状況の人、戦闘に入る2
「連れて来れないなら居場所を言えよ! こっちから出張ってやるから、さっさと吐け、この低能!」
今度は洋子が畳み込んだ。
しかしうら若き乙女の口から出す言葉としてはちょこっと、お下品である。
――別のスイッチ入った?
彼女の未来の事を思うと龍海の胸の内に不安が少し過ぎった。
「舐めんじゃねぇぞ、この小娘がぁ!」
一人が叫ぶと同時に、その場の全員が得物を振り上げ駆け出した。
ドガァン!
すかさず洋子のM500が火を噴いた。
近距離ゆえに、やっと拡散し始めた9粒のペレットは盗賊のどてっ腹に全弾着弾し、彼奴は戦斧を振り下ろすことなくそのまま後ろへブッ倒れた。
続いて龍海も64の引鉄を絞る。
ドバドバァン! ドバドバァン!
2発ずつの単連射だ。狙いは大きな動きが無い腹部。近距離も相まって撃ち出された7.62mm弾は2発ともオーガの腹に吸い込まれ、臓物をかき回した挙句、背中へ抜けていった。
いかに屈強なオーガと言えど、フルサイズライフル弾二発の衝撃波には耐える事は出来なかった。被弾した二人は瞬時に転倒、そのまま死の痙攣に襲われた。
64式の連射時の回転速度はバトルライフルの中でもかなり遅い。
素早く指切りすれば一発ずつの射撃も比較的容易だ。
単連射においても、撃発をいち、に、と数えてから指を緩めればそこで止めてしまえるくらいの速度なのである。
歩哨の脚を撃ち抜いた時も安全装置がレの位置であっても単射出来たのはそういう事である。
龍海はダブルタップよろしく一人に二発ずつ撃ち込み、二人を屠ったのだ。
集まった盗賊どもは、あっという間に半減である。
「見えたぞ。西側のこちら側から二番目の天幕に捕らえられておる。見張りは一人だな」
龍海と洋子の襲撃により、天幕内の盗賊たちは大半現場に向かったようだ。
流石に攫った娘から完全に眼を離すことはしなかった様だが、一人だけならロイとダニーでも勝算は高まる。
「それじゃ、これより行ってきます。カレン殿、自分らに万一の事が有ればシノノメ卿に連絡をお願いします」
「おう、まかせておけ」
「では! ダニーくん、行くぞ!」
「うん!」
二人は姿勢をかがめて、西の草むら沿いを足音を忍ばせて進んだ。
ダニーはさすが猫族だけあって身のこなしは目を見張るものがあった。生い茂る草の中をものともせずにヒョイヒョイと駆けていく。山岳軍事訓練を受けているロイが置いて行かれるほどである。
目的の天幕に辿り着いた時にはロイは3m近く離されてしまった。
ドガァン! ドバン! ドバァン!
東方向からの銃声が続く。連中が飛び出して以降、標的の天幕付近に人気は感じられない。
――陽動は上手く行ってるようだ……
ロイがダニーに追いつき、二人は天幕入り口に取り付いた。
ダニーはハンドサインで、
(僕が先に入る、ロイさんは入り口の幕を閉めて他の連中から中を隠して)
と示した。
(了解。でも勇み足は無しだよ? 見張りは二人で倒すんだ)
ロイもハンドサインで返すと、G17を抜き、遊底を引いてゆっくり戻し、初弾を薬室に入れた。
持っている長剣では狭い天幕内での不利は見えている。使い慣れない不安はあるが、より確実な方を選ぶことにした。
――この大きさの天幕では自分の剣は勝手が悪い、シノノメ卿の予測通りだ……あれだけの打撃力があればこちらの方が……
メガロボア相手に初めての拳銃を体験し、表皮を弾かせながら体の奥深くに食い込む銃弾の威力を目の当たりにすれば、こちらを装備する方がより最適解だと初心者のロイでも容易に分かろうというもの。
二人は一つ深呼吸して息を整えると頷き合い、またもハンドサインでカウントダウン。
(1、2、3!)
バッ!
3と同時に入口の幕を捲くるロイ。即座にダニーが突入する。
「だ、だれだ、てめぇ!」
次いでロイも侵入し幕を閉じて外部と遮断した。見張りと向き合うダニーとロイ。
ミコとジュノンの前に居た見張りは、盗賊仲間とはかけ離れた風貌の、それも小柄な人間族の若僧――いや、小僧と言っていい侵入者と対峙。
見張りの盗賊としてのカンは、一目でダニーらが獲物である有翼女の奪還を目論む、娘たちの仲間だと判断。かかる侵入者に対し腰の山刀を抜き、ダニーに襲い掛かった。
ダニーは短剣で彼奴の山刀を受けた。
ガイン!
しかしダニーとオーガの体格差は如何んともし難かった。
「くあ!」
見張りの山刀に押し負け、吹っ飛ばされたダニーは入り口を閉じたロイにぶつかった。
「ガキどもォ!」
迫る山刀。ダニーは両手で短剣を持ち、渾身の力を込めて山刀を受けて膠着させた。
――ここだ!
ロイは右へ飛ぶように転がった。
ダニーと鍔迫り合っている見張りオーガの脇腹を狙い、G17の銃口を上へ仰ぐ形で構え、
バンッ!
引鉄を引いた。
「きゃ!」
9mm×19mm弾の撃発音に悲鳴を上げる娘たち。
「ぐ、が!」
9mm弾に脇腹から背骨をかすめて昇るように貫かれた見張りは山刀に入れていた力も抜けて膝をついた。山刀が手からこぼれ、ボタッと地に落ちる。
「ハァッ!」
ザクッ!
その機を逃さず、ダニーが渾身の力を込めて短剣を見張りの喉元に突き刺した。
「ぐが! ふぉ……こ、小僧……」
だが、屈強なオーガの身体を貫くほどの力はダニーは持ち合わせてはいなかった。
見張りは手を伸ばしてダニーの首を掴み、締め上げ始めた。
「ぐえ……」
呼吸を阻害され舌が一気に飛び出すダニー。
――ダニーくん!
ロイは射線がジュノンたち掛からない位置に身体をずらすと、
バンッ! バンッ! バンッ!
と腹に向けて三連射した。
「がはぁ!」
見張りはその苦痛に大口を開けるが、それでもダニーの首から手を離さなかった。
完全被甲の9mm弾では威力が足りなかったか? 話に聞くオーガの体力は斯様に頑強なのか。
「く!」
業を煮やしたロイはG17の銃口を見張りの口に下方から突っ込み、上あごに向かって、
バンッ! バンッ!
二連射した。
4発の9mm弾に耐え抜いたオーガであったが流石に口内への攻撃には抗えられるモノでは無く、撃ち抜かれた脳髄は射出口から噴き出され天幕の内に、天井に、地面に撒き散らされた。
と同時に見張りオーガは全身の力が抜けて、そのまま地面にグチャッと崩れ落ちた。
倒れたオーガからの出血は、頭部の射入口・射出口のみならず口から鼻から耳から等あらゆる穴から、まるで弾けた水道の如く噴き出して瞬く間に辺り一面、朱に染めていった。
「ダニーくん、大丈夫か!?」
「けほ! けほ!」
軽くせき込み、息を整えると小刻みに頷き、
「大丈、夫……」
と答えながら娘たちの方へ廻り、縛られた手足の縄を切った。
「ミコ姉、ジュノン姉。ごめん、遅くなった」
喉を締めあげられて、しわがれてしまった声でミコたちに謝るダニー。
「来て、くれたのね!」
ジュノンがダニーに抱き着いた。ミコも続いて涙ながらにしがみ付いて来た。
ダン! ダダン! ダダン!
龍海たちの銃声が響いた。
その音を聞き、龍海と洋子がオーガたちを引き付け続けている状態だと判断したロイは「急ごう!」と三人に脱出を促した。
ロイはダニーの短剣で入口の反対方向の天幕を切り裂き、周りに盗賊がいないことを確認すると皆を外へ誘導した。