、どうも」モサヒーはそこで初めてボブキャットにも挨拶をした。「うん、さっきからずっとついて来てましたよね」

「──」ボブキャットは困惑して言葉を失い、目を泳がせた。

「なにやってんだお前あーん」コヨーテは馬鹿にしたように言うと、あおお──ん、とまたしても遠吠えをした。

「いや、うるさいっての!」ボブキャットはモサヒーに見つかった気まずさも忘れ、コヨーテに向かって怒鳴った。「ごみ漁り屋が!」

「ごみ漁り屋はお前だろあーん」コヨーテも言い返す。

「うん、なんですかその『ごみ漁り屋』って」モサヒーは声をかけた。

「こいつのことだよ」ボブキャットはコヨーテを睨み、

「こいつのことだあーん」コヨーテはボブキャットを見て言った後また空を仰いで、あおお──ん、と遠吠えした。

「こいつ、このやっかましい奴、人間の住み家でごみ漁って喰う奴だからさ」ボブキャットは追尾がばれていたことへの衝撃も忘れて説明した。

「こいつもそうだぜあーん、人間の住み家でごみ漁って、あおお──ん、喰うんだぜあーん」コヨーテは説明しながら途中で空を仰ぎ、遠吠え混じりに説明を終えた。

「うん、そうなんですか」モサヒーは、取り敢えずボブキャットの言う『このやかましい奴』という部分だけは疑いようのない真実を言い当てていると判断した。「うん、ところでお二人とも、双葉を見かけたりはしませんでしたか」

「いたぞあーん」コヨーテが即答する。「あっちの方に行ったから、今こうして皆に報せてやってんだあーん」仰のいてあおお──ん、と仕上げの遠吠えをする。

「うん、あっちの方ですね」モサヒーはコヨーテが見ている方向へ浮揚推進し始めた。「うん、どうもありがとう」

「あばよ、ごみ漁り屋」ボブキャットは当然のように後に続く。

「あばよあーん、ごみ漁り屋あーん」コヨーテも返事をする。

「ごみ漁り屋は」ボブキャットが振り向きざま怒鳴り返そうとすると、


 ぎゃおお──んんん


 ひときわ高い遠吠えがそれを遮った。

「──たく」ボブキャットはあきれ果てたように前を向き進んだ。

 ──たく。

 モサヒーも内心でそう思っていた。いつの間にか気心知れた旅仲間の体になっている。

「うん、君はどこに行く予定ですか?」そう訊ねると、ボブキャットは黙り込んでしまった。

 この先に行くと、何の動物がいるのだろう。双葉が狙うとしたら、クロアシイタチか。コヨーテが遠吠えで警告を発していたのは、クロアシイタチに向けてのことだったのだろうか。

 しかし──コヨーテのあの『やかましい』遠吠えが、果たしてクロアシイタチに通じるのだろうか?

 それに、この、今もはや『同伴者』として堂々とついて来るボブキャット。

 彼自身は双葉の狙う対象ではないだろうが、この先にいるクロアシイタチをこの者が捕食してしまう可能性は、ゼロではないだろう。小型のシカでも襲うほどだから。

「うん、君」モサヒーはひと言確認しておこうと思い、横を見た。「──」しかしその後いう言葉を失った。

 隣を小走りについて来ていたボブキャットが、いつの間にかその口に、小型の鳥を咥えていたからだ。

 ボブキャットはその獲物を喰いながら、ちらりとモサヒーを見た。

「──うん」モサヒーは言葉を続けた。「ぼくが話をしている相手は喰わないようにしてください」

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