6-11.やるべきこと
路地裏、燃えるような夕陽が差し込んでいる。二人は影を長く引きながら、歩みを早めた。
ニケラスが悔しげな表情を浮かべ、口を開く。
「俺は半地下を調べる。できることをするよ」
「……地下道はもう」
ネイメアが言いかけた時、
「――待って!!」
背後から響く叫びに、二人は弾かれたように振り返った。
「アルバく……」
「行くよ……!」
走って追いかけてきたのだろう、アルバの息が上がっていた。
「行くよ、行くしかないんだ……!だってそうだよね?」
アルバは息を吸って顔を上げた。
「こんな中途半端なままで、何も知らないふりして、なかったふうに生きていくなんて。ボクにはもう、できなくなったんだ……!」
ニケラスは顔を綻ばせ、ネイメアの顔を見やった。
陽光を背負って、影のかかった表情をしていた。泣きたいのを堪えるような、目を逸らすのを堪えるような。
ニケラスにはまるで不可解なことだった。
*
「どういうつもり?」
真夜中、月光を背負う少女。路地裏でネイメアを睨め付けた。
「クオリア……」
「なんで救世主を殺さなかったのよ……!?何度もチャンスはあった!なのになぜ!?」
クオリアは背中に隠した短剣を意識した。いつでも彼を、後ろから突き刺せるように。
「……猶予だ」
「はあ!?」
「まだ殺さない。あれは良くも悪くも子供で、力を持て余したクソガキだ。まだ使える。使いようがある」
クオリアは片目をひそめて挑発した。
「使う〜?それってなんなわけ!半端な使いようじゃマーシャリーは納得しないわよ!!」
唯一の家族を救世主に殺されたあの魔女が許すはずがない。
あの魔女にとってネイメアが、どれだけ眩しく神に等しい存在だとしてもだ。
二人の目が合う。
ネイメアの冷めた目つき。クオリアは思わず短剣の柄をを握り直した。
「――女帝暗殺の罪をおっかぶせる」
まるで日常会話のような口ぶりだった。その目には一点の曇りもない。
クオリアは一瞬呆然とした。それから、歓喜か何かもよくわからない感情に打ち震えた。
口の端が勝手に吊り上がるのを抑えきれなかった。
「……ッはは!!アンタ……!くっそやろーね!!」
「やるぞクオリア。半端な覚悟はいらない。やるべきことをやる。そのためなら、クソ野郎上等だ」
「クックッ……!!あははは!!いーわ、今回ばかりは協力してあげる!アンタに死んでもらうためには、必要なことだからね!!」
クオリアは恍惚と笑みを浮かべた。それから、
「――魔法陣は使えるわ」
言い放った。
帝王邸の魔法陣をおさえたことを、ネイメアには伏せていた。そのことを暗に明かす。
裏切りを知ったネイメアが「お前……また……」と呆れるのに、クオリアは食い気味に話し出した。
「いいじゃない。アンタだけは宮殿に簡単に侵入できる。ご自慢の体質でね……どうせ一人で行くつもりだったんでしょ?でも、ま……そうね、今回はこのあたしが裏方に回ってあげる――だけど、調子に乗らないで?」
短剣で首を掻き切る動作をしてみせた。
「アンタは死んで、これは変わらないから。覚えていなさいよ」
スカートの裾を翻し、踵を返す。
「わかってる。約束だ」
クオリアは舌打ちした。




