状況の人と、勇者の帰還3
「ちょ、カレンさま! 何ですか!? そんなあられもない御姿で!」
カレンがスッパにタオルだけでやって来たことだ。
「ん? 我ら古龍は本来この姿こそ通常なんだと何度言わせれば? ウェン様たちもみなこれもんで水浴びしておる。タツミなら覗いても誰も文句言わんぞ? 見てこんのか?」
「カレン殿! お身体に自信があるのは分かっておるが、余やアマリアの前では自嘲して頂けんか?」
「ん~? しかし龍海は女の胸が大好きじゃからな~。古龍は大小色々揃っとるし、眼福でないかな~?」
「もう! そうやってタツミさまを弄ってばかり! いくらタツミさまのお師匠様とは言え!」
「それも修行の一環じゃ。この程度で、いちいち癇に障っておっては連邦府の総裁たるのメンタルは維持出来んしな!」
「とにかくお召し物を! せめてこれだけでも!」
アマリアは龍海謹製のジャージをカレンに着せかけた。相変わらず胸周りを通る時のファスナーの重い事。
「まあ、興味ない訳じゃないけどさ~。今の俺はメルとアマリアですら身の丈に合ってないって感じでさ~」
カレンのイジリをものともせず、平常運転で缶ビールを開ける龍海。一口目をグイーっと煽る。ぷはぁ~。
「うんうん、分かってるなタツミ!」
「うれしゅうございますわ! でもわたくし、なかなか閨にお呼びして頂けないのがとても残念なんですけどぉ~?」
目を細めて、軽くプンスカモードのアマリア。龍海としても自分を求めてくれるのは嬉しい限りではあるが、やはり彼女はまだ……
「や、それはやっぱ……何のかんの言ったってアマリアはまだやっと13歳だしさ? もうちょっと、もうちょっと辛抱しよ? ね?」
「でも、わたくしの身体はほら、この通りメル姉さまにも負けてませんわ!」
「ほほ~、余にあらためて宣戦布告かアマリアよ? ふふ、かわゆいのう」
「まあまあ。アマリアは確かに見た目は一人前だけど見えないところ、例えば骨格とかちゃんと固まって大人と同等になっているかは分からないしなぁ。俺は、いつかはお前との子も欲しいし、でもお前の身体に負担が増えるのも良くないからな。落ち着いてじっくりと計画しようよ」
「ああ~、タツミさまぁ! わたくしの事をそこまで! 一生ついて行きますぅ~」
「当り前であろう。三人、神前で誓ったではないか? 共に果てるまで、だ」
「みんな~! なにしてんのよ~」
婚姻の儀から既に数か月経つというのに惚気まくるメルたちに、ウェンが声を掛けながらやって来た。しかも、当然ではあるがスッポンポンだ。
「ウ、ウェン様! タオルも無しで!」
いや、この絵面はマズい! 甚だマズい! 実にマズい!
たとえ実年齢が4桁のBB……いや年長さんであっても見た目10~12歳のこれは倫理に悖る!
「ほら~、メルちゃんもアマリアちゃんも一緒に泳ごうよ~、ね!?」
「いえ! 水着とか持ってきておりませんし!」
「いいじゃん、あたしたちと一緒で」
「え! そんな! タツミさまもいらっしゃるのに!」
「何を言っとる? タツミだから良いのではないか、夫婦であろ? 他には誰も居らんぞ?」
「ペクニャーさま! そういう問題じゃ!」
「あら~、あたしたちの誘い断るって~? そんな良い度胸はこの胸かぁ~?」
などと言いつつ二人の服をまくろうとするアーシー。古龍さま方による、もろセクハラ・パワハラだ。
「脱いで水浴びするか、服のまま放り込まれるか、お選びなさいませ~」
ネーロさん、おっとりとした口調の割に思いっきり外道モード。というわけで川へ連れて行かれてしまう二人である。
「えれぇ方々と縁が出来ちまったもんだなぁ」
半笑いでボヤくように、ビミョーに話す龍海。カレンもそれに応えて。
「しかしまあ、見返りはちゃんとあると思うがの?」
「もう総裁の仕事って大半が古龍会の接待って気がするよな~」
「そうじゃな。我らの加護をもってすればヨウコ無き連邦も……あ……」
カレンは途中で言葉を止めた。不自然な途切れ方に龍海は、ん? とカレンを見た。
「すまん、つい」
「え? 何か気を使ってるのか?」
「あ……ああ、まあな。我もそうだったが、お主もしばらく彼女のロスが結構見受けられたからの」
「んん~。確かに、死に分かれたわけでも無いのにな。なんかポッカリ空いちまってたなぁ。あれほど明確にロスを感じたのは始めてだったよ」
「そうか……そうじゃな」
「思ってたより、あいつの存在は俺の心の結構深いとこまで占めてたのかな?」
「尻に敷かれっぱなしじゃったしな」
「今も二つ、デカいのに敷かれてるけどな。言ってしまえばお前らにも敷かれてるって見方も出来るぜ?」
「……イヤか?」
「……悪くねぇな」
くっくっくっ……含み笑いしつつ、二人はお互いのビール缶を「コン!」と交わし合った。
「そう言えばロイとイーミュウはまだ来んのかや? 茶会に合わせて来るとか言っとらなんだか?」
「イーミュウは身重だからな。馬車もあまり振動しないようにしてるんじゃないかな? ん?」
「ああ、もう! びしょ濡れだぞ! ほんとにぃ~」
メルが這う這うの体で戻ってきた。服のまま放り込まれる口だったらしく、上から下まで見事に濡れ鼠だ。
「タツミ! 着替え出してくれ!」
カレンにタオルを放られ、顔を拭きながら龍海に着替えをリクエストするメル。濡れた服を脱ぎ、結局スッパに。
「なにジロジロ見とるのだタツミ?」
無限収納から取り出した下着類を渡しながらニヤ付く龍海に、頬を染めつつ唇を尖らすメル。
「はは、いつ見てもキレイだねぇ~と思ってな?」
「と、時と場所を考えんか! バカモノ!」
「へいへい」
一通り着替えを渡し終わると、龍海は再びゴロンと寝ころんだ。
「すっかりカカァ天下、連邦の支配者がしっかり支配されとるのぅ~?」
とカレンもほぼほぼ揶揄うように。
「何を仰る? 余はタツミを支配など……」
「まあメルやアマリアなら支配されるってのも悪くはないやな。そういや、俺の世界でさ……」
龍海が、寝ころんで目を閉じたままで日本でのことを話し出した。フッと注目するカレンとメル。
「ある国の大将が、男女の世の中での役割について質問されて、こんなこと言ったんだ。『この世は男が支配している。されど、その男を支配しているのは女だ』てな」
「ふむ? 平等、と言う感じでは無いが言い得て妙じゃな?」
「ヨウコもシーエスの、女を見下すようなことを言った連中相手に、女の股からどうのこうのとガチギレしておったよな? 其方らの世相なのだな」
「お主はやはりヨウコに支配されていたと、そう思っていたクチかや?」
「前にも言ったろ? 俺たちはそんな仲じゃないんだよ」
「だが、あの逆召喚が失敗していたら? ここに残り、余やアマリアの仲間に入りたいとヨウコが申し出て来たとしたら何とした?」
「そうだなぁ……もうちょい色気と可愛げが出りゃ、考えても良かったかな?」
「誰があんたみたいなキモオタなんかと。こっちがごめんだわ」
――へ?
龍海は目を開けた。
そうしたら、
「……」
眼前に、
「……」
自分を、
「……」
覗き込む、
「……」
ポニテの、
「……」
少女が、
「……」
いた。
「……」
「……」
「…………はああああ!?」
ガッツーン!
「いってぇー!」
慌てて起き上がってしまった龍海。当然眼前の少女のオデコとごっつんこ。
「痛いなぁー! いきなり起き上がらないでよ!」
少女も痛む額を押さえてブー垂れる。
「よ、よ、洋子! な、何でここにいるんだよ!」
眼前の少女、それは洋子だった。逆召喚で日本に帰って行ったはずの洋子が何故か目の前に。
「来ちゃった!」
目玉がこぼれそうなくらい目を見開く龍海を尻目に、ニカッと笑顔を取り戻してしれっとほざく洋子。カレンもメルも思いっきり目がピンポン玉に点、であった。
「な、なに!? 来ちゃったって! え? え?」
「な~んてね!」
「ま、まったく解せん! ヨウコ! 一体どうした事かや!?」
「却下されちゃったの」
「き、却下ぁ?」




