状況の人、検討する4
「なんでそうなるかな!? て言うか今回の勝負の件、誤魔化すと言うか、茶化しちゃったのは事実なワケだし、やっぱそこは……引っ掛るかな」
「彼女も笑ってたし、そんなに気にすることも無いだろ?」
「次に会う時の楽しみにしてはいかがでしょうかヨウコさま。縁が有るなら、きっとまた会えますわ」
イーミュウにも進言され、「うん、そうだね」と納得する洋子。
こちらに来た当初の洋子は、右も左も分からず混乱し、龍海に当たり散らしたり我儘言いまくったりであった。
かと思えば一国の宰相であるアリータにもタメ口叩くなど、火が付くと周りも見られない甚だ不安定な精神状況でもあった。
だが今は、仮想敵国の名前しか知らない一般兵にまで気遣う人間的な余裕と言うか、広さが出てきていることに龍海は安堵していた。
勇者としての能力が著しく伸びていく中、それに胡坐をかかずに精神面も向上していっている今の彼女の成長ぶりは喜ばしい限りである。
来るべきアデリア王国と魔導王国との戦では武勇のみに逸らず、心底相手を承伏せしめる事が出来ればそれが一番だ。
が、しかし……
――もしもティーグの目指すものが俺と同じなら……
最近、龍海は自分と洋子が一方的にアデリアから魔導国へ攻める状況になる事に対しての疑問・懐疑の念が日増しに擡げて来ていた。
宰相アリータやレベッカらは洋子を擁して魔導王国の占領・併呑を狙っているが、それが武力のみに頼るのであれば両国の疲弊は免れない。
だとすれば、少しでも占領に手間取れば、二大国からの侵略を許してしまう可能性が増えていくことになる。
目立つタカ派連中に隠れて見えてこないが、やはり魔導王国側にも同じ構想を描く者、勢力がいてもおかしくはない。
そうは言っても、お互いの過去の出来事による感情は、そうそう簡単には清算されそうにないのは先だっての酒場でのケンカを見ればわかろうと言うもの。
アデリア王国との良き関係を望んでいるポリシックとて、併呑や隷下に入るとなれば容易く首を縦に振るとは思えない。
――イノミナの調査結果に期待したいところだな……
「では自分は明日の朝一番で、中央行きの駅馬車の手配をしてまいります」
「ん? ああ、頼もうか」
ロイからの提案に、龍海の意識は部屋内に戻ってきた。
「そうか。ならば明日は一日馬車の上であるな? で、あれば多少酒量を増やしても良かろう! のうタツミ~」
またまたカレンが甘えた声を出す。
「一日の酒量、出会った時に比べても三割くらい増えてるような気がするんだけどね?」
「細けぇこたぁ気にするでない。大体、古龍が酒如きでどうにかなるワケあるまいが?」
「あたしたちの神話じゃ龍だか大蛇だかが、酒に酔い潰れたところを討伐されるってエピソードがあるのよね。世界に冠たる古龍サマが酒で失敗したら大恥よ?」
「我ら古龍をヘビやトカゲと一緒にするなとあれほど! まったく、小姑みたいなこと言いよるのぅヨウコは」
「誰が小姑か!」
「のう、タツミよ。モノは相談じゃが……追加ビール、我の胸、一揉み=500ml一缶でどや?」
ブーッ! っと、お茶噴く龍海。
「はぁ!? ダメに決まってるでしょ、そんなん! なに、お触りバーみたいなマネする気になってんのよ、この腐古龍!」
「そうですよ! 大体、卿も自分も、そんなブヨブヨのコブなんて興味ありませんから!」
「ちょい待ち! そこはちょい待ち!」
――大好きだよ!? スキあらば拝みたいとは思ってるよぉ!?
とは言うものの、こんな裏とか闇とかの文字が付きそうな取引まがいで、しかも対価がビール一缶とか安売りにもほどがあるってもんだ。却ってドン引きである。
さすがに、それに乗っかって夢にまで見た初おっぱい……などと、それで笑えるほど龍海は捌けてはいない。それ故、未だ童貞なのかもしれないが……
「何よシノさん。ま・さ・か……?」
「いやいやいや、これは引いた、さすがに引いた。これに乗ったらトラウマ級の黒歴史になりそうだし……」
「とか言いながらお主、しょっちゅう我の胸元をチラ見しとろうが? 故に取引といこうかと思い立ったのだがのう?」
「シノさ~ん?」
「だから、その! だって、こんな近い距離で揺れたり谷間が盛り上がったりされりゃ、健康男子としてはつい目が行っちゃうだろうがよぉ。これでも理性維持してるつもりだぞぉ?」
「そこまで言うほど大層なモンかのう? この世に生まれた人であるならば、一度くらいは吸っとったろうに」
などと言いつつ、カレンは自らの右乳を持ち上げるように、モニュっと揉んで見せた。 手から溢れるほどのたわわが、妖しく波打つ。
手のひらにすっぽり~と言うサイズにも満たない洋子とイーミュウは、口元をこの上なくひん曲げて憤怒の怪視線をカレンに叩き込む。
「まあまあ、もう。とにかく酒盛りなら普通通りでいこ? 俺も酒なんぞ利用して性欲満たそうとは思わないしよ」
と言いつつ、龍海は再現したビールをテーブルに並べ始めた。
「シノさん、あたしケーキおかわりよ!」
「はいはい」
ケーキ一つで空気が落ち着けば安いものだが……龍海は例の店で2番人気の、ヤケクソみたいに盛上げられたマロンペーストいっぱいのモンブランケーキを出してあげた。
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「陛下。お戻りと聞いてシステ・ハウゼン、罷り越しましてございます!」
「うむ、ご苦労」
「と、申し上げたいところですが……」
フェアーライトの執務室に訪れたシステは、渋い顔と口調で話し始めた。
「昨今は近郊国家間の緊張も高まりつつある現状ですので、恐れながら……お忍びの外出はお控えいただきますと、我らとしても安堵できるのですが」
「そうか。いや、一日中、城の中と言うのも窮屈でなぁ。其方や草からの報告だけでは見えて来んものも多くてのぅ。やはり、市井の臣民らの目を直接拝みたくてな! そうそう、エームス市の南市場に出ている屋台で良いモノ見つけてなァ……」
「エームス! そんな遠方まで!? いくら陛下が高速飛行がお得意とは言え軽率では!?」
「そこで血の滴るバイソン肉の串焼きを味わってな! これがまあ、歯ごたえと言い、旨みと言い、絶品であったわ」
「血の滴る……! や、焼き加減は指定できますか!? あ、いえ!」