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状況の人、異世界で無敵勇者(ゲームチェンジャー)を目指す!  作者: 三〇八
状況の人、異世界へ転移する
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状況の人、実戦する1

 荒野での行軍は一昨日で一旦終わり、昨日からは森の中での訓練を行った。

 木々の間を抜けて、相方(バディ)が前進する間の援護射撃、役を交代して今度は援護を受けながら自分が前進。その後目標に到達。そんな訓練を繰り返す。

 その辺りは、龍海自身が受けた訓練に準じているが、自衛隊の訓練と違っているところと言えば実弾を使用できるところだろうか? 実際の演習時の射撃は、口頭で「ばーん!」と叫んでいた龍海としては実弾を使っての訓練は非常にテンションが上がった。より実践的な状況を構築出来る。


 荒野では一日が終わればその場で野営としていたが、森中ではそんなに都合よく野営できる場所は見つからないので森と荒野の境まで出て野営した。

 その境目に沿って移動し、アープへの街道に出たら状況終了にするつもりだ。

 訓練を開始して今日で7日目。洋子も思ったより身を入れて訓練に励んでくれてはいるが、さすがにもうそろそろ、ちゃんと雨風をしのげる場所での休養が必要だ。いくら勇者の素質があると言っても戦士としてはまだ初心者(ビギナー)であるし。 

「洋子ちゃん、今日の訓練は休みにしよう。一週間ご苦労さんだったしね」

 龍海は今日を休日にすることを提案した。

 あの散弾銃での命中に気を良くした洋子は火器にがぜん興味を持ち始め、訓練等も一所懸命に受けてくれた。

 この一週間の訓練でも日を追うごとに文句の回数は減り、この不慣れな異世界で生きて行く自信が積み重なっていくのを自覚している印象を受ける。

 とは言え、やはりそこは17歳の女子高生。調子に乗って過負荷をかけ過ぎれば身体もメンタルも疲弊してしまう。それでは当初の目的から逸脱することになるし、その意味で休養も錬成訓練の重要な工程だと龍海は判断した。

「あ~、それは嬉しいな。正直、一晩寝ても疲れが取れなくなってきてたし~」

「なんなら森の中でバスタブ出そうか? 湯に浸かってゆっくりしたいだろ?」

 訓練の中には銃器や銃剣道・徒手格闘の様な戦闘行動のみならず、歩哨等の警戒所作も伝えてある。

 今では森中で入浴すると言っても全くの無防備では無いし、油断することもあるまい。

「うん! お風呂入りたい! あ、でもシノさん、あたしのこと覗くんじゃないでしょうね~?」

「ハハハ、しないしない。俺がそんな事するようなら遠慮なく拳銃ブッ放してくれていいぜ? でもあまり離れていない所には居させてもらうよ。無防備な状態で何かに襲われたらシャレにならないからな」



 と、それから小一時間。森の中で再現を使ってバスタブを出してもらって湯を張り、洋子は木々に囲まれる中での入浴をどっぷりと堪能していた。

「入浴と森林浴……考えてみりゃメチャ贅沢よね~」

 入浴自体は一週間ぶりだが、あまりにも常識から外れた体験の連続に、なんだか一月ぶりくらいに入ったような気さえする。

「異世界かぁ……」

 突然の死。転生・転移がごちゃ混ぜになったような異世界召喚。

 数奇な運命……人生大逆転。

 表現するにはそんな在り来たりの言葉じゃあ全く足りないレアケース。

 最初の内は、自分は一体どうなるか? 城の中でも、脱走して路地裏で布を被って震えていた時でも頭の中は錯乱寸前であったが、今はこんな異常な状態でも受け入れ始めて、あろうことか見知らぬ森の中での入浴を堪能、と来たもんだ。

 掬った手の平からこぼれる湯を眺めながら洋子は今の自分の心境に小首を傾げた。

 魔導国とアデリアを併合できれば日本に帰れる……

 国同士をどうこうと言うのは今以って全くピンと来ないが、

――日本に帰れる手段がある……

それだけでも希望を持てているのだろうか?

 王国対魔導国戦争のゲームチェンジャーになるなんて、本来気が遠くなるような大それた話なのに、

――何とかなるのかも?

と、考えてしまう今の自分。我が事ながら、まっこと不思議な感覚であった。

 今、訓練している銃火器は剣や槍の間合いに入ることなく攻撃でき、弓・魔法による遠距離攻撃よりも正確に、かつスピーディに連続して打撃を与える事が出来る。

 それら近代兵器は自分たちに圧倒的なアドバンテージを担保してくれるだろう。

 この世界には無い強力な火器、それらを製造し、操る龍海の存在は大きい。

 この人に付いて行けば……から始まり、自分も火器を使えるようになり、魔法に関してもお互いに手探りで初歩的ながらではあるが習得しつつある。

 この風呂桶を出したのは龍海だが、湯は洋子が出したものだ。バスタブに、張られた湯をイメージして念を込めると、いきなり湯がザバッと現れる。

 これら火や水の出し方は毎日夕食後辺りから、龍海のヘルプ機能の説明に沿って二人で練習し、覚えたものだ。

 かいつまんで言うと魔法とはイメージの具現化である。

 二人の魔法力は、今現在戦闘で使用するにはまだまだ力不足は否めないものの、通常の生活で使う範囲の火や水なら容易に出せるところまでは出来ている。

 あまりにも簡単に出来てしまい、繰り出した本人が一番驚いた、そんな感じであった。

 この異世界技の定番である魔法を実現出来たことは、二人揃って喜びあっていた。と言うか、『面白がっている』に近いかもしれない。

 更に、それらの制御は龍海より洋子の方が優れていることも証明された。

 例えば炎や水、風などは量も動きも速度も洋子が繰り出す技の方が上回っていたのだ。

 まだ威力も範囲も少なめではあるが、3~4日で工業用のガスバーナーを思わせる炎や、水ならシャワーや散水ノズルから出る放水程度もこなせるまでに至っている。この辺りは父親の会社で重機や車両の修理・整備、洗浄などを見てきた記憶が好材料となってイメージし易いのかもしれない。

 今のところ射程は1mにも満たないが、細い火の柱を曲げたり(しな)らせたりも出来始めている。やはり勇者の称号は伊達では無いと言う事か?

 対して龍海が出す水は再現(リプロダクション)の応用に近く、火や風の属性に関しては能力値が低いようで、自在に操るには洋子以上の練習が必要になりそうだ。

 だが洋子ならば、火炎放射器並みの炎も出せるかも? もしかしたら冗談でも無く、そんな大技などであっても、それなりに期待出来るかもしれない、龍海はそう思った。

 科学が劣っているこの世界では、洋子や龍海自身が会社・鉄工所で見なれた、温度が1000℃を超えるガス切断機の炎や溶接機のスパークなどに相当する現象を、魔法で実現されているのだろうか?

 こちらの魔導士がそういった炎のイメージが湧かないのであれば、鍛錬次第によっては魔法でも一歩先を狙えるかもだ。 

 他にも攻撃に使える魔法だけではなく、相手から視認を阻害する、陽炎や蜃気楼を合わせて軽いモザイクを発生させるような迷彩(カモフ)魔法等の防御系の魔法も発動できている。

 これまで中・大型の魔獣を見かけない事もあるが(寄って来ても銃声にビビッて近づけない?)、森の中で風呂に入ろうと考えられるのもそう言った策を講じられるから、というのも多分にある。

 その辺りが自信となって希望を持てるようになってきているのかもしれない。

 目指す先が見えてきたせいだろうか? 家族と会えない事にも以前ほどの悲しみや寂しさは無い。

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