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状況の人、異世界で無敵勇者(ゲームチェンジャー)を目指す!  作者: 三〇八
状況の人、異世界で無双する
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状況の人、移動中2

「はぁ……全く気が重い……」

 魔導王国の中央、ウェアウルフの魔王シーエス領とオークの魔王モノーポリ領の間に位置する王都モーグの更にど真ん中に聳える王国の中枢エンソニック城。

 魔導王フェアーライトの居室・執務室に続く廊下を歩みながら、王国府宰相システ・ハウゼンは正に苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

 これから訪問するフェアーライトに、南部ツセー市においてアデリア側との衝突事例の増加についての報告をしなければならないからだ。

 先の大戦においてウエアウルフの魔王シーエスの領地は一番の激戦区であった。

 巨大な港町を擁するアデリア側のオデ市、シーエス領ツセー市は海外交易路である港湾利権を独占出来れば自国は富み、相手側の国力は著しく下げる事が出来る。それ故に陸海での戦闘は苛烈を極めた。

 それもあって終戦後の再編成では最重要地域に指定され、予算・物資共に優先的に回されていた。

 西北部の港は冬季の間は荒天続きで船舶による交易が事実上不可能であるため、ツセー港防衛は何にもまして重要だ。

 だが、それはオデ市も同様である。アデリアにとって頼れる貿易港はオデ市しか無いと言って良い。

 比較的関係が良好な北部は、港湾も限られている上に魔王オーバハイム領ジュピトー市同様に冬季は使える気候ではない。故にオデ港の防衛は絶対だ。

 そのため、両国の国防軍は常に睨みあいの状態であり、現在は表向き国交を結んでいるとは言え、交易に関しては北部のイオス・シーケン領とポリシック領ほどは盛んではない。

 だが全く無い訳では無い。やはり、お互いがお互いの産物を求め合うところは北部同様に当然存在する。

 システとしては啀み合わず交易を深めて二国を取り巻くアンドロウム帝国やポータリア皇国に付け入るスキを与えない様に富国に努めたいところであるのだが……。

「あの戦バカの犬コロどもは目先の餌だけを考えおって!」

 などと愚痴がこぼれ続けるほど、現地では敵陣の軍施設を狙う過激派のテロや互いの交易商人への差別や虐待等が頻繁に報告され、その都度外務局が奔走させられているのが現状だ。

 これが軍備の再編度が高まると同時に発生件数が増えてきている。

 終戦後あたりでこそ騒動の責任のなすりつけ合いで紛糾した双方の外務役人による合議の場も、10年前辺りからはそれら軍の尻ぬぐいの連続に嫌気がさし、最近ではお互いの心労を労いあう場になっている有様だ。

 システもまた外務局と同様の思いの一人であり、6魔王はシステやポリシックの様なハト派とシーエスや中央部を所領とするモノーポリらのタカ派に別れつつあった。

 同行した秘書リバァ・モウルも、

「もう少し全体が見える位置まで下がって頂きたいものですね」

と、システの心中を察して賛同の意を示した。

 廊下を歩いてしばらく、システたちは一番の突き当りに有るフェアーライトの執務室に到着した。しかし、

ガシィ!

部屋の入り口を守るロイヤルガードの装備する槍が扉の前で交差され、二人はそれ以上の前進を拒まれた。

 軍の中でもエリート中のエリートであるロイヤルガードの任に着く将兵であれば、行政の長たる現宰相の顔を知らないはずはない。

 で、あっても彼らは、陛下の許可なくしては何人たりともこの扉を通すことはない。

 紅色の甲冑で全身を固めて槍を交差している二人と、その中心で槍と扉の間に立つガードリーダー。システはそのガードリーダーに用向きを伝えた。

「陛下より下令された、南部治安状況調査の報告書をお持ちした。陛下に取り次いでいただきたい」

 システが口上を述べるとガードリーダーは扉をノックし、中の側近と短く言葉を交わした。直後に、ガード二人に遮った槍を納めるよう指示する。

「失礼いたしました。陛下がお会いになられます、どうぞお通り下さい」

「お役目ご苦労」

 任務に忠実なロイヤルガードに労いの言葉をかけ、システはリバァを伴って居室に入った。

 入ると扉横にはメイドの姿をしたガードが二人控えていた。

 彼女らの一礼を受けながら中に進むシステとリバァ。しかし正面の執務用の机には魔導王の姿は見当たらなかった。

 システは机の傍に立っていた執事を思わせる出で立ちの、初老の侍従官に目を移して「陛下は何処(いずこ)か?」と問うような視線をくれた。

 侍従官は彼女に促すように、目線をバルコニーの方へ向けた。

 その目線を追いかけてシステがバルコニーに目を移すと、そこに置かれた椅子の上で、自分の治める国の近景を眺めながら人間で言えば20代後半に見える、赤い髪をボブにした女性が一人、スラリとした脚を組みながらテーブル前に腰をかけて生クリームてんこ盛りのパンケーキを楽しんでいた。

 魔導王フェアーライトである。

「ご休憩中に失礼いたします陛下」

 システはケーキを頬張る魔導王フェアーライトに頭を下げた。

「構わぬ。ツセーの近況報告であろう? すぐに聞かせてくれ」

 フェアライトは口元に着いた生クリームを舌でペロッと舐めながら報告を催促した。

「恐れ入ります。では、リバァに読み上げさせます」

 言われるとリバァは報告書を手に説明を始めた。


「武器の支給・補充を、他所より最優先にしていることを何か勘違いしているのかな、シーエスは?」

 報告を聞き終えたフェアーライトは、パンケーキを平らげて甘ったるくなった口内を洗い流す様に、茶を飲み干しながら呟いた。

「まあ、先の大戦では1、2を争う激戦区であったし、魔導国を守った最大の功労者だという自負もあろうなあ。その気概も分からなくはないし……」

「しかし!」

 遮るシステ。

「だからと言って、このような小競り合いを放置していては、いつまた戦争の引鉄になってしまうかもしれないというのに……彼らにはその自覚が足りないと言わざるを得ません。再建が必要なのは軍備だけではありません。国内経済もようやく安定してきたところであります。アデリアとは緊張を保ちつつも、経済では相互に益となる路線を進めるべきかと!」

「その辺はポリシックが、上手いことやっておるな。だがシーエスは奴らを軟弱者と罵るであろうがのう」

「もちろん気を緩めることは出来ません。ここ、魔導王国は我ら魔族にとって最後の砦、ここを失ってしまっては元も子もないと言う事は、わかっているつもりですが……」

「先代魔導王の時代、大陸中で忌み嫌われて、抑圧されてきた魔族が流れ流れて西の端っこの、この地域に集まり身を潜めて数百年。先住していた人間たちとも最初こそ敵対していたが、やがて和解して共に発展してきた。アデリアともそうなりたい気持ちはあるが、それを良しとしない連中はアデリアのみならず他の列強国にも多い」

「特にポータリア……」

 リバァが二人の間に入る。

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