状況の人、奮闘中2
「OOバックでも、倒せるのは精々鹿までくらいだからなぁ」
「散弾撃ち尽くして、拳銃で応戦とか、『え~!?』って思っちゃたわよ?」
「藁をも掴む、てあの事だろうなぁ。ロイたちが時間作ってくれなきゃマジでヤバかったよ」
「かと言ってこの獣道じゃ、ばれっとは長過ぎますものね」
「あたしが火炎魔法を食らわせても良かったんだけど……」
「止めたのは正解ぞ。森に延焼したらあっと言う間に大火になってしまうでな。我らの逃げ道も一緒に失いかねんかったわ」
「樹によっては青葉でも勢い良く燃えますからね~。シノノメ卿、魔石の洗浄終わりました。収納に納めて頂けますか?」
ロイは付着していた肉片や血の洗い取りを終えた魔石の、無限収納魔法への保管を申し出た。
「お、ご苦労さん。流石にデカいねぇ、良い値で売れそうだな」
「いきなり依頼達成しちゃったけど……シノさん、これからどうする? いったん町戻る? それとも?」
「もう少し行くと、定番野営地に出るんだよな? 国境にも近づけるし、取り敢えず当初の予定通りに前進してみようか」
「で、今夜はそこで泊まりじゃな? 野外なら肉も遠慮なく焼けるのう! よしタツミ、先を急ごうではないか!」
「も~、お酒と肉しか頭に無いの!?」
「そう言うなヨウコ。街中では人目もあるし、炭火でこんがり焼いたあの香ばしさは望めんからの! 楽しみにするなと言うのは酷であろうぞ!」
「ああ、俺も一杯やりたい気分だし、進むとするか」
季節や、各町や村から出発する時間にもよるが、日が沈み始めて野営を決める場所と言うのは大体は限られてくるし、街道沿いとなれば尚更だ。
獣道から街道に戻った龍海たち一行は、街道に隣接する幅が6~7mで長さが40mほどの平地に辿り着き、そこでキャンプを張ることにした。
「まだ明るいせいか、先客は来てはおりませんでしたね」
BBQコンロで、龍海が再現した食材を手際よく焼きながら到着時の様子を振り返るイーミュウ。
炭火に落ちた肉の脂が焦げて、辺り一面に香ばしい香りが広がる。カレン、流れ出そうな涎を飲み込むのに必死。
「全く好都合ぞ。他の馬車隊と共有だと、食材を扱う商人とか居ればタツミ・サーロインに群がって来そうだしの」
「だから変なブランド名、付けるなっての!」
「とは言え、これからここに辿り着く馬車隊やパーティが現れる可能性はあります。ここは街道でも魔導国に一番接近する場所ですし、魔族が野営している事もあるとロンドの冒険者も言ってましたからね」
「それに、あまり良い臭いをバラ撒いたら野獣や魔獣も寄って来るんじゃないの?」
「その時は修練がてらヨウコが仕留めればよい。先ほどの森中のような障害物も無いし、そなたの氷魔法を使えば火事の心配もあるまいよ」
「ヨウコさまの魔法の上達ぶりは凄まじいですものね。さすが異世界から召喚されるほどの勇者様ですわ!」
「確かに最近は、以前より自信もついて来てはいるけど……なんかあまり喜べないなぁ」
「そりゃ好き好んで来たわけじゃないもんなぁ。ま、それはさておき、ロンドで受けた依頼は達成できたわけで~、はい! みなさんご苦労様でした! 取り敢えず乾杯!」
乾ぱーい!
龍海たちは、焼きあがった肉をアテに本日の討伐成功を互いに労った。
「しかし、聞きしに勝る大物でしたね。自分も野外演習時に通常の大黒熊を仕留めた事はありますが、分隊で取り囲んでやっと、だったんですけどね」
「最初からばれっとを使っとれば一撃だったんじゃろうがのう?」
「洋子の攻撃魔法もあるしと思って、軽装に過ぎたのは反省しなきゃな。装弾数は少ないが500Magの銃くらいは持ってても良かったかな?」
S&WM500。
龍海らが愛用する散弾銃と同じ型番名だが、こちらは44Magの3倍の威力を誇る弾薬が使用可能な、量産型では最強級のリボルバー拳銃である。これならば熊でも牛でも相手が出来よう。
ただし装弾数は5発で、おまけに拳銃のくせに重量は2kgを越えるし反動もデカい。
だがこれなら草木が邪魔をする深い森でも、全長の長い小銃より扱いやすかろう。
もっとも今日みたいな桁外れの魔獣が相手だと果たしてどうなるか?
その辺りはもっと場数を踏んで、データを蓄積するしかなさそうだ。
今後、このクラスの魔獣、若しくは魔族を相手にするなら、多少前進速度を犠牲にしてもM82級の得物を携えるべきであろう。
「はい、カレンさま。ご注文のミディアムレア、焼き上がりましたわ」
焼き上がった肉を手際よくカットし、カレンに差し出すイーミュウ。
「おおう、ご苦労ご苦労! うむ、ほむ、むぐむぐ……むほお~い! 美味美味! 炭火で網焼きは最高よの~。しかしイーミュウは肉の焼き方が上手いのぉ。この絶妙な焼き加減はタツミより数段上! 見事見事!」
「まあ、ありがとうございます、カレンさま! お褒め頂いて光栄ですわ!」
「いや、マジで美味い! 俺も自炊派だけど、焼き加減や揚げ物の火の通り具合の塩梅とか、結構むずかしくてまだまだ苦手なんだよなァ」
「イーミュウは本家の長子ではありますが、幼少より家事全般は侍女たちに混じって叩き込まれているんですよ」
「え~? イーミュウって奥さまとは言え、実質領主さまになるんでしょ? そういう家事仕事は侍女が全部やるんじゃないの?」
「確かにサイガ卿の仰るようなご婦人方の方が多いのは事実ですが、イオス家は領主が戦火や災害時に出張ると現場近くの後方に赴いて、女性による炊き出し隊等の支援集団の先頭に立って指揮をするというのが伝統なんですよ。そういう時、不慣れな若い人たちにも指導できるように、それらのスキルを小さいころから憶えるんです」
「へぇ~、そりゃ頼もしいな」
「それで槍術まで達者とか。ロイくん、マジで尻に敷かれるわね~」
「もう、ヨウコさまったらそんな意地悪を~。ロイには、ちゃんと領主として立てさせていただきますわ!」
おほほのほ~、と笑いあう洋子とイーミュウ。
龍海もここで「立てる」でエロジョークでも飛ばそうかとも思ったが、それは差し控えた。なにせロイはGであるし、下手な冗談は冗談にならない。彼女らの、今後についての悩みを抉る事にもなりかねない。