状況の人、テロ防止に向かう2
――海から?
龍海の索敵には、まだ反応は無かった。
倉庫街を見回せる高台に居るカレンが、情報だけは送ってくれているのだ。
「人数は6~7人といったとこかの? ん~、倉庫手前の桟橋から上がって来そうだのう」
言われて龍海は暗視眼鏡越しに海側を注視した。
「お、来た来た。イノミナの情報通りのようだな」
同時に洋子とロイも相手を確認する。ウルフにリザードマン他の混成らしい。
デクスの町でもそうだが主流となる種族はあっても、それ一色ではないのはこちらでも同じなのだろう。
「んじゃ、我の仕事はここまでだな?」ザッ
「なによ、やっぱ手伝ってくれないの?」
「ぷれみあむビールと豚のショウガ焼きではここまでだな。それにあの程度の賊なら貴様らで十分皆殺しに出来よう?」
「今回は出来るだけ殺さねぇよ。テロ組織の内情やバックも知りたいからな」
「軍の隠密・工作隊によるもの、とも考えられますしね」
「そっか。それでは我はここで高みの見物と行くかの。どうしてもと言う時は加勢してやるから泣きついて来い。報酬は後払いでよいでな」
「まあ、そうならないように頑張るさ。終わり」ザッ
海から這い上がったテロ班は、二人一組になって順番に別れて倉庫に近寄った。
動哨三人を、各チームで相手する気であろう。
「ふぐっ!」
最初のチームが動く。
後ろから動哨の鼻と口をふさぎ、もう一人が強烈な拳を脇腹に食い込ませる。
一瞬で力が抜けて崩れる倉庫番。その口と手足を素早く拘束するとウルフたちは、正面入り口に急いだ。
彼らが到着し、周りを警戒していると間もなく他のチームも合流してきた。
そのうちの一人が、倉庫番から奪ったらしきカギで入り口の施錠を解除、中に侵入した。
「あ? もう交代……!」
仮眠時間であった最後の倉庫番は、侵入してきたウルフらを”仲間が起こしに来た”と勘違いをした。
しかし仮にもギルドに登録している一端の冒険者。仲間と全く違う気配にすぐ気付き、
「だ、誰だてめぇ!」
と、即座に反応して脇に置いた剣に手を伸ばす。
だが遅すぎた。寝起きも災いし、彼の伸ばした右手はウルフに踏まれて動きを封じられる。あとは他の三人と同様、瞬く間に取り押さえられた。
「シノさん?」
「まだだ。連中、倉庫番を殺してはいない」
テロ、と言う事で、詰めている倉庫番を殺害も辞さずに排除するのであれば、組織・背景詮索は棚上げして、その時点で阻止、と考えた龍海は洋子に暗視照準眼鏡を装着したM4カービンで狙撃するべく待機させていた。
だが、テロ犯たちは殴打はするものの、殺害はしていなかったので現時点では様子見を選んだ。
テロとは言え、標的が物資であるか、人命であるかでそれに対する報復の度合いは変わってくる。
物資のみであればまだ挑発の範囲だと捉えられるが、人命が奪われれば、それは宣戦布告に近い捉え方をされるのがこの界隈らしい。
――目的は挑発……もしくは物資破壊による弱体化狙い、厭戦機運の浸透……
ならば、連中の思惑や考えを探る事も出来よう。
倉庫番を縛り、一人が外に運んでいる間に、他の賊たちはそれぞれ倉庫内に散らばって行った。
背負っていた背嚢を降ろして、油紙に包まれた箱を取り出し、中に入っている液体を、積まれた小麦袋に塗りたくり始める。
一方、拘束した最後の倉庫番を他の三人の近くへ運び終わったリザードマンは、仲間を手伝うべく倉庫への入り口に急いだ。
が、
ババババッ!
「がっ!」
入り口に差し掛かる寸前、リザードマンは背中――腰の右辺りに引き攣るような焼けつくような激痛を覚え、一瞬で体が硬直し、転倒した。
スパ!
今度は口周りに違和感。そして、
ビビビーッ
鈍く小さい音と共にリザードマンの口は開けなくなっていた。懸命に抗おうとするが開口どころか鼻で息をするのが精いっぱいだ。
ジャキ!
次に背中に回された両手親指の自由が利かなくなった。さらに足も。
――一丁上がり!
龍海たちはリザードマンを取り押さえた。
再現したスタンガンで奴の動きを止め、
結束バンドで口を塞ぎ(トカゲ種のリザードマンの口だから楽に出来た)、
指錠で両手を拘束。次いで足首も縛る。
普通の手錠だと、相手魔族が馬鹿力持ちの場合、鎖が引き千切られるかも? と思い指錠にしてみた。鎖を使わないヒンジタイプは、触った事が無いので再現不可なのだ。
さて、残るテロリストは五人。
入り口から中を覘くと、連中はそれぞれが分散して何やら工作をしている。焼討ちと言うことで、燃料等の可燃物や爆発物を仕掛けていると思われる。
――あと一人か二人は〆ておきたいとこだが……
全員火器を使用しての制圧、なら話は早いがそうもいかない。
本作戦は焼討ちテロの防止が最優先事項ではあるが、できる限り実行犯を捕縛して連中の情報を得る、という側面も持っている。
誰が主犯格で、誰がどのような情報を持っているのか不明な状況では、殺害は最小限、可能ならゼロにしたい。
とは言え、人より聴覚・嗅覚に優れたウルフ族を、屋内で順次捕縛していくのは甚だ難しいと言わざるを得ない。
幸いにも今現在、龍海らに一番近いのはゴブリン種を思わせる魔族、次いでちょい小柄めのウルフ。
龍海は入口の扉を揺すってみた。
「ロムか? 終わったんなら、こっち手伝えよ」
リザードマンはロムと言う名か? 龍海は倉庫内の暗がりに紛れて声をかけてきた小柄なウルフに近づいた。同時に洋子とロイはゴブリン種の方へ。
「油、切らしちまった。おめぇの分をこの辺りに塗りたくって……ふ!」
龍海をロムだと疑っていなかった小ウルフは簡単に龍海の接近を許し、奴と同様に口を塞がれた。更にスタンガン。
ロム同様、体が硬直した小ウルフは龍海に押し倒され、間髪入れず顎に膝蹴りを食らった。即座に脳震盪を起こし脱力する小ウルフ。
「ふぉ!」
洋子とロイも同様に、二人掛かりでゴブリン種を押さえ込む。
「ん? おい、どうした? 仕込み終わったのか?」
奥の方で作業をしているウルフの一人が声をかけた。
見張りを片付けて多少は気が緩んではいたが、そこはウェアウルフ。作業音とは違う、ヒトが倒れるような音に違和感は感じていた。
しかも、返事が来ない。
奥にいたウルフ二人とオーク一人は互いに顔を見合わせ、ジワジワ来る妙な雰囲気に警戒感を強める。
「全員そこを動くな!」




