5,山田君の謎
5,山田君の謎
杉下が職員室で給食を食べ終え、くつろいでいるとチャイムが鳴って昼休みが始まった。山田君はすぐに現れた。おそらく給食のあいさつが終わるとすぐに走ってきたのだろう。
しばらくして三田先生も担任の2年2組の教室から戻ってきた。
「先生がどんなふうに調べたかだよね。先日、町立図書館で『徳川実記』という本を見てきたんだ。貸し出しはしてくれないから図書館内での閲覧しかできないけど、索引もあるから辞書感覚で調べ物ができるよ。福井藩の出来事を調べるには『片聾記』と『続片聾記』が有名です。福井藩の中で起きたことを日記風に毎日書いてあります。学術的に正確に記されているものとしては福井県史、永平寺町史、福井市史なども使います。ネット上にもたくさん書かれたものがありますが、正確なものであるという確証がありません。」と一気に話した。「君は綱昌についてどう考えていますか?」と聞くと山田君は
「僕は綱昌は運が悪かったと考えています。義理の父の昌親とは折り合いが悪く、藩主になっても思うように藩政を動かすことができず、若い綱昌には福井藩は大きすぎたのかもしれません。忠直も苦労しますが家来たちが多すぎて派閥があり、越前福井藩は伝統的にうまくいかなかったんでしょうね。」と三田先生も舌を巻くような知識である。杉下は
「どこかで新しい発見があると彼の名誉も回復できるかもしれないんだよ。歴史と言うのは生き物で、新しい発見で教科書はさらりと変わるものなんだよ。何か見つけられるといいね。」と勇気づけた。
「ところで、山田君はどうしてこんなに歴史好きなの?」と三田が聞いてみた。すると山田君は
「僕の父は福井大学医学部の准教授ですが、おじいちゃんは京都大学で歴史を教えていた教授だったんです。家には歴史関係の本がたくさんあります。僕はお医者さんより歴史の方に興味があるんです。」と答えてくれた。三田先生は偉く大変な生徒が私の担当クラスにいるなと呆れてしまった。