状況の人、竜退治する3
「この辺だと森林バイソンだね。お前さんの言う通り我は火球を出せるからね、バイソンを口で咥えたまま火球をチョロ出しして炙るんだよ。中までほんのり火が通ったら徐に齧る! そしたら肉汁がドバっと噴き出して来てこれが最高に美味いんだな!」
自分の捕食行動を何だか自慢げに、面白がるように語りだす火竜。
――グルメドラゴン? いやまあ肉汁ドバーはいいけど血抜きとかしてないし、だいたい腸内にはまだ未消化物や排泄物も残っててそれも焼いて食うって……うげぇ……
作戦前に食事をとって3時間超、肉汁ドバーだけなら飯テロになったかもだが、腸内の件でそれは避けられた。更に生きたまま火で焼かれた挙句、噛み潰されるバイソンさんの胸の内は如何ばかりのものかと考えると……
飯テロはさておき、火竜と会話が出来るというのは嬉しい誤算だ。
しかも奴は贄を欲してはいないらしい。
話し合う事が出来るのであれば村との手打ちも期待できるのでは?
しかし、だとすれば奴はなぜ村に火球を放った? 村に、もしくは人間に敵対心が無ければそんな事をする理由がみつからない。イーナや村人の言い分と齟齬があるのか?
――四の五の考えてても仕方ないな。何とか穏便に会話に混ざる事が出来れば……
昼間のゴブリンではないが、話し合いが出来るのに最初から交戦ありきでは良い結果も放棄してしまうことになる。
今の話を聞く限り、エミと火竜は敵意の無い良好な会話をしていると見ても良いだろう。
――とにかく名乗りを上げて出てみるか? でもLAMを好戦的に構えてって訳にはいかないし、とりあえずここに置いといて……
龍海はLAMを岩に立てかけて、吊っていた64式も身体から離した。
この世界の者だと一見しただけではおそらくこれらを武器とは認識しないだろう。しかし、なるべく誤解を生む要因は外しておきたい。
折り悪く決裂なら何とかここまで辿り着き、LAMで応戦するという方向で。
収納に入れて、交戦即取り出し……という手もあるが、撃てる間合い、足場であるかは不明だ。
一応、収納には予備のLAMを収めてはあるが、決裂ならエミを保護して距離を取らなければならない。
何より、戦意が有る様には極力見られたくもなし。故に64式もLAMの隣に立てかけておくことに。
が、その時、
カコン!
64式の弾倉がLAMに当たってしまった。
――げ!
バランスを崩し、勢いついて倒れるLAM。
ガシャーン!
石と金属がぶつかる乾いた音が洞窟内に響き渡る。
「誰か!」
音に反応した火竜が誰何してきた。
――気づかれた!
肝心なところで下手を踏んでしまった。だが、こうなっては仕方がない。堂々と正面から行くしか。
しかし。
「何者だ? 今のは剣か槍か、金属が当たる音の様だし獣ではあるまい。魔族か、それとも人間か?」
火竜は音のした方に顔を向けつつ、エミをチラ見した。
「わ、わかりません。でも人だったら、この周辺にはあたしの村くらいしか無いはずですが……」
「そうか! お前を生贄にしようとした外道どもか!」
――え? まずい、村人と間違えられてる?
「この痴れ者めが! 未来ある幼気な少女を贄にしようなど、貴様らの血は氷よりも冷たいのか!?」
――うお! なんかいい啖呵切ってなさる。その辺は確かに同意!
「ならば我が人の血レベルまでに温めてやろうぞ!」
――え?
言い終えると火竜は立ち上がった。同時に口の周りが発光し始める。
――ブ、ブレスか!?
火竜の口に纏わりついた光はやがてオレンジ色の炎の球体となり、更に圧縮されていき、
ボン!
と、一気に撃ちだされた。
――来た!
火球というより高速火弾だ。
まるで平成版の亀怪獣の口から繰り出される、強烈で着弾と同時に爆裂しそうな火弾!
龍海は岩陰から飛び出した。その直後、
ババアァーン!
火弾が激突した岩は銃声とはまた違った、鈍いが派手な爆発音とともに木っ端みじんに砕かれ、LAMや64式を瓦礫の下に埋めてしまった。
「いたな! 逃げ足は速そうだな!」
「ちょ! ちょっと待って! 誤解だよ! 俺は!」
「問答無用! 村の者が二度とこんな真似をしないように貴様を血祭りにあげて村の入り口にぶら下げてくれるわ!」
話が出来ると言う事と、話が通じると言う事はイコールではない。
同じテーブルに着いていない以上、面と向かわせるのに必要なのは力である。
が、LAMも64式も無くした今、装備しているのは九ミリ拳銃のみ。とても効果があるとは思えない。てか撃つ暇もない。当然、予備のLAMを取り出して反撃、なんて叶うわけもない。
ボン! ボン!
次々撃ち出される火球弾、今の龍海はそれをジグザグに走って避けるのが精一杯。
「ぬう、暗視魔法が効くのか? これだけ突き出した岩を避けながら右へ左へと。すばしこい奴!」
ボン! ボン!
火竜の火球弾攻撃が続く。
火竜もやみくもに撃っている訳では無く、龍海の動きを予測して放ってはいた。
基本、龍海は石や岩が出ているところを避けて走っている。
だから石の無い所に予測して撃ち込むのだが、今度はそれを除ける様に岩を飛び越え、石を踏み越えたりしていた。
自衛隊時代に行った武装障害走での、泥濘地を飛び越える幅跳びや2m以上の壁を乗り越えて走破する囲壁などの訓練がしっかり役に立っている。
しかし龍海としても、火竜の攻撃を読んだり見切ったりして避けているのでは無い。
ジグザグ走りのターンも所詮はランダムに当てずっぽうにやっているだけだ。
故にいつかガチ合う。
それがいつ来るか? 出口まで持つか? 火竜の弾切れは期待できないのか?
先が見えない。だとすればまずやることは洋子への避難指示だ。
「洋子! 退避だ!」ザッ!