状況の人、招待を受ける1
フランジャー中佐は部下の報告を聞き終えると龍海たちに近寄ってきた。
「貴様たち、アデリア王国の者か?」
馬上から尋ねるフランジャー中佐。捕獲品の鎧を適当に装備した盗賊たちとは違い、同じメタルプレートのアーマーでも美しくも機能性に溢れた仕立てが成されており、それもあって品を感じる幹部将校であった。
盗賊と同じオーガ族の様だがキリっとした目付や立ち居振る舞いは、ホントに同族なのかと思いたくなるほど凛々しさを醸し出していた。
「お察しの通り。俺たち2人は、この盗賊団にさらわれた仲間を助けてほしいと依頼された冒険者だ」
「そうか」
フランジャーは今一度アジトの惨状を見まわした。
血で真っ赤に染まった小屋はもちろん、銃撃で損傷したり崩れかけの天幕等を見ながら、嘆息と共に肩を竦める。
「言っては何だが、貴様たち人間は 我らより肉体的にも魔力的にも劣る者が多い。然るにこの結果は、たった2人で仕出かしたにしては些か得心が行きかねる印象は拭えないが……アープ町界隈はもちろん、人の街にこれほどの腕利きがいると言うのは耳にしたことが無いのでな」
「俺たちだけじゃない。他に仲間は2人、それと依頼人の協力もあって出来た事だ」
「総勢20人ほどの盗賊団が、ここらから街道沿いに頻繁に出没と言う報告は上がっていたのでな。ポリシック閣下も本腰を入れて討伐を指示なされ、本日作戦行動を開始したのだが」
「じゃあ、先発隊は……」
「我らが討伐した。20人相手に二個小隊70名で臨み、これを蹴散らした」
「70名? 先発隊だけならともかく、残留分も合流するとちょっと心許なかったんじゃないかな?」
「その通りだ。出没情報は20人程度と言われていたのでこの編成で臨んだのだが、連中が増援の伝令を出した時は肝を冷やした。だがその伝令を貴様らの仲間が始末してくれてな」
――ロイとダニーかな? それともカレン?
「ついてはこの後、我々と一緒にデクスの街まで同行願いたいのだが?」
「え? どういう事? 女の子は取り返したし、あたしたち帰りたいんだけど?」
と、フランジャーの同行要請に眉を顰める洋子。彼女としては一刻も早く帰って風呂に入り、縮れた髪のケアをしたいところ。
「この状況をポリシック閣下に、貴様たちの口から説明してほしいのだ」
「領主に? そんな必要あるのか? あんた方がみんな討伐した、で良いじゃないか」
「そんなわけにはいかん! 我らの部隊は重症者2名、軽症者7名を出してはいるが戦死者は1人もいない。想定を上回る総勢40名近くの荒くれ者を相手にしてこの程度で済むなど疑問に思う者も当然出て来よう。何より他人の手柄を横取りするなど!」
――ありゃま?
えらくお堅い隊長さんである。
中世風な世相だと権力者の搾取癖や上司が部下の手柄を独占する、なんてイメージが付き纏うが、ポリシック領はそういう世相では無いのだろうか?
「カレン、送れ」ザッ
「聞こえとるぞタツミ」ザッ
「お前たちも警衛兵と一緒に居るのか?」
「ああ、攫われた娘の手当てをしてくれている。我らに危害を加えるつもりは無いらしい。今回の行動も歴とした治安維持活動と見て良いな」
「何をブツブツ言っとるのか?」
フランジャーが訝しげに尋ねる。
カレンの声はイヤホンで聞いているので彼には龍海の声しか聞こえていないのだ。
「ふむ、同行要請とな。まあ、せっかく娘たちの奪還に成功した後でもあるし、断って悶着起こすのもなんだ。招待に応じてはどうかの?」
確かに彼らには自分たちへの敵対心は、ほぼほぼ感じられない。
――魔族の領主辺りの事を見聞するいい機会と取ってもいいか?
「わかった、カレンの意見を採用しよう。終わり」
「なんだ? 誰かと話していたような喋り方だが?」
「まあそんなもんだ。それよりさっきの話だがあんたらとの同行については同意しよう。ただし、俺たちに危害を加えない、拘束しないが条件だが?」
「もちろんだ。提案を快諾してくれて感謝する」
龍海と洋子はフランジャーの手招きに従い、警衛隊と共に沢を下るルートで街道を目指し始めた。
龍海と討伐隊一行がデクスの町に到着したのは正午頃であった。
討伐隊の内、歩兵を中心に半数が盗賊の遺体の始末やアジトの処分のため現地に残っており、フランジャーらは騎馬隊を主力にしていたので行軍速度は比較的早かった。
城壁内に入ると昼食時と言う事もあり、屋台やオープンカフェ辺りは賑わいを見せており、建築現場などでも職人たちが手を休めて食事をとっている姿が見えた。
「アープの町とそんなに変わらない光景ね」
馬車の後方から顔を出し、街の風景を見ていた洋子が誰ともなく感想を呟いた。
「やっぱりオーガ族が多いかな? でもまあ、結構いろんな種族が居るなぁ」
もともとはオーガ族が集まって出来た町だけあって彼らが目立つのは当然だろう。
その他にもイーナを襲ってきたゴブリン系の者や爬虫類のリザードマン、ダニーの様な獣人族と様々な種族が入り混じっている。
王都やアープでもファンタジーでお馴染みのエルフやドワーフ等々種族は豊富であったがここはそれ以上だ。
ヒト種を基準とすればカレンの言う通り、確かに異形と言える種族が目立っている。
ここの住人か、もしくは自分らのような外国人かはわからないがヒト種も数は少ないが居るようだ。
そんな街中を抜け、町中央に差し掛かると更に壁に囲まれた一角が現れた。
領主である魔王ポリシックの屋敷――と言うより城に近い邸宅だ。
一行は中に入るとまずは客間に通された。
バスタブも用意されていたので早速、作戦での泥を落とし、身なりを整えて待つこと数十分、討伐隊の士官が龍海らを呼びに来た。
廊下の途中で洋子たちと合流し、領主と謁見する広間へ向かう。
案内された広間の中央辺りでは既にフランジャーらが整列しており、上座に向かって並んでいた。龍海らも誘導に従い彼らの後方に並んだ。
やがて上座方面の扉から魔王ポリシックが入場してきた。
質の高い生地で仕立てられたプリソンの上にブリオーを纏い、華美てはいるが派手ではない、風格ある装いの30代後半くらいの男だ。
まあ実年齢は龍海たちには想像もつかないが。