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状況の人、戦後処理中4

「連邦府の運用もしばらくは手探りが続くし、落ち着いたら是非また、そちらでもお前の力を貸してほしい」

「はい、願っても無いことです!」

「その前に……ちゃんと夫婦するんだぞ?」

 言われてお互い目を合わせて、照れくさそうに微笑む新郎新婦。まだ若い年齢も相まって、実に初々しい。

「ま、ロイに限って浮気の心配は無いだろうけどね~」

「どうかな~? あたし、シノサンの旦那と二人で押し倒されたしぃ?」

「冗談にしても場所わきまえなさいよイノミナ。ま、当のイーミュウはこんなので惑わされたりしないけどね!」

「はい!」

「その調子だ。そうだな、しばらくは新婚気分を満喫してもらって、その後はまた、俺の右腕として期待してるぞ」

「はい! お任せください! ……シノノメ卿、本当にありがとうございました。これからも……宜しくお願いします」

 そう言いながらロイは龍海に右手を差し出した。

 龍海もフッと笑ってその右手を取り、二人は力強く握手した。これからも良い仲間であるように。が、

 グイ!

 龍海はそのまま、不意に右手を引き寄せられた。

 あまりに突然の事にバランスを失う龍海。と同時にロイの左手が龍海の首に回されたかと思うと……

 CHU!

龍海は唇を奪われた。

 予想だにしなかった展開に洋子はもちろんイノミナやセレン、ダニーやレベッカにイーミュウの目が見開かれ、ピンポン玉に点を打ったような目ン玉になってしまった。因みにカレンは思いっ切り鼻血を噴き出している。

「ヨ、ヨウコ……シャシン、撮った、か?」

「ど、動画で……撮っちゃっ……た」

「あとで見せい! 決して消すでないぞ!? 低速再生で一コマずつ吟味してくれるわ!」

 流れ出す血を必死に押えるもカレンの目は血走っていた。鼻血の勢いが一層増したような気がする。

 さて、結婚式の場でとんでもねぇBL見せた二人はようやく唇を放した。

「ロ、ロ、お、おま、おま!」

「自分の……はじめて(男向け版)、です……」

 龍海は気が遠くなっていった。んでいち早く立ち直った洋子が、

「イーミュウ?」

これっていいの? とでも言いたげに。

「……ふふ。これも含めてロイ、ですわ。みぃんなまとめて、受けとめます!」

 と気丈に答えつつニカッと微笑むイーミュウ。同性であればノーカンで良いのだろうか? まあ、想いを遂げて過去を吹っ切り、仲睦まじい二人となればそれはそれで、おけ、であろうか? 襟を正したロイとイーミュウは、今度は領民にお披露目するべく門の方へ向かった。

「カレン殿、大丈夫?」

 イノミナにハンカチを貰ったカレンは鼻と口周りを拭きつつ、

「いや、意表を突かれたわ。古龍たる我を流血に追い込むとは……ロイのヤツ、なんと恐ろしい()!」

などと興奮冷めやらぬ様子。かてて加えて、

「いや~、いいモノ見させてもらったね~」

「こ、これだけでも、海を渡った甲斐があるというモノ!」

「たまりませんわ~」

古龍連もカレンに倣って鼻血ぶー。首筋トントン。

 ――揃いも揃って腐ってんじゃねぇぞ腐古龍ども!

 この時の龍海の頭痛は生涯で一番ひどかったと記憶に残る事になる。


                ♦


「忘れろ! みんな忘れろ!」

「無茶言うでないわ、いつかあんなシチュを間近で、と思っておったにロイの婚姻でそれも露と消えるかと諦めていた矢先じゃったからの~。眼福眼福」

「洋子、データ消しただろうな?」

「要請は却下。古龍さんたちの、たっての希望でね~」

 ――あの腐れ古龍どもがぁ!

「あたしのスマホだも~ん。思い出いっぱいにするつもりよ? う~ん、やっぱアマリアちゃん、見に行っちゃお!」

 洋子は立ち上がると、ポケットからスマホを取り出した。カメラを立ち上げてフィッティングルームへ向かう。

「あのすまほと言うカラクリは大したもんじゃの~。見たものをどんな絵師でも敵わんリアルさで保存しよる。お主らの世界は魔法が無い分あんな威力の兵器や車、ああいうカラクリ技術が進んだんじゃなぁ~」

「うむ、余もあれには驚いた。余の分身が、あの中に閉じ込められたのかと思ってしまった」

 二人の反応を見ながら龍海は苦笑を浮かべた。ファンタジーものでは有りがちな反応ではあるが、実際目の当たりにすると可笑しいやら微笑ましいやら。

 洋子は最近、スマホで写真を撮る事が多くなった。龍海がソーラー充電器を再現できたので、画像や動画撮影等、通信を使わないアプリであれば起動できる。

 やはり主に使うのはカメラだ。やがて日本に戻る彼女は、この世界で繋がった人々との思い出を記録して残しておきたいのであろう。

「もうすぐじゃな、ヨウコ……」

「ああ……」

「戦後の後始末や、帝国、皇国との和平協定などで、ヨウコの逆召喚準備が後回しにされたからな。長らく我慢させてしまった」

「仕方ないさメル。あの二国に最終的に腹を括らせるには俺と洋子の存在は不可欠だったからな。洋子もそれはよく分かっているから気にする事は無いよ」

「よいのかタツミ?」

「ん? 何がだ?」

「何が? ではあるまい、ヨウコだ」

「……」

「なんだかんだ言っても、お主とヨウコの付き合いは我らの誰よりも長く深い。お互い様々な修羅場で背中を預けあった仲であろ?」

「……まあな」

「それは余も思う。それこそ、余やアマリアよりも先に伴侶として選んでいてもおかしくない、と思うのは当然ではないかと考えるのだが?」

「……俺と洋子は……そういうのんじゃ無いんだよ……」

 龍海は目線を落として答えた。メルとカレンは一度お互いに目を合わせ、再び龍海を見つめた。

「確かにあいつは……そうだな、友達関係も含めて初めてこれだけ長く付き合った女だよ。なにしろ俺は年齢=彼女いない歴だったからな。でも……やっぱり、最初から今に至っても、その……異性として求めた事は無いんだよな」

 忘れもしない、初めて王都アウロアの路上で出合い(正確には再会)、衆人環視の中、いきなり罵倒されまくって、いろいろとブー垂れられて、慣れてくればキモオタだのエロオタだの散々貶されて……しかし……

「いつ、気が付いたかなんてもう覚えちゃいねぇけど……俺はあいつの事をいつの間にか信頼していたよ。カレンの言う通り、いつ何時(なんどき)でも背中を預けられた。女としちゃ求めていない、そのうえ家族とか友達とかとも違うのに、でも俺はあいつを失うのが何より怖かった」

「置き引きマティの時じゃな?」

 龍海はゆっくり目を閉じて、うんうんと頷いた。

「いい言葉が見つからねぇが、俺にとってあいつは……う~ん……そうだ、あいつは……相棒、だ」

「無理してるようには……見えんな」

「なるほど。しかし、ヨウコが帰ったらもう二度と会う事は叶わん。さっき言った、失いたくない、と言うのと矛盾せんか?」

「あの時とは違うさ。俺はここにいてあいつの事は忘れない。あいつも日本で俺の事は忘れないでいてくれるだろう。だから写真撮りまくってるんだしさ」

 龍海は再び微笑んだ。無理や緊張、そんな類の感情をこの笑顔から感じる事は、メルやカレンには無かった。龍海の笑顔は、それほどまでに淀みのない笑顔だったのだ。


           ♦               ♦


「王宮第一等魔導士隊、総員揃いました。欠員有りません」

「魔法陣最終審査終了。結果、異常・不具合は認められませんでした!」

「魔素の空間干渉、想定内です。逆召喚儀式の実行に支障無しと思われます」

「魔導国の宝珠、搬入開始します!」

 ――いよいよか……

 ついに……ついにこの日が来た。

「通路良好。宝珠搬入どうぞ」

 ゴロゴロゴロ……

 魔導国王都モーグ市の地下に納められていた魔導障壁の源となる宝珠がここ、アデリア王都アウロア市ノーマ城地下魔導殿に運ばれてきた。4輪の荷車に綿らしき緩衝材と布に守られて積載された宝珠の輝きは、龍海や洋子が思っていたより暗い輝きであったが、合わせて何とも表現の難しい深い色を放っていた。

 その直径70cmはありそうな大きさの魔宝珠は、魔法陣の模様が始まる先端部に運ばれ、その緩衝材ごと6人の男の手によって降ろされた。

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