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どうぶつたちのキャンプ  作者: 葵むらさき


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第49話

 ディンゴ。

 ディンゴか。

 ディンゴが来る。

 こっちに向かって来ている。

「ほほほう」思わず歓喜の声が出る。「あっちこっち足を伸ばしてみるもんだな。ラッキーだ」コードイフーは電子線射出機構を急ぎ準備した。

 だが同時に、二頭連れで走って来る内の一頭が、実はディンゴではないべつの生き物であることに気づいた。

「ん?」コードイフーは少しの間じっと観察した。夜なので可視光線の反射は使えない。ひとまず生体信号のスペクトルをデータベースに照合させる。

 が、捕獲対象リスト内には見つからなかった。

「なんだ」コードイフーは肩をすくめた。「アカギツネかなんかだな。じゃあ狙うはディンゴのみだ」照準を合わせる。「ま、気が向いたらお前も捕まえてやるよ」

 二頭は光のように真っ直ぐに、正面から近づいて来た。

 今だ!


 がしっ


 鈍い音──として検知された、刺激。

 照準が一瞬にして外れ、電子線は暗い夜の大気の中に飛び拡散した。

「な」なんだ? という信号すら発することができずにいた。コードイフーはただ思った、なんだ? と。


「お ま え の」


 それは検知された、といっていいほどの刺激なのかすらわからないほど、微弱な信号だった。

「ぶ ん し」

 風、というほどにも力のない大気の揺れが、検知帯にそろりと触れてくるようだった。

「私……の」わけがわからないまま、必死で確認を試みる。「分、子……?」どういうわけか、今自分の体が通常とは異なっていることだけが如実にわかる。「き、さま……だ、れ、……だ」

「へ ん な」弱々しい風、というか囁き声、というかは、答えなかった。「あ じ」

「な、に……」一方コードイフーは、自分の状態がみるみる常軌を逸してゆくのをただ自覚しつづけることしかできずにいた。

 自分が、崩れて行く──

 最期の時になってようやく、そうなのだと知った。

 こいつは、この風ほども力のない囁き声を送って来る謎の存在は、自分を、喰っている。

 自分を構成する分子を、変な味だと言いつつむしゃむしゃ貪っていやがるのだ。

 完全に理解したところで、コードイフーはいなくなった。


          ◇◆◇


「うわっ」

「おっ」

 ディンゴとオリュクスは同時に叫び急停止した。

「どもーっす」突然目の前に、第三の動物が立ちはだかってきたからだ。「こんな夜中に、元気っすねー」

「だ」誰? とオリュクスは訊こうとしたがそれは阻まれた。

「きさまあ!」横にいるイヌ科──まだ名前を教えてもらっていなかったが、コスたちによると恐らくディンゴ──が、怒りの声を爆発させたからだ。「アカギツネえ!」

「やだなあもう、こんな夜中に声でかすぎっすよー」アカギツネと呼ばれた動物は笑いながら肩をすくめた。「あのですねー」

「うるさあい!」ディンゴは怒鳴り、アカギツネに飛びかかろうとした。

「ちょっとー」アカギツネはぴょんと一歩退く。「噛まないでくださいよー、わかってらっしゃいますよねー?」

 ディンゴは一瞬はっと息を呑み動きを止めたが、姿勢を低くしてぐるるるる、と低く唸り続けた。「何の用だ、このウィルスポーターが」

「報告っすよー」アカギツネはまったく怖れる風でもなく、軽い感じで話しかけてきた。「今ね、いましたよー、タイム・クルセイダーズが」

「えっ」

「なんだって!」最初に叫んだのは、殻の中にいるコスとキオスだった。

「レイヴン!」二頭は揃って大声を挙げた。

「レイヴン?」本人が覚醒する前に、アカギツネがそう訊き返し「君が?」とオリュクスに向かって確認した。

「ううん」オリュクスは首を振った。「ぼくはオリュクス」

「ど、どうしたんだい? 皆」レイヴンは目覚めるなり驚きを隠せなかった。「あれ、あ、どうも、今晩は──ええとあなたは、おお、ディンゴさん! そして、え、ええっ、アカギツネさん?」めくるめく確認作業が行われるのだった。

「むう」ディンゴは小さくうなずき、

「どもーっす、あなたがレイヴン氏っすかー」アカギツネはやはり軽い感じで挨拶した。

「一体、どうなってるんだ?」レイヴンはそこにいる全員を次々に見回して訊いた。「この会議は一体?」

「ギルドだよ!」

「双葉がいたって!」コスとキオスが同時に叫び報告する。

「な」レイヴンは困惑のピークに昇りつめた。「なんだって?」

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