状況の人、新たなる旅立ち6
昼からはカレンによる魔法錬成だ。
洋子の持つ素質を覚醒させ鍛錬するわけだが、今でも身体防御力強化や筋力強化、簡易な発水や火炎などは発揮し始めている。
加えて俊敏さや索敵能力等も錬成したり、火・水・風・雷を使った攻撃・防御など多岐にわたって訓練すべきことはまだまだ多い。
その横で龍海はロイとイーミュウに銃使用の訓練の指導に当たった。
あまり銃の使用者を増やしたくはないが、小所帯のパーティであれば多少の武力増強は致し方ない。
龍海は洋子に教えたのと同じく二人に89式小銃を使っての教練を行った。
ロイは士官学校での教練を受けているし、イーミュウは槍の使い手とあって、銃剣を装着しての銃剣格闘等の飲み込みは早そうである。
と言うワケで最後は銃剣道による格闘訓練を入れてみた。
「うーん。射撃はともかく、格闘となるとこりゃ一目置かざるを得んなぁ」
洋子とイーミュウの、木銃を使った銃剣道の組み手を眺めながら龍海は感嘆の声を漏らした。彼女の持つ槍術の経験が遺憾なく発揮されているようだ。
「この小娘に限らずこのご時世、武器や武術と全く無縁な者は老若男女まるっと含めてそうは居らん。射撃に関してもすぐに慣れようぞ」
「……護身であれ、戦うセンスを持ってれば飲み込みも早いか」
「タツミよ」
「あ?」
「お主が飯時に言っていたことな……」
「ん? 昼食の時か?」
「我としては早く捨てるべきだと思うがの」
「……火器の大量投入か?」
「お主はこの世界に骨を埋める覚悟はしとると言ったな?」
「それが?」
「お主の故郷は平和であった故、あんな考えでいたいと思う気も分からんでは無いがの。それ故つまらん躓きを起こしかねん、そう思っての?」
「……間違ってるってのか?」
「正解不正解ではない、甘いと言っとるだけよ」
「……古龍サマからすりゃ、そう見えるか?」
「お前の希望や理想は否定せん。だが、想定外だった小娘の参加を認めたように状況は変わるものよ。国家レベルまで広げれば尚更」
「……」
「この世で生きる覚悟を決めたと言うならば、宗旨替えの覚悟も決めざるを得ん、とまあそんな局面も考えておけや」
「古龍は干渉しないんじゃなかったっけ?」
「我は餌場を失いたくないだけよ」
「そう……か……」
龍海は黙り込んだ。そして自分の思いを反芻した。
――引っ掛っていた……
燻っていた何かを刺された気がする。日本に居た頃と同じ、得も言われない何かから逃れる、避けていた自分。
「それまで!」
ロイの判定の声で龍海の気が戻ってきた。目線を向けると、イーミュウの持つ木銃が洋子の鳩尾を捉えていた。
やがて日没を迎え、足元も暗くなったところで本日の訓練を終了し、一行は夕食の準備に入った。
龍海とロイが火を起こし、網を置いて肉や野菜を焼く準備をしている間、洋子ら女性陣は入浴の時間としていた。
一番風呂は洋子で二番目がカレン。その間はイーミュウが外敵からの警備に当たった。
イーミュウの番が来ると見張りはロイが担当する。
「あ~、さっぱりしたあ~。やっぱ一日の終わりはお風呂よね~」
風呂から上がった洋子がタオルで顔を拭きながら戻ってきた。同性・同年代の警戒役を得て毎日風呂に入れるようになったことに洋子はご機嫌であった。
龍海から冷えたジュースを受け取りグイーっと煽る。
「今はカレンか?」
「うん。でも結構早く上がってくるんじゃないかな? ビール欲しさにカラスの行水で」
「竜だけどな」
お互いクスッと笑い合う。
「じゃあロイ、次はイーミュウの番だし変わってやんな」
「あ、はい」
焼肉の準備の手を止めて、ロイはバスタブを設置した岩陰に向かった。
「乙女の肌を覗くなんて不逞の輩から守ってあげるのよ~」
「わかってまーす」
「なぜ俺の顔を見ながら言う?」
「ロイくんGだから覗くならシノさんしかいないじゃない?」
「ったくぅ、お前やイーミュウみたいな歳下に興味出ねぇよ」
「なにそれ、あたしたちに女を感じないっての? ちょっと失礼じゃん!」
「見られてぇのか見られたくないのかどっちだよ! 全くめんどくせぇ!」
龍海は風呂を待たずビールを開けた。洋子と同じくグィーっと煽る。
煽って見上げる龍海の目に満天の星空が映った。
「星……俺たちの知る星空と全く違うな」
「うん、それにとってもすごい数」
「異世界だよな……」
二人して、しんみりと星空を見上げる。
「こっちに来てまだ一月とたっていないけど……」
「ん?」
「お前、変わったな」
「え?」
「最初はホント普通のJKでさ。我儘言ったり駄々こねたりとか、どこにでもいる当たり前の女の子だったのにな」
「ん~。やっぱりシノさんのせいでしょ?」
「やっぱそう来るか?」
「日本であたしを突き飛ばして云々はともかくさ、お風呂でも寝る時でも拳銃持ってるのが当たり前、てか無いと落ち着かなくなっちゃったのはシノさんの訓練の賜物でしょ?」
「褒めてくれてんの、それ?」
「こんな異世界に呼ばれて右も左も分からなくて……でもシノさんの訓練のおかげで自分の身を守る自信が着いてきて、で、訓練をすればするほどスキルが上がって来てそれが実感出来るようになってくると……なんだかそれが楽しくて」
「あ~何か分かる。自分が成長してるって実感できると嬉しいよな」
「そうそう、それ!」
同意しながら残りのジュースを飲み干す洋子。
「はぁ。まあ、まだアデリア国を勝利に導く勇者なんてのには程遠いけどね」
「それでいいじゃんか。自分のやれる範囲で頑張ればいいんだよ。それでダメなら……」
「バックレる!」
アハハハ! 二人は声を揃えて笑い合った。
「タ~ツミ~!」
風呂上がりのカレンが割り込んできた。背中から抱き着き思いっきりお胸を当てながら、
「ほれ、はよ寄越さんか、風呂上がりの一杯!」
とキンキン冷え冷えビールを要求してきた。
はいはいと返事しながら良く冷えた500ml缶を渡す龍海。
カレンはもぎるように受け取ると、開封するやグビ~っと半分近くを一気に流し込んだ。
「ぷは~! たまらん! もう最近は、マジでこの一杯のために生きてる気分だわ! ほれタツミ、肉焼け、肉!」
「おう、ちょっと待ってろ」
「に~く! に~く!」
はしゃぐカレンのお胸がぶんぶん跳ね回る。寝る時は楽だからと龍海が出したジャージを愛用しているのだが、まあこれでお胸が強調されるされる。
おまけに、窮屈しないようにファスナーは胸の手前で止められており、いつポロリと行ってもおかしくない状況だ。まあ、ポロリというか、ばい~んというか、ズドォンというか……
「まったくもう、これ見よがしに~。大体、何で竜におっぱいなんか有るのよ?」
「ヨウコ様から聞いたんですけど、カレンさんてホントに古龍なんですかぁ?」
イーミュウも風呂から上がってきた。
「お、上がったか。何か飲むかい?」
「おビール頂きますわ!」
リクエスト通り、龍海は350ml間を彼女に手渡した。
こちらの世界では彼女は立派に成人、飲酒には何の問題もない。
とは言うものの、洋子とほぼほぼ同年齢の彼女が飲酒する光景は何か引っかかるモノも感じる龍海。まだまだ地球の常識が抜けるには時間がかかりそうだ。
「おう、我は正真正銘の古龍、火竜のカレンぞ?」
そう言いながらカレンは左手を竜の手に戻して見せた。
「うわ! ホントだ! 飛竜は何度か見たことありますけど古龍は初めてですわ」
「で、何でおっぱい付いてんの? シノさんとか男誘惑するのにわざとバカでかいの整形してぶら下げてんの?」
「そうですわ、ロイの目にもよくありません!」
――いや、ロイには何の影響もないんじゃねぇか?
「あ? こんなもの、赤子に乳を飲ませるためであろうが? お主らの胸は違うのか? 赤子が吸わんのなら、あとはその父親くらいしか吸う奴は居らんだろ?」
「はぁ? 龍って卵から生まれるんじゃないの?」
「我ら古龍を蛇やトカゲと一緒にすな! 我とて母がお腹を痛めて生んでくれたんぞ?」
「え!? この世界の龍って胎生なんか?」
龍海も目をぱちくり。てっきり卵生かと?
「お主らの世界の龍はどうか知らんが、我らは母のお腹で1年育んでから生まれるのだぞ? 故にお主ら人間と同様、乳房からの乳を吸わせて育てるのだ」
――そういや、おヘソも付いてるもんな……
「じゃあ、やっぱオスの古龍とつがって?」
「我ら古龍にオスは居らん」
「ええ? じゃあどうやって子作りを?」
「我らはこのように変化が出来るゆえ相手は誰でも良いのだ。人の姿なら人相手、犬なら犬、熊なら熊ぞ。だが生まれてくる子は全て古龍だ。我らは受け入れる子種を受胎の起爆剤とするだけゆえ、オス側の特徴は一切遺伝されん」
「なんじゃそら!」
「なんじゃそら、と言われてもそれが我ら古龍ぞ?」
「だからなんでそんなにでかくする必要があるのよ!」
「そうですわ。ロイに悪影響ですからお控えくださいまし!」
――いや、だからロイは……
「そう言われても、これが我のナチュラルサイズなのだが……んんん?」
洋子とイーミュウの胸を凝視するカレン。やがてニヤァ~と、それはそれは意地悪そうに、嫌らしい位に勝ち誇った笑みを浮かべ、
「いやまあ、羨む気持ちも分からんではないがな。まあそれで人の値打ちが決まるでなし、逞しく生きればよかろう、わははは!」
などと煽る煽る。
「うっさいわね! そんな垂れるの待ってるだけのババァの乳なんて羨ましくないわよ!」
「そうですわ! 笑っていられるの今の内だけです!」
「な~にを勘違いしとるかお主たちぃ~? 我ら古龍は長命なのだ。お主らのちっぱいがしわがれて垂れてる頃でも我のお胸はバインバインぞ! 残念だったのー!」
と腕組みした腕を持ち上げ、さらに当てつける様に胸を強調し、ドヤ顔満点のカレン。
ぐぬぬ~とばかりに洋子とイーミュウの歯ぎしりが聞こえそうな、そんな所へ、
「シノノメ卿! お風呂空きましたよ。女の生臭い垢とか毛とか取り除いて綺麗にしておきましたから!」
と、女性陣のこめかみの血管を一気に膨らませるがごとき暴言を吐きつつロイがやってきた。
「ああん!? あんた今、全世界の女、敵にした!?」
「小僧、もっぺん言ってみろコラ!」
「言って良いことと悪い事が有りますわよロイ!」
怒りの矛先が一気にロイに向かった。しかしロイはどこ吹く風。
「え~? ホントの事言っただけですよぉ~。さあシノノメ卿どうぞ! 自分が御背中をお流ししますよ! いえ、いっそのことご一緒に!」
オメメキラキラ~!
――こんなんでホントに魔導王国にケンカ吹っ掛けられるのかよぉ~
思わず頭の痛い龍海である。自分自身も含めて。
ども! 三〇八でございます。
今回をもちまして第一章完結でございます。次章は、ようやく足元が落ち着いてきた龍海たちが各国家の思惑に翻弄されながらも時には流され、時には意地を見せ、最終目的である洋子の日本への帰還を目指します。
投稿ペースも出来るだけ維持したいと思いますので、これからも宜しくお願い致します!