表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
197/197

状況の人と、勇者の帰還5

「あー! だめだめ! ロイ! 見ちゃダメぇー!」

「え? 何慌ててるんだよ。あれって古龍方の素のお姿なだけだろ?」

 いわゆるラッキースケベなイベントであるに、ポケ~とした無表情・無感動な眼のロイ。相変わらずイーミュウ以外の女性には我関せずらしい。

「シノさん! 古龍さん(姉さん方)はともかく、アマリアちゃんに何を野外プレイなんかさせてんの!? ちょっとそこに正座しなさい!」

「いや、そんな趣味ねぇし! つか、あれはウェンさんたちが無理矢理!」

「いいから正座しろ、このエロオタ!」

 いや、河原で正座とか、拷問でしょうよ洋子サン?

「わ、分かった分かった! すぐ服着せるから!」

 言われて龍海は再現で次々服を出した。よほど慌てたのか出す服出す服、すべてジャージであったが。


「そうかぁ。そんな顛末とはなぁ~?」

 ジャージを着ながら事情を聞いた古龍たちは昔の馴染みの帰還を歓迎していた。

「タツミの相棒であるし、その意味ではワシらの盟友も同然だからな。再び相見(あいま)えたことは大変喜ばしい。よし! 二次会はヨウコの歓迎会だな!」

 ――ほい?

「賛成、ペクちゃん! ロイちゃんたちも来てるし、テーブルに行こ!」

「さあさあ、ヨウコさん、イーミュウさんもいらっしゃいな!」

 ネーロやアーシーらにも喜ばれ、洋子や龍海たちは肩を竦めながらもフッと笑いを浮かべ、みんな揃って、会場となるコンロ周辺に向かって歩き出した。

 その途中で、

「ねえシノさん?」

洋子が尋ねてきた。

「ん?」

「あたしってさ……」

「……」

「シノさんの事、支配してた?」

「え? 何のこと……あ、さっきの話か?」

「シノさん、あの時……泣いてたでしょ?」

「ん~……ああ、あの時か? てかお前も泣いてただろ?」

「どう?」

「……さあな? お前は?」

「え?」

「俺に支配されてた、そんな風に思ってたか?」

「……う~ん、さてね?」

 答えにならない答えを交わす龍海と洋子。しかしてその二人の表情は心の底から認め合ったお互いとの再会を喜んでいるそんな笑顔だ。

「そう言えばヨウコよ?」

「ん? なあに?」

「話だと、すまほだけは故郷(くに)に帰したんだったな?」

道すがら、カレンが洋子に聞いてきた。

「そうだけど、それが?」

「そうか。う~む、残念じゃなぁ」

「なによ? なにが残念?」

「いや、ほれ。結婚式のタツミとロイの活動画、アレだアレ!」

「え? あれ? ああ、あの動画!?」

「う~む、また見られるかもと期待したのだが……いや残念無念!」

「良いんだよ、あんな動画! 公序良俗に反するあげな動画は、三千世界から消えてしまえばいいんだ!」

 トラウマ級の思い出に思わず「要らんネタを!」とプンスカする龍海。

「え~、あの破廉恥な絵草紙をいつもご覧になってるシノさまが公序良俗とか仰いますのぉ?」

「自分も見返したかったんですけどぉ~」

「黙れロイ! みんなの心の中だけに仕舞って表に出すんじゃねぇ!」

 意気消沈のカレンやロイ。これ以上は無いってくらい唇が(とん)がっている。

 だが。だが洋子。

「えっへへ~」

 不敵な笑みを浮かべ始め、

 ――ん?

一同の注目を浴びる。

「はい!」

 軽妙な掛け声とともに、ポケットから抜き出した洋子の右手人差し指と中指の間には、小さなメモリーカードがちょこんと挟まれていた。

 ――え?

 メモカを見た瞬間、脳内でいろんな点と点が結び合った龍海の血の気が一気に引いていく。そのメモリ内のデータ内容など想像するまでも無い。

「例のデータは写真含めてみぃんな、このカードに記録してあるわ。スマホさえあればいつでも見られるわよ?」

 ――やっぱりぃー!

 龍海の血の気が更に引いた。おまけに冷汗ダラダラ~。

 それに比べて、思わぬ朗報に後光もかくやと思わせる光に包まれるカレンとロイ。当然オメメ、キ~ラキラ!

「でかしたヨウコ! さすが我が一番弟子!」

「あとは卿にすまほを再現してもらうだけですね!」

「断る!」

 龍海、当然に即答。

「よいではないかタツミ。それくらいは」

「なんだよメル! お前も見たいのか!?」

「そうですわ! ヨウコさまのご帰還のご祝儀に!」

「アマリアもかい! おまえら自分の亭主が男にNTRされても平気なんかぁー!」

「もう、御託はいいから、さっさとスマホ再現してよシノさん?」

「絶対ヤダ!」

「あら、そぉ~お? う~ん……。ねぇアマリアちゃん? シノさんのいつも腰にぶら下げてる雑嚢、今日持ってきてる?」

 ――ハ!

「え? ええ、タツミさまはいつも携帯されていますから、今日も……確かコンロの横に置いてあるかと?」

「それよ!」

 ――ま、まさか!

「その中にはタブレットが入っているはずよ! コミックだとあたしたちにバレるから、ダウンした電子書籍で満載のタブレットを再現してたはずだから、あれならスマホより大きな画面で見られるわよ!」

「な! お前また俺の雑嚢をこっそり!?」

「こっそりじゃない! シノさんが、トイレとかで居ない隙に()()と調べたの!」

 だからそれ、こっそり……

「く! させるか!」

 龍海はコンロに向かって全力で駆け出した。久々に筋力強化魔法発動! 

「むう! この機会を逃してなるものか! いくぞロイ!」

「はい、合点です!」

 目を血走らせ、即座に追いかけるカレンとロイ。

「おねえさん方ー!? シノさんを押さえてー!」

「え~? なあに~?」

「ウェン様! 例の動画が見られるぞ! タツミを押さえてくんなまし!」

 ――くそぉ! カレンのヤツ、余計な事を!

「なんと! あの美動画を再び!?」

「きゃー! なんて幸運!」

「なにか!? タツミを川に放り投げればよいのか? そうなんだな!?」

「おまかせ~!」

 ――なぜーー!?

 龍海の筋力強化もここまでであった。ナチュラルでこの上ない素早さを誇る古龍連に、ちょっとくらい魔法に秀でた程度の人間如きがその包囲をすり抜けられるべくもなく、龍海は5人の古龍(お姉さま方)に、雑嚢まで指先あと5,56mmのところでとっ捕まってしまった。

「あ、そ~れ!」

「うわ~!」

 バッシャーン!

 5人もの古龍に抗えるはずも無し。凄まじい水しぶきを上げて龍海は川に放り込まれてしまった。

「ぶは!」

 龍海が水面から顔を上げると、洋子がタブレットを操作して、みんなで例の動画を、きゃーきゃーと黄色い声を上げながら鑑賞しているのが見えた。

 ――終わった……

 万事休す、ガックリ項垂れる龍海。

「大丈夫ですか、タツミさまぁ?」

 アマリアが来てくれた。

「災難だったなタツミ」

 微笑むメルが手を差し出してくれた。アマリアもそれに倣う。

「…………へっ」

 憮然としていた龍海はであったが、やがてほんのちょっと噴き出すと、両手を出してメルとアマリアの手を取った。二人一緒で引き起こしてもらう。

「申し訳ありません、シノさま。()()()()が調子に乗っちゃってぇ」

 などと殊勝に詫びるイーミュウ。しかしその顔はテヘペロで笑っていた。その朗らかな笑顔に龍海も絆されていく。

「た~つみぃ! 早う来い! 歓迎会のビールも食材も足りんぞぉ!」

 カレンが催促してきた。次いで洋子、

「シノさぁ~ん! あたしも久しぶりに和牛とスイーツ食べたいわ~。早く来て~!」

と屈託のない笑顔で叫ぶ。そう、本当に屈託のない笑顔だ。

「おう! いまやるよ!」

 龍海はメルとアマリアを両手に抱きかかえ、身重のイーミュウを庇いつつ一緒に洋子たちの所へ歩き出した。

 川の水でびしょ濡れになった龍海の顔。メルとアマリア三人、顔を合わせて笑いあう。

 その濡れ落ちる水と共に龍海は人生二度目の、零れ出しているのに気づかない涙を流していた。

 だがそれは、一度目とは全く真逆の意味を持つ、そんな涙であった。

どうも、三〇八でございます。いつもお世話になっております。

本作も無事、EDを迎える事が出来ました。自分が描きたい世界を描き、それを皆様に読んで頂いていること、それこそが最後まで続いた原動力でありました。

 次回作もまた異世界物になりそうですが、本作を終えた事も有り、処女作である「はいっ!こちら異世界人魔導特別遊撃隊!!」のブラッシュアップも行っております。これを契機に未読の方に覗いていただければ幸いでございます。

 長い間のお付き合い、ありがとうございました。また皆様と縁が深まる事を祈願して〆の言葉とさせていただきます。またお会いできる日が来ますように……

                                  三〇八

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ