エピローグ:「任務完遂、そして別れの時」
あれから、また数週間の時が経過。
『邪法』を頼りに軍閥化していた帝国軍の各軍団は、しかし『邪法』の消失に伴い急速にその力を失い。
まだ帝国の魔の手に飲まれていなかった国々を軸に、そして再び立ち上がった各国が参加して結成された連合軍の手で。合わせて自衛隊各隊の助力もあり。
日を追うごとに勢いを失い、各所で無力化、そして膨大な数の投降者を出すに至り。
先日ついに、帝国で唯一生存した皇族の第二皇女グリュツリスを筆頭者に。全軍閥からの降伏の合意が成され。
ここにガリバンデュル大帝国は正式に降伏。
この異世界の地を飲み。そして地球世界をも脅かしたかもしれないこの動乱は、終結を迎えた。
「――本当に……帰られてしまうのですか……」
「それ以外無い、接続が閉じてしまうからな」
場所は、地球日本とこの異世界を結んだ、鉄道トンネル施設の一角一点。
事の始まりの場所。
長大な貨物列車の編成が積み荷を満載にして、少し急く様子で日本側へ走っていくのを横目に見ながら。
相対して言葉を交わす、会生とミューヘルマの姿があった。
動乱、戦争の終結から間髪入れずに。
また再び、政府要人から自衛隊警察など各機関の上層の者。また一方であらゆる組織の末端の者、そして一個人まで様々な者が。
地球日本が異世界と接続した日と同じように。
不思議な空間に導かれた、夢枕にその〝人物〟が立った。等々表現は個々によってやはり違ったが、共通の体験をする。
人々は異質な空間にて、作業服と白衣を纏った、異質な人物と相対し。
また知らせを受けた。
曰く――今より定めた期間をもって、異世界との接続を閉じる、と。
異世界よりの侵略の脅威。『邪法』を手にした大帝国は討たれ、その危機は去った。
これ以上は、地球と異世界の接続を継続しておく理由は無い。
だから設けた猶予期間の内に、異世界へ展開した全てを日本へ撤収させろと言うのだ。
唐突かつ一方的なそれに、日本、そして地球世界は再び少なからずの困惑混乱に陥り。なにより不服が数多上がった。
動乱、脅威が去り。地球側の多くの者に組織、国家は、異世界の地を新たな開拓地と大なり小なり企んでいたからだ。
そして何とか異世界の接続を維持できないかと、往生際悪く方法が練られたが。
追撃の忠告のようにその作業服と白衣の人物から寄越されたのは。
撤収行動が成されなくとも、異世界に展開した勢力は強制的に転移帰還させると。
そしてしかし。その際には其方の都合、整備行動計画他を完全に無視した強引な帰還となるため、防衛構築に社会・世界の大混乱は必須だろう。
という旨。
この脅しにも近い忠告に、地球世界各国は渋々折れ、受け入れ。
こうして異世界からの順次撤収行動が始まったのであった。
そして現在。
両世界を繋ぐトンネルに鉄道路線を利用して、急ピッチで撤収作業が行われる中。
会生とミューヘルマは間もなく訪れる別れに伴っての、言葉の交わし合いを行っていたのだ。
相対する会生とミューヘルマの他。
近くでは第701編成隊の芭文に祀、観測遊撃隊の面子等が。
クユリフにエンペラル、レーシェクトにストゥル。さらには来訪したミュロンクフォングの王子や王女と、別れを惜しむ言葉を交わしている姿がある。
「それに、元よりこの世界において俺等は異分子。本来居るべきではない存在だ」
「……」
会生はさらに端的に告げるが。それに対してミューヘルマのそれは、理解はしているが大変に寂しそうだ。
「毅然とあれ。俺に堂々見せたあの時の姿はどうした」
「っ!……イジワルはお止めください……っ」
浮かぬ顔を見せるミューヘルマに。
会生は、先日の王都での戦闘の際に、ミューヘルマが覚醒の証として見せた姿を思い起こさせ。
ミューヘルマはその時のことを思い起こし、恥ずかしそうにその青い肌の頬を少し赤らめる。
「――しかし、その通りです。いつまでのいじけてはいられません……」
しかし、そこで自分に言い聞かせるようにミューヘルマは零し。毅然とした顔を作って、視線を上げる。
「アイセイ様……改めて、国を、世界を代表して感謝を!」
そして、透る声色で発し。感謝の意を向けるミューヘルマ。
「こちらこそ――旅路の同胞として感謝を」
それに会生は、挙手の敬礼を持って返した。
「会生、我々も移動指示だ!」
そこへ見計らったように、祀からの呼びかけの言葉が掛かる。
「あぁ、行く――じゃあ、元気でな」
それに端的に答え。そしてミューヘルマに別れの一言を告げる会生。
「……アイセイ様!」
「?」
しかしそこへ、ミューヘルマは何か含みのある色で呼び止めるように言葉を掛けるが。
「――……アイセイ様こそ、お元気で!」
次には言葉を選んでからの様子で、そんな別れの言葉を告げた。
「あぁ」
それに、最後までいつもの様相を崩さず。端的にしかし明確に返した会生。
それから、会生等はこれより引き上げる第701編成隊、《ひのもと》に乗車。
日本に帰るべく走り出した車輛編成上で。隊員等はずっと異世界の方向へ、見送る人々へ手を振り続け、声を張り上げ続け。
ミューヘルマたち、異世界の人々も。
編成隊の皆が見えなくなるまで、別れの手を振り、声を張り上げ続けた――
やがて、定められた期間を迎え。予告された通りに地球日本と異世界を繋ぐ接続トンネルは閉じられ。
これをもって日本国、自衛隊による異世界派遣、作戦行動は完了した――
「――なぁに、私もそこまで野暮なことはしない」
歪な空間で、その人物は優雅なまでの姿勢で零す。
「下卑た企みには抑止が必要だが――尊い絆は、繋がり続けるべきさ――」




