6-2:「終結を導く〝力〟」
雰囲気荘厳に、静かな終結です。
そんな色々を得たが、編成隊は程なくして森の最奥――凛音の神殿へと辿り着いた。
古代文明の線路軌道は、小さな終着駅のような構造物に迎えられて、そこで行き止まりとなっていた。
静かで、少しもの悲しく感じられてしまうその光景は。
まるで、この長い鋼鉄の旅路の終わりを告げるようであった。
「――終着か」
それを推察し、一言を零しながらも会生はその向こうを見る。
その向こうに見えたのは、物々しい建造物。
その全形はまさに古き遺跡のような、しかしよくよく見ればその各所に高度な建築技術の形跡が見える。
凛音の聖堂の本堂であろうそれが、建ち構え待ち受けていた。
「ここからは?」
「はい。ここよりが、私共の出番となります」
発し尋ねた会生に、横に立ち並んだミューヘルマが回答を返す。
観測遊撃隊、そしてミューヘルマたちは終着駅の建物を通り抜けて。聖堂の元へと踏み入り、その正面玄関であろう荘厳な門の前へと立った。
「お待ちを」
ハーリェが発して促してから前に出て、その門の中央に描かれた紋様のど真ん中に、手を突き出して置く。
紋様が仄かに発光したのは直後。
次には鈍い音を立てて、門はまるで大きな金庫扉の鍵でも解錠するように、大げさな変形を見せ。
そして程なくして、聖堂の内への通路を開口した。
「さぁ、ここから何が出る?」
それを見て、皮肉気に発するは調映。
「ご安心を、この先に罠に類するものなどはありません」
しかしその皮肉を、静かに促し説くはミューヘルマ。
「そもそも、用がある者の来訪すら想定していないパターンか。この廃れ具合がその証明か?」
「調映……ッ」
それを受け、しかし続け様にまた皮肉気に零す調映。それに百甘が咎める言葉を向けるが、当人はどこ吹く風だ。
「観測遊撃隊、先行調査する」
「〝装置〟の搬入をッ」
それをよそに、会生は指揮下の各員に指示し。祀は後続の第32戦闘群からの分隊に命ずる。
そして、各員は聖堂の内へと踏み入った。
内部に広がっていたのは、広く構造物の少ないホール状の空間。
薄暗く、少し廃れ朽ちた気配も見えるが。原型構造は確かに保ち、荘厳な雰囲気を確かに残していた。
そしてその中央には、円形でテーブル状の大きな台座がポツンと造り着けられている。
「マジでセキュリュティの類の気配はナシ――」
「ラスボス後の消化試合のイベントパターンだな」
内部へ踏み込み、散会展開して警戒の意識を各方へ向けながらも。皮肉気に淡々と軽口を飛ばす調映や櫛理。
「ここか?」
そんな各々をまた相手にはせず、会生は中央に造り付けられている台座の前に立つ。
「私共が確認している構造物は、ここのみです。申し訳ありません、これよりは私共も未知の領域なのです」
それに正直な所を答えるミューヘルマ。言葉の通り、これよりは彼女達にも未知の領域のようだ。
しかし。
まるでその会生等に向けて導き答えるように、台座周辺が鼓動動作を見せたのは瞬間だ。
「ッ!」
「大丈夫だ」
観測遊撃隊の各員が、即座に警戒姿勢を取るが。
しかし会生はそれが害あるものでは無いと見抜き、促す声を発する。
台座周辺には仄かな光が線となって走り、そして台座は会生の手前の一部が変形して開口。
少し凝った造形・構造の演出で出現したのは、何か円柱状の装置を収められるような、砲の尾栓のようなチャンバーであった。
「……明確だな」
「……これを利用しろと」
会生の横に同伴し立っていた芭文に、続け祀が小さく声を零す。
「装置を」
そして会生が振り向き発する。
その場へ、同行していた第32戦闘群の分隊員より、物々しいジュラルミンケースが運び込まれてきた。
置かれ、開かれたジュラルミンケースから現れたのは、70㎝長の砲弾の装薬のような、何らかの装置物体。
それこそ、この異世界の各地に向けられた建設隊編成隊の、任務の最たるもの。
大帝国が見つけ手を染めた『邪法』。それをここまでも無力化し、自衛隊を勝利に導いてきた――〝抗生ユニット〟、そのモジュール。
その広域版。広域から、いやこの異世界全域から『邪法』を消去しうる力を宿す、戦略クラスとも言えるものであった。
「会生――任せる」
「あぁ」
芭文から目配せを受け、会生はそれに端的に帰し。
見た目通り砲弾並みの重量を有する、その戦略級抗生ユニットモジュールを。しかしその備わる取っ手を利用して、片手で悠々と掴み上げた。
視線を展開開口した台座へと戻し、迷わずその口へと抗生ユニットモジュールをあてがう。
「アイセイさま――」
そこへ、隣に立っていたミューヘルマが声を掛ける。
会生はそれに言葉をする必要も無いと、視線を一度だけ向けると。
ミューヘルマは、モジュールを掴み支える会生の片手に、自身の片手を添え重ねる。
そして二人は意識する事無く、静かにしかし確かな力を同時に込め。
ここまでの全てに決着を付けるように。
抗生ユニットモジュールを、チャンバーに押し込んだ。
「――」
「――」
一瞬の静けさが走るが――それは直後には塗り替えられた。
「ッ」
「!」
セットされたモジュールが直後に見せたのは、ボワっとした、しかし力強い確かな発光――エネルギーの発現。
次にはそこから流れ溢れ出るように、台座から四方八方に眩い光の線が走っていく。
光は四方八方からドーム状の天井へと伝い上って行き。続けてはそれを支えと、起点とするように。中空に幾重にも重なる、巨大で複雑な光の紋様を投影して描く。
あちこちで複雑なリズムで発光点滅する光源に。
また凝った複雑な造りのそういう飾り物のように、交差し回転する紋様。
「これは……!」
「すっげッ」
「壮大だな」
それに百甘や舟海、調映など。各々はそれぞれ率直に浮かぶ言葉を口にする。
そんな幻想的な光景が目まぐるしく動く中。
その中心に位置する抗生ユニットモジュールが、ここまでで最もの力強い発光を宿し見せたのは直後。
そして――
「――ッ」
「――っ」
抗生ユニットは、その内より発現した〝力〟は。
巨大な、しかし決して会生等には害成す事の無い衝撃派を生み。
電子的とも聞こえる音声と、電波を可視化したような光の波を伴い。
全方位へと拡散した――
それは聖堂中を一瞬で満たし、包み。
そして聖堂を飛び出て、中心に大地の全方位へと広がり。
平野を越え、山を越え、大海を越え。
この異世界の全ての地を、包み込んだ――
この異世界の各地を、侵略の手で蝕んでいた帝国軍。
本国は陥落し、皇帝は討たれてしかしなお。各地で軍閥と化して、未だ『邪法』に縋り戦乱を広げていた帝国軍の各軍団。
しかしその『邪法』の力は、その日その時。
異世界の全ての地に広まった抗生ユニットのエネルギーによって、潰える事となった。
『邪法』を後ろ盾として、あらゆる地で振るわれていた暴虐の数々。しかしそれは、残らず消滅し、帝国軍の手により取り上げられる事となり。
それが、この異世界を脅かし蝕んだ動乱の。
一つの、終わりとなったのであった――
あと2話です。




