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状況の人、異世界で無敵勇者(ゲームチェンジャー)を目指す!  作者: 三〇八
状況の人、異世界で無双する
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状況の人、検討する3

「ウエアウルフは職務に女が口を出すのは嫌がる傾向にはあるね」

 そこまで聞いて洋子、

「男尊女卑な世相なの?」

と、ちょっくら不機嫌そうに。異世界とは頭ではわかっていても、日本での常識・慣習はまだまだ抜け切らないだろう。

「今の魔導国の宰相は、西南の山地の領主であるハウゼン家の、システ・ハウゼンって言うヴァンパイア族の女傑なんだけどね。北のポリシックと並んでハト派と言われてるんだよ。それもあってシーエスらとはソリが合ってないそうだよ」

「へぇ、そっちも女の人が宰相なんだ。男尊女卑はウルフ族だけなのかしら?」

「表向きはそんな感じだけど、そうは言っても家ン中じゃ奥さま(お母ちゃん)に頭、上がらない手合いも多かったりするんだけどね、アハ!」

 ――天秤は釣り合ってるわけか……だとすると……

「もしかすると今回の件、貴族のご婦人方が関与している可能性も?」

「え? 貴族の奥さま方がそんな策略と言うか、策謀みたいなことするの、シノさん?」

「内助の功が国を動かす、なんて事は歴史の中じゃそれほど珍しくないさ。お屋敷の奥で、のほほんとお茶や踊り(ダンス)を楽しんでるだけじゃないと思うけどね」

「ふふーん、ホント、シノサンの旦那って何者なんだろうね? 一般庶民は貴族の奥方やお嬢さんはその、のほほんと贅沢してる連中だ、くらいにしか思ってないよ?」

 ――シノサンの旦那て……妙な憶え方されたな

「こないだも言ったように、俺は生まれも育ちも絵に描いたような庶民だよ?」

「フフッ。そういう事にしとこか、今んとこ。で、さっきの答えとしては『そんな空気もあり得る』くらいかな?」

「その先は別料金かい?」

「今回でも結構踏み込んでるつもりだよ? しかも件の貴族ってのは公爵や侯爵級の上位貴族なんだ。その奥に探りを入れるとなると……」

「大銀貨五枚」 

 そう言いながら龍海は、さらなる調査以来の報酬としてテーブル上に銀貨を置いた。

 翻ってイノミナは渋い顔。

「え~、それじゃあティーグと大して変わんないじゃん! 相手が相手なんだし、そりゃないよ」

「プラス金貨一枚……では?」

「金貨!? マジで!?」

 金貨と聞いて途端に目の色を変えるイノミナ。前回の3倍の報酬となれば受けない理由はない。正に現金。

「乗った! やるよ、やる!」

「おっけ~。じゃあ銀貨は前金で持って行きな」

「いいの!? やった! 毎度~!」

 すっかりご満悦のイノミナ。しかしロイはちょっと気掛かり。

「シノノメ卿、少々気前が良すぎませんか?」

「情報は戦の趨勢を決める重要な要素さ。それに彼女が持って来たテロの情報、ティーグの情報も満足のいく中身だったしね、ケチりたくは無いな」

 ロイが諫めるも、龍海はイノミナを信頼する方を選んだ。

「わーかってるねぇ旦那! でも、この仕事は時間かかるよ? あちこち潜入する事にもなりかねないしさ」

「この先、俺たちは中央部のロンドの町へ行くことになってる。その間、お互いの連絡はどうするのが良いかな?」

「オデ市の冒険者ギルド預かりで手紙を出してよ。一応、あたしもギルドに登録はされてるからさ」

「わかった。こちらも居場所の連絡は密にしよう」

「りょーかい! んじゃあ、あたしはこれで失礼するよ。大仕事の前に野暮用は片付けておきたいしね!」

 そう言うとイノミナは、皿に残ったケーキのクリームをお下品にも舌でペロペロ舐めまくった後、席を立った。

 このケーキ、洋子たちの街では結構有名な洋菓子店の品であり、洋子自身も友人と通っていたから有り難がる気持ちは良くわかる。

 とは言え、人前で舌ペロをやってのけられると、さすがに洋子もドン引きであった。

 狐っ子のエミくらいの年頃ならば、ケモ耳補正もあって可愛げもあるのだが、イノミナの場合は洋子にとっては既におばさんの範疇である。

 と、ここで、

「あの、ちょっと!?」

ロイがイノミナを呼び止めた。

「わかっているとは思いますが、他者に聞かれても我々の情報を滅多矢鱈に吹聴しないように……そこには同意してくれますよね?」

 問われてイノミナはちょいと怪訝な顔を浮かべるも、

「これでも情報屋としてはもちろん、商売の仁義も心得てるつもりだよ? そりゃ聞かれて頑なに拒否したら却って怪しまれるから、そうならない程度の安い情報は流すけど、お得意さんであるあんたらの足を引っ張るような事はしないさ。そこは信じてよ」

キッチリと自分の矜持を主張。

 ロイもそれを聞いて一息つく。

「……分かって頂けて居る様で安心しました。調査、よろしくお願いします」

「ああ、じゃあね!」

 イノミナは元気よく返事すると部屋を出て、ドアを閉める前にもう一度笑顔で手を振り「ごちそうさま~」と一言残して去って行った。

「ロイ?」

「あ、申し訳ありません、シノノメ卿! 出過ぎた真似を……」

「え? 何を謝ってんの? 違うよ違う。良く釘を刺してくれたなって礼を言おうと思ってたんだ」

「まあ、一応は確認すべき事ではあろうが、タツミ一人であれやこれや、くどくどと言っては角が立ちかねんし、良い判断であろうな」

「事に俺は考え方が、まだまだ元の世界の常識に縛られている。気付いた事が有ったら意見はどんどん言ってくれよな?」

 ロイくん、パァッ!

 自分の言動を龍海に認めて貰えたワケで、当然、嬉しさが込み上げてくる。

「あ、ありがとうございます! これからも卿の信頼に身も心も預けられるように精進します!」

 ――身は要らねー!

「で、シノさま。今後はお話の通り、中部のロンドへ?」

 最後の一口を食べ終えたイーミューが口元を整えながら龍海に聞いてきた。

「ああ、こちらに来て最初に出会ったトレドやフォールスが仕事で行ってた国境に近い町だ。メージオーガが出没するって噂の、あの界隈を探ってみようと思う。イノミナの言う通りにティーグに何かバックが居るなら、このオデ市中心に俺たちへ探りを入れ始める可能性もある。いずれ相対するかもしれんが今は以前と同様、情報収集と錬成を続けるべきだろうし、連中の情報はイノミナに任せて俺たちは距離を置こうと思うんだ」

「ケイさんとの勝負は延期ね~」

「ん? やり合いたかったのかい?」

「う~ん、お互い笑って済ませちゃったけど、あたし、結局ルール破りしちゃったじゃない? なんか後味がね」

「勇者覚醒に従って思考が脳筋ぽくなってきた?」

 洋子さん、さすがにムスッ! この程度で脳筋呼ばわりは面白いはずもあるまい。

 もう少し言葉選べよ、と。

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