状況の人、威力偵察する1
「お断りよ。突撃隊長なんて冗談じゃないわ」
「だな。まして大部隊の指揮なんてそう簡単に覚えられねぇし、その辺はレベッカさんとかに任せた方がいい。やっぱ俺たちは少数精鋭で突破口を作るって方向で行きたいね」
「遊撃活動ですか?」
「そっちの方法がベストだな、そのための火器だ。さてロイ、俺たちも友軍の動哨に加わって緩衝地帯を歩く、なんて事は出来ないかな? 不自然無く、出来る限り相手の方に近づきたいところなんだが」
「警衛隊長に許可を得る必要があると思いますが……わかりました、ちょっと行ってきます!」
そう言うとロイは警衛詰所に向かった。
「ほんにお主の言う事はよく聞くのう、あの少年。いじらしいとは思わんか?」
「あ? 何が言いたい?」
「お主らのやり取りには何故かいろいろ動悸が沸いてのう」
「その辺あんま言うと禁ビールにするぞ腐古龍」
「ホッホッホ! 照れんでよい、照れんでよい! ヨウコもイーミュウも内心期待しておるぞよ?」
「してないわよ」
「カレン様! これ以上ロイを衆道に導かないでくださいませ! 彼は我がイオス家の次期当主なんですよ!」
イーミュウさんプンスカモード。
ロイの龍海に向けるキラ目の半分でも自分に向けてほしいと思う彼女としては、カレンのBL趣味にロイを付き合わせてはいられない。
――ロイはロイでイーミュウの事を嫌ってるワケじゃないってぇのが、余計にややこしい所だよなぁ……
一緒に旅をするものとして気にかかるっちゃ気にかかるが、結局最後は当人同士でケリを付ける事案ではある。
龍海としては正直「お好きにどうぞ」ではあるのだが。
「シノノメ卿! 警衛隊長の了承を得ました! 次に上番する動哨班に随伴できますよ!」
パシリ……と言うと聞こえは悪いが、彼は気を利かせて先に先に気を配ってくれるし、何より士官候補生と貴族の娘という組み合わせは、他の地域の領主や官憲とのトラブル防止という点ではありがたい存在ではある。
「おお、ご苦労さん。良くすんなりと許可がもらえたな?」
「ええ、まあ最初はちょっと渋られたんですが、王都府の命を受けた自分の認識票で納得してもらえました」
とまあ、こんな感じで大抵の希望は通してもらえているのである。
「次の動哨交代は午後三時です。その時に、詰所から階段で降りて緩衝地帯入り出来ますよ」
――シーエス勢といきなり衝突ってのは無かろうが、何とか連中の能力等の情報が欲しいな……
龍海は思惑通りに事が進むことを願いつつ午後3時を待った。
3時に上番した動哨隊の人数は6人であった。
彼らの他にもいくつかの班が作られており、それぞれが担当のエリアを見回っているらしい。
今回この班は龍海らが加わったので、普段より倍の大所帯になった。班と言うより分隊と言ってもいい。
「ご無理言って申し訳ありませんね、軍曹」
「いえいえ、警衛隊長はどうあれ、正直なところ人数が増えたのはありがたいと思っておりますよ。最近はまたぞろ、シーエスの連中の鼻息が荒いもので、いつ何が起こるかわからない雰囲気でしてね。士官候補生とそのお付きの方なら頼りになるというものです」
上番した動哨班の班長プラグ軍曹が、意外と好意的な話し方で遇してくれた。
言ってしまえば自分たちはここいらの者にとってはよそ者なわけで、王都の威光を持って割り込んで来たお荷物みたいな扱いされても仕方ないところなのだが、プラグ軍曹の当たりは柔らかであった。
とは言ってもやはりそこは動哨中、あまり世間話など駄弁っているのは不適切である。
龍海らもプラグ同様に、周囲の警戒に気を配りながら歩を進めた。
深い雑草や雑木の陰、盛土の近辺など伏兵や罠などが無いか注視しながら国境である川に向かって接近する形で周回を重ねていく。
「班長。シーエスの動哨が見えるよ」
先頭を歩いていた動哨班の兵、ミケーレが川方向を指さしながら報告してきた。
「向こうも気が付いてるな」
プラグ軍曹が応える。次いで二番目に並んでいるフィーロ。
「あの鎧の肩パッド、見覚えがありまっせ班長」
「ああ、がっつき犬バーバスだな」
――へぇ~、やっぱ二つ名とかあるんだなぁ。
話にはよく聞く事だが実際に耳にしたのは龍海は初めてだった。
ともあれこんな二つ名から考えるに、やたら血の気が多そうな感じだが。
「なんか凶暴そうな仇名だなぁ」
「ええ、いつも挑発する事ばっか考えている奴ですよ。黙って通過するとか自重するとかまるで考えられない狂犬ですわ」
「向こうの上官は諫めたりしないの?」
「あちらさんでも札付きって話ですぜ、サイガ卿」
呆れた口調で答えるフィーロ。どうやらバーバスとやらは結構な問題児らしい。
だが多少の跳ねっ返りや、やんちゃ坊主な方がサンプルとしては興味深い――龍海はがっつき犬と呼ばれるウエアウルフの話にそんな印象を持ち、スキャンするなら真っ先にこいつか? と目星をつけた。
やがてプラグ軍曹率いる動哨班は、川を挟んでシーエスの動哨班と並行に歩き始める形になっていった。
「おう、今日のヒューマンさまは大所帯だな!」
早速シーエスの連中が煽ってきよった。
数は8人ほどであろうか? 動哨班としては言えるほど小規模でも無さそうだが。
「ガタイが乏しいから数集めなきゃならねぇのは分かるけどよぉ。小僧や小娘駆り出すとか、そこまで足りてねぇのかぁ!?」
などとへらへら嘲笑いながら次々煽りまくるシーエス勢。
小娘呼ばわりの標的は順当に考えて洋子とイーミュウの事であろう。
「隊長! ガキばかりじゃねぇですぜ!」
「お、ホントだ。あの女、なかなかじゃねぇっすか!?」
「うお! 乳でけぇ!」
今度のターゲットはカレンか?
「アホ、よく見ろ。ババァだろうがよ!」
ピク!
カレンはあるワードに反応したようだ。
「タツミ?」
「火ィ吐くなよ?」
「ちっ」
釘を刺されてしまいカレンさん、ちょいと不機嫌。