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状況の人、戦後処理中1

 包囲軍を回り込んでやって来たポリシックが大声を上げて訪ねてきた。後ろからモノーポリやシステも追って来ている。

「ああ、向こうですか~? はい、北部ダイブ戦線では決着がつきました。ポータリア軍はアデリア・魔導国連合軍に対し、全面降伏致しましたー!」

 騒めきがどよめきに変わる。範囲が広いので拡声器だけでは伝わらないところにも、口伝に龍海の勝利宣言が次々伝わっていく。それが遠くまで伝わるに従って騒めき・どよめきが大きくなっていく。やがて、


うおおおおおおおおおおおおおお――――――――!!!


友軍の勝利に、目の前の帝国軍に勝る皇国軍の撃退に、五万を超える連合軍が勝鬨を上げた。その叫びはまるでこの国境平原を揺るがすか、と思えるほどの大声量であった。こちらも負けてはいられない、帝国軍を一人残らず屠ってやると、そんな気概で士気も爆上げする勢いだ。

 翻って帝国軍は、意気消沈などとそんな言葉では表せないほど落ち込んでいた。混迷や困惑度もハンパない。

 今現在、連合国全軍かと思えるほどの、自分たちを取り囲む5万以上の軍団。その他に、自軍より多いはずのポータリア軍を半月程度で打ち負かしてしまう大兵力があるというのか? 事前情報とも合点が全く噛みあわない。

「で、モノは相談なんですがアンドロウム帝国軍のみなさん?」

 話を振られて我に返ったドロスたち幕僚は、六頭の古龍をバックに立つ異世界人と思しき龍海を見つめて、その相談とやらに注目した。

「ポータリア戦線の後始末が終れば、その兵員もやがてこちらにやってきますし、退却しようにも古龍のお姉さま方はここを動かんと仰られるし……まあ、そういう訳なもんで、ここはひとつ……」

 ゴクリ……

「降参、してもらえませんかねぇ?」



 アンドロウム帝国軍には選択の余地などなかった。前線司令部を含む二万は五万を越える連合軍に囲まれ、退路は連合軍中枢にいる異世界人と連携しているであろう古龍連に阻まれ、万に一つも生還の可能性が見い出せなかった。後方に待機する控えの兵と挟撃しようにも連絡なぞ取れる訳も無く、よしんば取れたとしても六頭もの古龍を攻略出来るべくも無し。

 しかし帝国軍人としての誇りもあってか即答できずに逡巡していると、

「さっさと決めろぉ! モタモタしてんじゃねぇ!」

今度は地竜(アーシー)がしびれを切らし、台地に拳を打ち込んで念を送ってきた。


 バカッ! ガガガガー


 地竜の一撃は台地を揺るがせ(震度四くらい?)地面に食い込んだ拳からは地割れが発生した。

「うわあぁ!」

「ぎぃやぁ~!」

 その地割れは帝国軍の方向に二〇〇m以上伸びて、周辺の兵馬を次々と飲み込んでいった。

 いきなり喰らった地竜の地殻攻撃。地割れの餌食になった帝国兵の数は百人や二百人では済まないだろう。

 ドロスをはじめ帝国兵は古龍の持つ破壊力を目の当たりにし、もう絶望を感じるしかなかった。

 地竜のみの、やっつけ攻撃ですらこれもんである。六頭全ての全力攻撃を受けたらどうなるかなど想像するまでも無い。

 事ここに至り、降伏以外の選択肢を思いつく人間が果たしているのだろうか? 少なくとも帝国軍司令部にはそんな人材はいなかった。しかも龍海はポータリア同様に捕虜は中隊長以上、それ以下は戦場の後始末の後、帰国自由。両方とも命の保証はするという条件を提示している。

 こうしてドロスは降伏旗を掲げるよう幕僚に下令した。

 

「かんぱ~い!」

 古龍も乾杯なんて慣習あるんだなぁ~とか思いつつ、彼女らからの要求でタツミ・サーロイン()を焼く羽目になった龍海はBBQコンロの前で汗だくで給仕していた。

「いや~、前回カレンが、いい餌場見つけたとか言ってたけど、こういうことだったのね~」

 雷竜ブロンディが口の周りを泡だらけにして笑う。

 カレンと同様に、人型に変化(へんげ)した古龍連は龍海の再現したビールと食材をアテに、戦後処理真っただ中の国境線でお茶会(宴会)に興じていた。以前の女子会で、お土産に持たせたビールがカレン同様メチャクチャ好評だとの事で彼女が「餌場(タツミ)の仕事が一段落つくから、また集まらんか?」と臨時招集をかけたらしい。一応双方の兵たちには直で見られないように陣幕の様な物を立てかけてはいたが、能天気に大はしゃぎする古龍たち(お姉さま方)に呆れる龍海である。

 だがこのカレンの一計のおかげで帝国軍を迅速に降伏させられたのは感謝すべきところであろう。今後事あるごとに引っ張られそうではあるが、古龍とのコネクションは絶対的に強力でありビールくらい安いものだ。

「はい、サーロインのウェルダン上がりだよ~。誰だっけ?」

「ワシじゃ! 早く持って()う!」

 碧眼で金髪の、いわゆるお姫様カットの二十歳前後っぽい人型のペクニャーに手を挙げて呼ばれ、龍海はいそいそと配膳した。

「ソースは?」

「オロシで!」

「タ~ツミィ~、あたしのまだぁ? ヒレよ、ヒレ! ブルーレアで!」

 今度はウェンの催促。銀髪のツインテールで見た目はどう見ても少女。アマリアよりも12歳女児、てな感じ。でもどうせ実年齢は……さらに何故か全員から様付けで呼ばれている。

「はいはい、すぐにやりますよ! あ~もう、いそがしいなぁ」

「ごめんなさいねぇ、タツミくん。でもビールもお肉も本当に美味しくて~。こんなに早くまた頂けるなんて思ってなかったから~」

 水竜ネーロ。地毛か染めているのかわからないが、足まで届きそうな真っ青な髪とカレン並みの爆乳が目を引く20代前半のお姉さんタイプ。言葉遣いもこの中では一番大人し目な口調だ。

「いえいえ、ボヤいちゃってすんません! ねえさん方のおかげでこちらも早くケリがつきましたし! これぐらいは!」

「そう言ってくれると嬉しいぜ! しかしなんだ、今回のカレンのコレは……まあギリギリかな?」

 ダークブラウンの三つ編みを片寄せした、この中では一番年配、いや年長っぽく見える地竜のアーシー。髪の毛の色は彼女らの持つ属性と関係があるのだろうか? ってくらいシンクロしてそうだ。

 で、言っていることはカレンも事ある毎に口にした古龍の矜持であろう。

「はて、何の事かな? 我はタツミの都合と、いい場所が見つかったからと声を掛けたのだが?」

 アーシーの若干釘刺しのような言い回しに、しれっと答えるカレン。オメメは左上を向く。それを見てウェン。

「まあいいじゃん。仮にも古龍の一角(カレン)を卒倒させた男だし? このビールもお肉もメチャ美味しいし、特別待遇、てか準会員で良くない?」

「それも良いな。毎回こんな美酒に有りつけるならワシも反対せんぞ?」

「今日は本人がおるからな。アシの早い生ものやスイーツも出せるぞよ?」

「まあ、楽しみですわ~」

 龍海くん、マジで歩く居酒屋である。

「ほれ、お前も飲め! 仕事も一段落であろ?」

 カレンに勧められる龍海。給仕も有るのでデカいジョッキではなく、普通のコップで頂く。

「ぷは―、コンロの前は暑いからビールうめ―!」

「タツミ~、ヒレ肉まだぁ? 焼き過ぎちゃダメだからね~」

「はいはい、今すぐ! そういやカレン?」

「なんぞ?」

「なんでウェンさんだけ、様付けなんだ?」

「おう、ああ見えてあの方はこの中で一番年上でな。一応この集まりには上下は無いのだが、年長と言う事もあって実質我らのリーダー的立ち位置なのだよ」

「年長!? あれで? じゃ、やっぱ700歳とか800歳とか?」

「桁を間違えとるぞ?」

「そこのふたり~!?」

 話し声が聞こえたか、笑ってはいるけど片眉を吊り上げているウェンに、

「あたし、歳の話は大っ嫌いだからね~?」

と釘を刺される二人でありました。





 総重量数百キロに及ぶビールと食材を平らげた古龍連(お姉さま方)は、夜半にはすっかり酔い潰れてしまい龍海の出したテント内でお泊りと相成った。

「ご苦労さんじゃったの~、タツミ」

 肉や魚介類等、様々な食材を掻き込みまくった上、デザート類もキロ単位で食されるお姉さま方の胃袋を相手にしては、龍海もさすがに疲れ果てた。午前中の対ポータリア戦の方が疲労は少なかったかもしれない。

 この世界の人間なら躊躇するような生の魚(刺身・お造り)でも、日本酒と合わせた時の感激ぶりに古龍連(お姉さま方)の別腹が発動したりと、てんてこ舞いであった。生魚なら引くかと考えたのだが、古龍連の普段の捕食・食生活からからすれば、生食いドンと来い! てなもんで絵に描いたような藪蛇でもあった。

「おまえだけでも底無しなのに、それが6人だもんな~。戦後の処理もまだまだこれからだけど、いや~ダイブ平原に戻る気無いわ~」

 仕事が終って、改めて飲み直す二人。疲れた身体に染み渡るビール。見上げれば満天の星空。心地よい充実感の中で龍海は感無量であった。

「ありがとな、カレン」

「なんじゃ、いきなり?」

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