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状況の人、異世界で無敵勇者(ゲームチェンジャー)を目指す!  作者: 三〇八
状況の人、異世界へ転移する
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状況の人、異世界に立つ!3

 風に龍海の臭いを運ばれた。

 異世界と言えど狼の嗅覚なら気付かれる可能性は高いと考えるべきだろう。

 案の定、臭いを察知した最後尾の一頭が警戒する様に足を踏ん張りながら目をこちらに向けてきた。

 気付かれた!

 迷っている場合ではない、走りだされたら当てるのは極端に難しくなる。何よりこちらにデカい胴体を見せているうちに……龍海は引鉄を引いた。


 ドォン! 


 耳を(つんざ)く雷鳴の如き轟音が森に街道に響く。

 同時に強い反動が龍海の腕を襲い、銃口は派手に跳ね上げられる。

 再現M629は見事に撃発してくれた。

 パアァン!

 慎重に照準していた甲斐あって初弾は狙い通りに最後尾の狼の腹部に命中した。

 腹を抉られた狼は「ギャン!」という悲鳴とともに転倒した。そのまま手足を痙攣させているのが遠目にも確認できる。

 初めて聞くバカでかい激発音、同時に群れの仲間が腹から血を噴き出しながら倒れる様を見て、他の狼二頭は状況に理解が及ばず一瞬、動きを止めてしまった。

 ドォン!

 龍海は、それを好機とばかりに真ん中の狼に向けて二発目を放った。

 ドォン!

 更にもう一発。

 放たれた重量240グレインの弾頭は一発は尻尾をかすめ、一発は腰部から後脚の付け根の間に命中。着弾と同時に弾け飛んだ肉片が地に落ちる前に、二頭目も転倒した。

 その次の瞬間、

「でりゃああああ!」

槍の戦士が気勢を上げて突撃した。

 凄まじい轟音と共に仲間が相次いで倒れるのを見て驚愕し、スキの出来た先頭の狼の喉元をめがけて戦士渾身の槍が突き出された。

「グフオオォオォ!」

 槍の穂先は狼の首を捉えた。しかし喉元を僅かに逸れてしまった。

 狼は後ろ脚を踏ん張り、両の前足で首横に刺さった槍を押さえて戦士の首に腕に食いつこうと牙を剥いた。

 戦士もまた全力で踏ん張り、槍を懸命に持ち上げるも、やがて膠着状態に陥る。

 そこで、

ドォン!

4回目の轟音。

 同時に先頭狼の胸部は、先の二頭と同じく肉片を撒き散らしながら食い込む銃弾によって赤黒い穴が開けられた。

 その銃弾に心臓を抜かれた狼の後ろ脚は途端に力が抜け、身体はドシャァっと地に崩れた。銃創から噴き出る血で灰色の体毛がドス黒い朱に染まっていく。

 龍海は槍の戦士が狼を刺した事を確認すると走って距離を縮めていた。4発目を撃った時は10mくらいまで接近していた。

 槍で突かれながらも力の衰えない狼が一撃で倒されるのを目の当たりにして唖然とする戦士たちを尻目に、龍海は前脚で踏ん張ろうとまだジタバタと動いている真ん中の狼に近づき、頭部に狙いを定めて引き金を絞った。

 ドォン!

 至近距離からまともに44Magを撃ち込まれた狼の頭部は原形をとどめず吹っ飛んでしまった。次いで最後尾の一頭の頭も吹っ飛ばす。

 首から上がきれいさっぱり消失……ほどは飛ばされてはいないが、耳や眼球あたりは鉛弾に抉られて飛び散り、何とかくっついていた上あごが、下あごよりも下がってだら~んと垂れている様相はかなりグロい。

 三頭の絶命を確信した龍海は一息つくと6発全弾を撃ち尽くした銃のシリンダーを開け、エジェクションロッドを押して薬室内に目一杯膨張した空薬莢を吐き出させた。すぐに次弾を装填する。

「ぐっ、うう」

 負傷していた戦士が蹲った。

「アックス、しっかりしろ! フォールスさん! ポーション取ってくれ!」

「お、おう!」

 ――ポーション?

 馬車に隠れていたフォールスと呼ばれた男が荷の中から治癒のポーション入りの瓶を取り出し、槍の戦士に手渡した。

 剣士の服を捲って患部にポーションを振りかける戦士。掛けられたポーションは途端に泡立ち、傷を覆いながら広がっていく。

「く、染みる、な……」

「効いてる証拠さ。さあ、包帯を巻くぞ」

 ――飲むのではなく傷口に振り掛けるのか

 龍海は戦士が施す治療に注目した。

 いつか自分も同じ目に合うかもしれないわけで、しかと覚えておくべき事例だろう。

 いつ何時負傷するかわからない軍人にとってファーストエイドは戦闘訓練に並んで重要な項目だ。

「これでよし。アックス、荷台で横になってろ」

「す、すまんな……」

 戦士はアックスを荷台に上げると龍海に近寄ってきた。

「助かった、加勢してくれたこと感謝するよ。俺はトレドと言うものだ。アウロア市の冒険者ギルドに所属しててな」

「しの……いえ、私は龍海と申します」

 龍海は姓から名乗ろうとしたが思いとどまった。

 トレドは名前しか名乗らなかった。故に家名持ち=貴族・名家なんて制度・慣習があったりすると妙な誤解を生むかもしれないと考えてみた。

「タツミ殿、か。いや、ありがとう。角狼(ボン・ウルフ)が二頭現れて飛び出したら一頭が隠れてて不覚を取っちまってなぁ、あんたが加勢してくれなきゃマジでヤバかった。しかしあんたは見慣れない得物を持ってるみたいだな? しかも威力も強い。あんな離れたところから矢も火球も使わず角狼の動きを止めたり頭を吹っ飛ばすとか見た事が無いぞ。魔法かな?」

「まあその、魔道具とでも言いましょうか」

「そうか、すごい威力だったな……いや本当に助かったよ。ぜひお礼をしたいのだが今は護衛の仕事中でな。馬車と依頼人の商人を王都に連れて行かなきゃならねぇんだ」

「王都……ですか」

「そう、俺たちはロンドの町から来たんだ。依頼人であるフォールスさんの行商帰りでな。タツミ殿はどちらに行くつもりだったんだ? ずいぶんと軽装だが」

 確かに。

 武器もそうだが装備を整えるにしても、鬱蒼とした森の中より開けた場所で揃えた方が、と後回しにしていたら、こんな状況に出くわしてしまった。

 だが重装とは言えないまでも、それなりに防具を装備しているトレドらに比べれば、魔獣の出る森に、ほぼ着のみ着のままな自分の出で立ちは確かに不自然極まりなく見えよう。

 当初危惧したように、今の龍海の装備は場違いなほど軽装と判断せざるを得ない。

 ――小賢しいけど、ちょっと奸計噛ましましょうか……

「王都って?」

「え? いや、あの、王都だよ? アデリア王国王都アウロア市。知らないわけは……ん?」

 龍海は右手で額辺りを手で覆い、ゆっくり頭を振って見せた。

「おい、どうしたんだ、タツミ殿?」

「あ、すみません。頭の中がちょっとハッキリしなくて……」

「……なんか訳ありなのかい?」

「はあ……実は何か……今までの事がよく思い出せないんです。正直、なぜここに居るのかすら……この魔道具を持っている以上は、これが必要な目的があるはずなんですが、それもどうも……」

「記憶喪失?」


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