TSオオカミ少女は親友君に信じてほしい ~毎年4/1に親友に「女の子になっちゃったドッキリ」を仕掛けてたボクが今年は本当に女の子になっちゃったのに今までの行いのせいで親友に全く信じてもらえない話~
エイプリルフールネタです。2023年にpixivに投稿していたものを大幅に加筆修正したものになります。
まったりお読みください。
プルルルルルル、プルルルルルル
「…………?……っ……今何時だ……?」
時計を見ると、朝の6時。
電話をするのには些か非常識的な時間の、1本の電話によって、俺、大山拓海は叩き起こされた。
「一体誰だよ、こんな時間に……」
そう不機嫌な声で呟きながら、俺はスマートフォンの画面に表示された発信相手を確認する。
「……澪?」
電話の相手は佐倉澪。俺の親友である。幾分か、早朝の電話に対する不機嫌さも引っ込んでいき、画面を手にして「受話」をタップする。
『お、おはよ。もしもし……あのさ……ちょっと今いい?』
そう言って此方を恐る恐る伺う澪のまるで不安と怯えが混ざったような声。いつもと違う声音に、俺は緊張する。
親友であるあいつは寝起きの俺の機嫌が悪いことを知っている。それでも電話をしてきた、ということは、それ相応の「何か」があったのではないか。俺はそう考えに至り、澪に問いかける。
『どうしたんだ?こんな朝っぱらから。何かあったのか……?俺は惰眠を貪るのに忙しくてな……簡潔に頼む』
『ありがとう、あのさ、ちょっと大変なことになっててね?』
『ボク、、、朝起きたら女の子になってたんだけど、、、』
……
…………
………………
一体どういうことだ。
寝起きの回らない頭を無理やりフル回転させて考える。
そして、ふと目についた。
部屋の端に掛けてある、壁掛けのデジタル時計。
それが指している今日の日付。
4/1
『…………拓海?』
『あーはいはいそういうことね理解した、マジかーソレハタイヘンダナー』
『……ねぇ、なんか反応淡白じゃない?親友がいきなり女の子になってるんだよ?朝おんだよ?大変なんだよ?もうちょっとなんか反応あるでしょ!』
そう言ってキャンキャンと喚きたてる澪。
何時もよりなんだか少し高いような、いつも通り可愛い声に騙されてはいけない。
『ねえっ!なんとか言ってよっ!』
とは言ってもなぁ……もう4回目だし。
俺は溜息をついた。
そういえば毎年のことであったのを、今日の日付と共に失念していた俺も悪いかもしれない。
だかしかし毎年同じことを繰り返してくる方も大概である。最初緊張して損したかもしれない。
『よんかいめ?なにが??』
『澪、今日の日付読めるか』
『4月1日って……あぁ!?』
『そう。4月1日。エイプリルフール。つまりはそういうことなんだろ?』
『いや……うん……そっか……そう思われても仕方ないのか……?』
……こいつは何を言っているのだろうか。わかりきったくせに。
『悪いんだがこっちももう慣れてしまってな。
毎年毎年エイプリルフールに
「親友が突然TSして女の子になってたらどうする!?」
という悪質なドッキリを仕掛けてくる
ど こ か の 誰 か さ ん のせいで。』
つまりは、こういうことだ。全てはエイプリルフールの嘘でありドッキリ。緊張して電話を取ったのも、なんだか損した気分になる。
『……しかもパッと見では見分けがつかない完璧な女装ときた。女装した澪、めちゃくちゃかわいいからな。正直1回目は本当に騙されたよ。』
そう言う俺の言葉に、澪は「ふぇっ!?///」と照れた様な声を漏らす。可愛いなおい。
『ボクがめちゃくちゃかわいい……えへへ……
……じゃなくて!!今回は本当に女の子になっちゃったの!ドッキリじゃなくて!ほ、ほら、ボク声とか、ふだんとちょっと違うでしょっ!?ボクにも何がなんだかわかんないんだから!信じてよっ!』
ほう?今年はそういう設定できたか。
昨年、3回目をやってきたときにはもうさすがに慣れてしまってきたので、どうせ止めてもやるんだろうし、いい加減マンネリしてるんだから少しは捻りを加えた方がいいとは言った記憶があるが、本当に少しは考えてきたようだ。
『だーかーらー!!違うんだってば!!ほんとうに女の子になっちゃったの!とりあえず1回ボクん家に来てよ!!』
『はいはい、わかったわかった。後でいくよ。今年の女装はかなり自信があるみたいだからな。とくと拝ませてもらおうか』
『だから違うって言ってるのに……とりあえず来てね!』
そう言って通話を切る澪。やれやれだぜ。
今年は少しは期待出来るかもしれないと少し胸を踊らせる。
しかし俺は結局お布団の温もりの誘惑に負け、悠々と二度寝を敢行したのであった。
◆
「遅いっ……」
ボク、佐倉澪は親友、大山拓海の来訪を待ち侘びていた。待てど暮らせど、時間だけが過ぎていく。
最初にボク自身のことを少し話すべきだろう。確かに、ボクは元々小柄で華奢だったし、可愛い。ボク自身が狙ってやったわけじゃないんだけどいわゆる「男の娘」というやつなのだろう。
次に、拓海の言っていた、ドッキリについて説明……いや、釈明をしなければいけない。違うの。あれは、一瞬のサービスというか。
……最初はほんの出来心だった。ボクってば可愛いから、女装をしたら完全に女の子にしか見えない。それを利用して、「エイプリルフールの嘘」として、「ボク女になっちゃった」をしたのだ。
最初の拓海の驚きようと、心配しようと、そしてなによりボクに対して、そういう「情」を含んだような熱のある視線を向けてきたことがおもしろくて、たのしくて、すごくドキドキして。この気持ちをまた味わいたくて、一昨年も、昨年も、同じことをした。なんなら今年もする予定だった。
異変が起きたのは今朝だった。少し早めに目が覚めて、トイレに行きたかったので眠気まなこで半分寝たままトイレに行ったのだ。
そうしたら、無かった。例の、「アレ」がである。
緊急事態だった。一瞬で目が覚めた。
そして焦って全身を確認するも、ボクの身体は完全に女の子になっていたのだ。
ボクは途端に不安になった。そりゃそうだ、いきなり自分の身体が変わってしまったんだから。
不安で、怯えて、小動物のようにカタカタして。それがまるでまた女の子らしくて。
そうして頭の中が真っ白になった中で、いちばん最初に、どうにか連絡を取ろうと思い至ったのがボクの親友、拓海だったわけなんだけれども。
やっぱりどうも、今回もドッキリの一環だと思われたみたいで。あいつはなかなかやってこない。この調子だと二度寝をかましてるのだろう。
今は春休みだし、普段何時まで寝たって拓海の勝手なんだろうけど、今日ばかりは助けて欲しかったのに……。
時計の針は既に10時を回っている。いい加減そろそろ限界だ。というかさっきから不安すぎて情緒がやばい。なにもしてないのにいきなり涙が止まらなくなったりしてる。
とりあえず、もう一回。
拓海に電話をかけようとした、そのとき。
なにやら玄関で物音がする。
安堵からボクの顔はぱぁぁっと明るくなり、そのあと遅すぎる来訪に不満を持って少しむくれた顔をつくって、ボクは玄関に飛び込んで拓海を出迎えた。
「おーい来たぞー」
「あー!拓海やっと来たぁ!遅いっ!!」
拓海ののほほんとした、そしてすっきりした顔。やっぱりあのあと二度寝をしていたんだろう。ボクがこんなに大変なのに、まったく酷いやつである。
「入るぞーって、おぉっ……本当に女の子しか見えない。すごいな」
「本当に女の子になっちゃったからね?」
「どうやったらここまでできるんだ?」
「TSしたからじゃないですかね?」
ぐぬぬ……やっぱり簡単には信じてくれないみたい。そりゃあ、非科学的で現実味のないおとぎ話よりも、昨年一昨年その前とボクが実績にしてしまった「嘘である」と思った方が楽に決まってるだろう。
あ、ちなみにTSとは性別が変わっちゃうことの略称である。……さすがにみんなわかるか。
「この髪もすごいな……?ウィッグか?めっちゃさらさらだし全く違和感がない……」
「そりゃ地毛だからね?生えてるからね?」
僕の髪は元々ボブだったのに、朝起きたら背中まで伸びててびっくりした。心做しか、いつもよりさらさらで線が細くふわふわしてるように感じる。
「声もめちゃくちゃかわいいし……カワボってやつか。そういえば練習してたもんな。セルフで萌え声出して悶えてたりしてたっけ」
「待ってなんで知ってるの、えっ、なんで」
ボクってば可愛いから、せっかくだしカワイイ声も出してみようと一時期練習してたことがあった。萌え萌えきゅーん♡とか言って、結構上手くできてたと思うんだけど、まさかそれが聞かれてるとは夢にも思わなんで。恥ずかしくて顔から湯気が出てきそう。
「この胸の膨らみも……パッドにしてはすごく自然だな……」
「そりゃ本当にあるからね」
そう、おっ○い。お○ぱいである。朝起きたボクの胸部には、慎ましくもそこに存在を主張するふたつの丘がそびえ立っていたのだ!
ちなみにちょっとだけ触ってみたけど、あんまり気持ちよくなかった。むしろ痛かった。まぁ、現実はそんなもんだよね。
「なぁ、触ってみてもいいか?」
「はあ!?」
こいつは一体何を言っているのか。ボクがボクで、拓海だから許すけど、その発言はいわゆる「セクハラ」というやつなのでは?
それに触るのならボクもさっきやった。そのうえでどうとも感じなかったのだから、それまでである。わざわざ触らせる理由なんて―――いや、あるかも?
「……これでボクの言ってることが本当だってわかってくれるんだったら……ボクの、触っても、い、いいよ……?」
そう言って少し胸を張って拓海に向き直るボク。え、まって、たいむ、これ、すっごいドキドキしちゃう!?
「わかった。では失礼して」
さわさわ……ふにふに……もみもみ……
「おー柔らかい。すごいなこれ」
拓海の大きくてゴツい、男の子だなぁって手が、ボクのおっ○いをまさぐる。
「ちょっと、んっ、長いしっ!触り方なんかえろいっ!」
「いいじゃないか減るもんじゃないし。それにどうせ偽乳だろ……」
ホンモノだって、言ってるのにっ!!ボクは半分涙目になりながらも親友のことを上目遣いで睨む。うるうるしてるせいであんまり威圧効果はなかった。
「ん?ここは……」
「違うって言ってんだろっ、ちょっ、おま、そこっ、さわんなって、んんっ///!?」
どどど、どこ触ってんのこいつ!?!?
……拓海が、ボクの、おっ○いの、先端の、出っ張ってるところを触ったせいで、ボクは変な声を出してしまう。ドキドキが止まらない。心臓がバクバクいってる。身体が熱い。
これ、ボク、ダメになっちゃうやつなのでは……!?
「え、なにその声。お前、そんな声も出せたのか。すごいな、まるで本当に感じてるみたいだ」
「本当に感じてるんだってばっっつ……!!
いい加減揉むのをやめろっばかぁっっ……!!」
この期に及んでまだ認めんか!この変態!えっち!すけべ!
「うーむ……どういうことだ……?まるでホンモノのおっ○いだぞ……?」
ホンモノだって言ってるのに……。ボク悲しくなってきちゃったよ?泣くよ?わんわんと。いいの?
「うーむ、でもあれは完全におっ○いがついてるとしか思えんのだがな……」
やっとわかってくれた!ほら、認めるんだ。ボクは今女の子なんだよ。
「いやいや、それはありえないはずだ。なにかトリックがあるはず」
ないって言ってるのに!なんでそんなに意地を張ってるのっ!
「そんなこと言われてもなぁ」
それは!こっちの!セリフだよ!なんでここまでしてもわかってくれないのさ!
「だってお前前科あるし……しかも3犯」
うぐっ……
それを言われてしまうと、ボクが悪いみたいになっちゃうじゃないか。いやまあ、僕が悪いんだけどさ。
「じゃあどうしたら信じてくれるんだよ……」
「そうだなぁ……ち○こでも確認するか?」
さいてーだよこの男!
……でも言ったね??やるよ!!あーいいよ!
やってやるよ!最終手段だっけどね!!拓海のあまりの鈍感さにびっくりだよ!!
これで絶対認めてね!?
ボクのボクが無くなった様をよく見るがいいさ!
ガバッ!
ボクは履いていた、少し緩くなった、パジャマのズボンとぱんつを一気に下ろした!
拓海がそれを見て何かを言おうとして―――絶句した。
「……おい嘘だろ……本当に、ない……」
「だから言ったじゃんっ!」
うぅ……改めて今の状況を客観的に俯瞰してみてみると、美少女が下半身丸出しになって、それをガタイのいい男に凝視されている、ということで……すっっっごく恥ずかしくなってくる。
「ねぇ、もういいよね?確認したよね?ボク女の子だよね?履くよ!」
「あーちょっとまだわからんなーそのままでいいぞー」
そう言ってボクの、「物」が無いなった股間を凝視する拓海。それを認識したボクは、顔を真っ赤にして、耐えられなくて、思いつく限りの罵倒を拓海に浴びせる。
「拓海のへんたい!ばか!すけべ!!えっち!!さいてー!!ばかぁっつ!!!!」
「痛ぁっ!?!?」
ボクは拓海をひっぱたいた。 いい音がした。
◇
「それにしてもなんで女の子になってるんだよ」
「そんなのボクだって知りたいよ……」
あれから少し時間が経って。お互いに頭と顔を冷やしたところで、ボクの部屋で向き直る。
イスなどというシャレたものはこの部屋には無いので、ボクのベットに腰かけて我慢してもらっていた。
「なにか心当たりとか」
「ない(キッパリ)」
そんな顔されても、本当に無いのだから、そういうしかない。
「だよなぁ……朝起きたらもう既にこうなってたんだよな?なんか違和感とかなかったのか?昨日の夜とか」
昨日の夜はなにをしてたっけ。うーん、特に変なことはしてなかったはずだ。いつも通り、明日に備えて女装する道具と服を準備して、ご飯を食べてお風呂に入って普通に寝ただけである。
「そうか……ってやっぱり今年もやる気だったのかよ!」
「そりゃぁ、まぁ。てへ」
だって拓海の反応がおもしろいし。女装してくとなんだかやけにいつもより優しくしてくれるし。
それに拓海だって、ボクの格好をみてたのしんでいたのだからお互い様なのでは。いや、むしろ拓海のことだ、そのあとの、夜のオカズにもきっとボクのことを登場させるんだ。そして消費する。そうに違いない。そんなことを考えると、すごくドキドキする。……まぁ拓海だったらいいけど。拓海は優しいから、乱暴なことはしなさそうだし。
そう思えば、むしろこちらがサービスしてあげてるんだと言えるのではないか。感謝していただきたい。
「こんにゃろ……しっかしいきなり性別が変わるなんてあるわけ……いや、ないわけでもないか」
そう言っておもむろにスマートフォンを取りだしてなにやら検索をはじめる拓海。
やがてある記事にたどり着いたのか、少しだけスクロールしたあと画面をこちらに向けて見せてくる。
「ほら、前ニュースでやってただろ?TS病ってやつなのか?」
「あー、たしかにそれなのかも!でもたしかそれって……」
ボクは拓海のスマートフォンの画面を指でなぞって操作する。下にスクロールしていくと、今わかっているそのものの詳しい情報が載っていたので、2人で凝視する。
専門用語が沢山あってぜんぶはわかんなかったけど、とりあえず命の危険というわけじゃないみたい。あと、気になることといえば、TS病発症者は精神についても女性化する、という記述であったか。
「100万人に1人の割合なんだろ?そうそうなることなんてないと思っていたが……」
「宝くじの1等が2000万人に1人とかなんでしょ?それに比べれば結局多いんじゃない?」
100万人に1人なら、単純計算でも日本だけで120人は発症者がいるということだ。ボクだけじゃない。まだまだ謎だらけの病なんだとしても、世間に認知されていることがわかっただけでだいぶ違う。安堵から気が抜ける。
「ソシャゲのUR引いたみたいなもんかもね」
「なんでいきなりそんなに楽しそうなんだよ」
だって安心したのだ。今朝は朝から拓海が来るまでずっと怖くて、不安に押しつぶされそうで、もしかしたらボクは今日死ぬんじゃないかなんて真面目に考えていたのだ。気が抜けてしまうのも仕方ないであろう。そう考えれば混乱して恐怖で震えるボクをほおっておいて二度寝をかました拓海は万死に値するのでは……?
「……それにしても、なんというか。意外と順応してるよな。普通男が女になったら錯乱して発狂くらいしても可笑しくないと思うが」
そんなもんなのだろうか。まあ、今まで慣れ親しんだ身体がいきなり別物に変貌していたらそうなるに決まっているのかもしれない。
そう思うとボクは細かいパーツごとでは変わりはしたけど、なんとなく、全体的な雰囲気としてはあまり変わりのない気もする。
「ほら、ボクってモトからかわいいじゃん?だからあんまり変化が少なくて助かってるのかも」
「確かに、それは一理あるかもしれないな。
160センチにも満たない身長、小柄で華奢な身体、女顔……なんなら今とほぼ変わってなくないか?」
ボク部屋の隅にある姿見の前に立つ。たしかに、そう言われてみればそうかもしれない。
「殆どいつもの澪じゃないか」
おっ○いは生えてるし、下の物は消えたけど。
確かにそこにはちゃんと「ボク」がいた。
「まー正直言って女装したお前となら正直全く見分けつかんな」
そんなことを言って笑う拓海。つられてボクも笑う。
「えー、そこは見分けろよーボクのこといちばん知ってるの拓だろー?ぶーぶー」
「んな無茶な」
あーやっぱり、拓海といるのはたのしい。そしてなにより心地いい。もちろん拓海だって完壁なんかじゃない、むしろえぇ……って思うことだっていっぱいある。だけど、それを経てしても、親友といえるくらいには、お互いに信頼出来る関係だ。
「ほらー、それに今のボクの方が本当に女の子になっちゃったおかげで普段の5割増で美少女度が高いんだからさー、もっとかわいいって言えよ?
かわいいかわいいみおちゃんを崇め奉れ??」
そう言ってまたボクは拓海に自分の身体を押し付けながら、揶揄う。拓海がドキドキすればいいなあと思って。拓海はこういう、ちょっとあざといのが好きなのもボクは知っているのだ。
……ボクはなんで拓海にドキドキしてもらいたいって思ったんだっけ。
……まぁいっか。
「わかった、わかったよ……離れろ暑いっ!」
そう言ってくっついてるボクをひっぺがすと、ボクを優しくベッドに下ろす拓海。ボクがちょこんと座っているところに向かって、やけに真面目に、それでいて甘い顔をして、熱の篭った視線で拓海はボクと向かい合う。
「あー、ん、んんっ
澪、かわいいぞ。すごくかわいい。」
「ふぇっ!?」
変な声が出た。続く言葉が出てこない。顔が熱い。いまの、たったひとことなのに。たった、それだけで。とりあえず、なにか。なにかコトバを返さなければ。
「……そ、そっか、そうだよね!ボクかわいいもんね!」
……落ち着け。落ち着けボク。これはボクがいつも自分で言っていることだ。
だから落ち着けって、そんなにバクバクするなよ、心臓。
「あぁ。かわいい。すごくかわいい」
「そ、そんな真正面から来られるとめちゃくちゃ恥ずかしいんだけど……」
ああもう。顔がこんなに熱いのも、心音がさっきからバクバクバクバク煩いのも、ぜんぶ拓海の、拓海の言葉のせいだ。
ボクは拓海の方をむーっとにらむ。ボクがそう言えって言ったのに。拓海は完全なとばっちりだ。そんなことボクだってわかってる。
「お前がやれって言ってんだろうが……」
「そ、そうだけどさぁ……」
「どうした澪、顔真っ赤だぞ」
「う、うるさいっ!拓海のばかぁっ!」
「ばかってなんだよ……」
「ね、ねぇ、あのさ、今のって、ホント?嘘じゃない……?」
ボクは思わず拓海に確認してしまう。これ以上言われたら、ボクは変になってしまいそうで。後戻り出来なくなってしまいそうで。嘘なら嘘と、ドッキリならドッキリと、エイプリルフールの冗談だったんだと言って欲しい。
今ならまだ、悲しいけど、何とかボクはそれを受け入れられるだろう。でもこの先に進んでしまったら?ボクはきっとダメになる、そんな予感がして。怖くなって。
なのに、拓海のこたえは、ボクの期待していたもので。
「俺が今までそんな悪質な嘘をついたことあるか」
「ないけど……」
「そういうことだよ」
「そ、そっかぁ……そうだよね。……ね、もう1回言ってくれない?」
「ああ。澪、かわいいぞ」
「かわいいぞ」たった5文字のその音で、ボクは甘く痺れるような感覚に浸ってしまう。ドキドキして、顔が熱いのはもう言うまでもないだろう。
―――だからこそ、少し不安になる。
ダメになっちゃったボクを、果たして拓海がどう思うか。
「そうだ。俺にもなにか言ってくれよ」
「……拓海に?」
「あぁ。俺ばっか言っててもフェアじゃないだろ?なんか褒めてくれよ」
拓海のいいところ……?そんなのいっぱいある。いっぱいありすぎて、どれを言おうかわからなくなるぐらいに。ここまで多くの拓海を知っているのはボクだけだろう。
「拓海かっこいい。いつもなんだかんだ言いながらもボクのことを助けてくれて、すっごい頼りになる。ありがと。好き」
「お、おう……ありがとな!」
勢いで「好き」なんて言ってしまった。拓海気にしてないかな、嫌だって思われてたらどうしよう。一瞬でこれに至り、拓海の方を向き直るも、本人は満更でもなさそうな顔をしていてほっと一息つく。不安のもやもやが少し晴れるような気がする。今なら大丈夫なのではないか。
いっそのこと、本人に聞いてしまおうか。
「ねぇ、拓海?ボクの事って、どう思う……?」
「……どうっていうと?」
「ボクのこと、かわいいって、言ってくれたじゃん……?拓海的に見て、ボクの容姿って、拓海にとって、どうなのかなぁ……って……」
要領を得ない、日本語も成立していないボクの言葉。それに、しかし拓海は受け取って、ボクの求めるこたえをくれる。
「そうだな……嫌な気持ちになったりしたらすまない。
……正直言って澪、めちゃくちゃ俺のタイプなんだよな」
「ふぇ……そ、そうなんだ……あ、ならないよ大丈夫だよ!?……むしろ、嬉しいかも。
ってことはもしかして、ボクが男の頃から?ボクが女装したときって妙に優しくしてくれたのも、そういうこと?」
「あー、そうだなぁ……女装した澪は今思えばめっちゃタイプかもしれんわ。
今までは澪は男子だという先入観があったのかもしれない。澪は俺なんかを好きになるわけが無いなんて思っていたのかもしれない。でもそれも、さっき澪を見て崩れ去ったよ
……俺は、澪が好きだ」
「へぇ……そうなんだ……えへへ///」
「……今のを聞いて幻滅したか?」
「ふぇ?……いや、違うの、あの、そうじゃなくてね?ボクも拓海のこと、好き。大好きっ!
……拓海にそう言われると、なんかすごくドキドキしちゃって、胸の奥があたたかくなって、なんかやばい」
「ほう……
澪、かわいいぞ」
「ふ、ふいうちっ!?」
「どうだ、今のでさっきのそれは強まったか?」
「う、うん……心臓どきどきいってる。胸がいっぱいでちょっとくるしい」
「そうか……なぁ、俺たち恋人にならないか?いや、違うな
澪、俺と恋人になってくれ」
「ふぇぇ!?!?」
「いや、ほらだって俺澪めちゃくちゃタイプだし、俺たちの間柄なら大体の事はお互いにわかってるし。
それに……澪も嫌じゃないんだろ?」
「う……うん。ボクも、嬉しい。拓海となら、上手くやっていけると思う。」
「じゃあこれからもよろしくな、澪」
「よ、よろしくお願いします?……でいいのかな。ちょっと恥ずかしいかも。……これから、これからもよろしくね、拓海」
「付き合うとか言っておいてあれなんだが……澪的には大丈夫なのか?男と付き合うとか」
「う、うん……なんでかわからないんだけど、あんまり嫌じゃないかも……
それに、拓海なら素直に好きって思えるから……そっか、この気持ちって、「好き」なんだね」
「そうか……ありがとな。俺も澪のことが好きだよ」
「えへへ……ボクも拓海のこと好きだよっ」
「ありがとな。いい子だ」
「……ふ、ふぇ!?」
ボクは拓海にぎゅっと抱きしめられる。多幸感が全身を包み込んでなんだかおかしくなってしまいそうだ。
「可愛いな」
「えへへ……もっとして」
そう言いながら拓海はボク頭を撫でてくる。いわゆる「なでなで」というやつなんだろう。心がなにかきゅーんとして、それに反応して身体もビクッと震える。
あっ、だめ。ボクなでなですき。だいすきかも。もっと欲しくなっちゃう。
「あぁ。いいぞ?ほら」
「こ、声に出てたの……!?ふわぁ……」
「ほら、これが好きなんだろ?」
「う、うん……ボクこれ好き……」
「いい子だ」
「えへへ……」
「澪、好きだぞ」
「ボクも拓海好き……えへへ……」
それからしばらくの間、ボクと拓海はお互いに引っ付いて剥がれない。ボクはもう、頭がおかしくなってしまいそうで、脳がオーバーヒートして湯気を上げていた。
……なのに拓海はまだ追い打ちをかけてくる。
「……なぁ、キスしてみてもいいか?」
「キス……?……したいの?」
「あぁ。したい。めっちゃしたい」
「うーん、ちょっと待って」
もう頭はくらくらでうまくはたらかない。でも、拓海が、だいすきなボクの拓海が、このボクとちゅーをしたいご所望なのだ。
これをしたら、ほんとうはとっくにもう手遅れだろうけど、本当のほんとうに、今までの、元には戻れなくなる。そんな予感がひしひしとする。ボクも「覚悟」をきめなくては。ボクが変わっちゃう覚悟。拓海に変えられちゃう覚悟。
……なんて、とっくのむかしにできてるんだけどね。
「いーよ」
「ありがとう。それじゃあ失礼して」
「ふ、ふぇっ……っっつ!!!」
拓海の顔がボクに近づいて。近すぎるぐらいまで近づいて。
「んっ…………んんっ…………///」
そして、ボクたちは重なった。
……チュパ…………チュパ…………///♡
最初は啄むようだった口付けが、次第にお互いを絡め合った深いものに変化する。
ボクがやり方を知っているわけもなく、拓海にされるがまま。
ボクも必死にやってるんだけど、それ以上にふわふわして、ぞわぞわして、顔が赤くて心臓が煩いのはいつも通りで、余裕が持てない。
不意になにかが登りつめていくような感覚。こわくて拓海に回した手をぎゅっと握る。
頭の中が真っ白になって、ふわふわ浮くような感覚になって。少し遅れて痙攣にも似た震えがボクの身体を襲う。
「…………ぷはぁ……柔らかかった……
お、おい……?大丈夫か?」
「ふぁ……い、いまのなに……???ボクへんだった……?」
「まさかはじめてでキスだけで……いや、初めてだからこそか?」
どういうこと……?
「それはな………………って訳なんだ」
「ふぇっ……///」
頭から蒸気を噴射しそうな勢いだ。ボクの顔は今真っ赤なんだろう。
まさか……ボクが、(自主規制)で(自主規制)なのに(自主規制)してたなんて……。
「だめだ……澪がかわいすぎる……」
当の本人である拓海といえば、顔に手を当ててそんなことを呟いている。よく見れば拓海の顔も赤くほでっていて。
なぁんだ……ボクだけじゃなかったんだね。
そんなことに嬉しくなっている僕に、拓海が耳元で、ひそひそ話をするように囁く。この部屋にはボクたちしかいないんだからそんな事しなくても本当はいいのだけど、拓海に乗ってひそひそ声で返す。
「……なぁ、澪。今日もご両親は不在か?」
「う、うん。なんか泊まりでの仕事が多くてしばらくは帰って来れそうにないってよ……そ、それって……!?」
「あぁ……ダメか?」
「う、ううん、だめ……じゃないけど……
ボク女の子がどうするのかなんて知らないよ……?……そ、それでもいいの……?」
「それは俺に任せてくれ。澪といつかこんな日が来るんじゃないかって、準備だけはしてきたんだよ。イメージトレーニングも万全だ。もし嫌だったり痛かったりしたら言ってくれ。無理はさせたくない」
「や……優しくしてね……?」
「あぁ。勿論だ」
「拓海すき」
「俺も澪のことが大好きだよ」
「えへへ……」
◆
窓の外の、夕焼け空を見ていた。
次第に茜色に染まるその様子に、先程までの、俺と、澪との交わりを回想していた。
澪は清純で、精錬で、そして無知だった。
そんな澪を、俺色に染め上げるというのは、果てない興奮と、多幸感と、征服感と。
なにより澪が体をビクつかせながら俺の名前を呼んで「好き」と言うのはこの上なく扇情的で、そして幸福だった。
この世に神がいるのであれば是非感謝したい。
疲れ果てて、ベッドですやすやと寝ている澪の横顔に垂れた髪を退かしつつ頬を擦る。
俺の指が擽ったいのか、眠りながら無意識にその原因であろう(正解)俺の手を取る。
俺の手だとわかって安心したのか、もうイタズラさせないぞという意味なのか。澪の手は俺の手を握って離さなかった。
◆
「ママー!きょうって、なんのひだかしってるー!?」
家の中に快活な子どもの声が響く。
洗濯物を畳んでいたその子どもの母親は、その手を止めると、笑みを浮かべてその子どもにこたえた。
「えー、なんだろ〜ママわからないな〜」
保育園か、おともだち経由で教えてもらったのだろうか。子どもは得意げにこう話す。
「きょうははエイプリルフールって言ってね、!ウソをついてもいいんだって〜!!」
その子どもの母親はそうなんだぁと驚いた反応をしつつも、つけ加えて言う。
「嘘をついたり、ドッキリをするのはいいけど、ほんとうにぜったい嘘ってわかるものにしようか」
「え〜なんで〜〜!?」
「それはね、、、」
母親は少し悪戯っぽい笑みを浮かべて言う。
父親は苦笑いをしながらコーヒーを啜った。
「その嘘が、ほんとうになっちゃったときに、信じてもらえないからだよ」と。
感想と評価★★★★★いただけますと作者が泣いて喜ぶのでよければ。