状況の人、依頼を受ける2
「お願い? つまり何か依頼したいって事?」
「はい!」
「ああ、それならまずは王都のギルドへ正式に依頼してほしいな。これでも王都のギルドの一員だからね……」
「え、ええ。ギルドには依頼の相談はしたのですが、そ、それがその……」
「うん? どうしたの?」
「お金が……ありません……」
「金が無いって? どうして? まさか俺たちがタダで依頼受けるなんて考えたの?」
「いえ、まるっきり無い訳じゃ無いんです! ただその……」
「足りない?」
「は……はい」
「なに? そんな厄介な仕事なの?」
「う~ん。とりあえずどんな内容か、話してくんない?」
「はい……私はここから北にある村に住む、イーナと言うものです。その村の更に西に昔の火山があるのですが、その火口にここ数か月前くらいでしょうか、山の主が済み始めまして……」
「主?」
「そうです。昔、100年くらい前にも住んでいたそうなんです。当時はとある時点で居なくなったらしいのですが、また舞い戻って来まして。その主は時々癇癪を起こすのか、同時に村や畑に大きな火球を飛ばしてくるのです。それは特に夜に多く、その度に村人は負傷し、家を焼かれ畑を焼かれて、大変な被害を被っているのです」
「酷いわね。でもその山の主って何者なの?」
「火竜です。古代龍の……」
「カリュウ?」
ピンと来ずに首を傾げる洋子。しかし龍海は眉間にしわを寄せた。
「それって……もしやドラゴン?」
「い!?」
ドラゴンと聞いて洋子も口を一文字にして驚いた。
ゲームやファンタジー物に疎い洋子でもドラゴンくらいは当然分かる。しかもかなり強敵っぽいイメージも。
「はい、東方だとそう言った呼び方をするところがありますね。お二方はそちらのご出身ですか?」
「え? あ、いやいや。ギルドで小耳に挟んだだけでね。ドラゴンがどんな大きさとか風体とかは知らないんだ」
取り敢えず適当に誤魔化す龍海。
しかし竜の類がどんな種類、特性があるのかは全く知識がない。
もしも、日常よく見る珍しくもない魔獣であるのなら今の言動は迂闊に過ぎる。
――でも今まで竜の類が飛んでたりするのは見ていないけどなぁ~
「そうですか。火竜の様な古代龍は、小飛竜、ワイバーンみたいな小型竜ほどは見かけませんものね。私も火竜を含めて古竜を見たのは初めてです」
よかった。龍海の言った事との整合性は、そこそこ取れそうだ。
――しかし……
胸を撫で下ろすと同時に、いや~な予感も擡げてきた。
イーナの依頼の内容とは、どう考えてもこのドラゴンの退治、もしくは排除であろう。
「イーナさんはどこで見たの? その火竜ってのを?」
「はい、遠目ではありますが火山の火口に降りていくのを見ました」
「……どれくらいの大きさ?」
「翼を広げれば20m以上の幅はあると思います。体長は9~10mと言ったところでしょうか?」
とりあえず龍海は気を楽にした。もしも大きさが、かの有名な金色の三つ首竜サイズだったら再現で核兵器を出す事が出来たとしても、なんだか勝てる気がしなかった。
とは言え、たとえ7~8m程度であっても、それはかなりの大きさだ。
おまけに竜の鱗は高硬度であるのが相場である。
仮にその相場通りならば、通常弾しか再現できない龍海のストックの中では最強の、12.7mm弾でも果たして貫く事ができるのか?
まだ再現はしてはいないが、小銃擲弾や|110mm個人携帯対戦車弾まで出す必要がありそうだが、効果のほどは全く予想できない。
「……それを俺たち2人で退治しろと?」
「いえ、とにかく追い払っていただくだけでも……」
「ギルドがダメなら、軍や国に討伐を依頼するとかしなかったの?」
「領主さまが事情を伝えてくださったのですが、国からは『検討する』と返されたまま音沙汰が無いんです。冒険者ギルドでは要求された報酬が高額で、村中でお金を集めても足りなくて……」
「そんな! ギルドはともかく国が動かないなんて!」
洋子激昂。
「まあ、確実に仕留められる戦法が確立してればともかく、まるで歯が立たないとか、逃げられた挙句その村より人口が多い所が襲われたりしたら犠牲者がもっと増える……国や領主は、そんな風に躊躇してるのかもしれんな」
「でもギルドは報酬を出せばやるって言ってるんでしょ!?」
「さて、それもどうかな? 最初から出来ない、と言えばギルドの信用が落ちる。だから法外な報酬を示して諦めさせるつもりかもしれん」
龍海も会社で就業中、やれなくはないが工程が非常に面倒な案件とか、忙しくてとても受けられない依頼を断る時にやったり、やられたりした珍しくない手段である。
「受ける気はないが冒険者ギルドとしてのメンツは保たなきゃいかん、なんて時に使われそうな手だわな。まあそれは置いといても、とにかく俺たち2人では難しい依頼だという事は間違いなさそうだなぁ」
「それじゃ、レベッカさんかアリータさんに連絡取ろうよ。あたしたちからの要請なら!」
「動けるもんならとっくに動いてると思うけどな。でもまあ、このまま知らんぷりも出来ないし、予定からはズレるけど今日午後からでもアープの町に出発して、一応連絡を取ってみるか。それで軍に対応の進捗状況を教えてもらおう。イーナさん、悪いが俺たちに出来ることはそのくらいで……」
「それじゃ遅いんです! 今日でなけりゃ!」
龍海の提案を最後まで聞くことなく、イーナは涙声でそれを遮った。
目からは、今にも涙がこぼれそうになっている。
「ど、どういうこと?」
「言い伝えにあったらしいんです。以前に火竜が住み着いた時も同じような被害があって、火竜の怒りを鎮めるために人身御供として若い娘を差し出したと。それで火山の主は気を静めたと」
「はあ? なによそれ!?」
「え? まさか今回も誰かを生贄に? あ、もしや君が?」
「いいえ……」
イーナは項垂れ、消え入りそうな可細い声で、
「私の……妹です……」
と答えた。
「妹……さん?」
洋子が繰り返したあと、沈黙が訪れた。