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状況の人、反転攻勢中6

 行く手を遮られる形となった帝国軍は微動だに出来なかった。今にも連合軍に追撃されてしまうというのに、一刻を争うというこの時に……と思いきや、連合軍もまた古龍大集合に言葉を失っていた。

 一頭でもお目にかかる機会の乏しい古龍、それが五頭もつるんでいる。かてて加えて、さらにもう一頭増えるというのだから呆気(あっけ)に取られるのも已む無しと言うところではあるが。

 で、最後の一頭であるカレンもお出ましだ。

「カレン……アレが火竜の本当の姿……ん!」

 カレンの人型の姿しか見た事が無いポリシックも、初めて見る古龍たちの雄姿に目を奪われていた。が、

「え? アレって!?」

最後にやってきた火竜(カレン)を見て、彼らは思わず目を引ん剥いた。

 ポリシックらが目を見開かされた原因、それは火竜の背中。

 そこに男が一人、懸命にしがみ付いているのを見つけたからだった。 

「モノーポリ公! 火竜の背中にいる人間、あれは!」

「おお! あいつシノノメじゃないか! 今、北部でポータリアと合戦の真っ最中じゃないんか!?」

「な、なんで?」

 と、一番後方から参加していたシステを含む全員が首を傾げた。

「なんでシノノメ公が?」


「よし、降りるとしようかの。タツミ、振り落とされんなや?」

「お、お手柔らかに!」

 と心配する龍海をよそにカレンは、スット―ン……ドドン! と力士が四股でも踏むがごとく勢いよく着地しよった。

「どわわわぁ~!」

 着地の勢いのまま、カレンの背中から滑り落ちていく龍海。大地とおしりが勢いよく、で~んとキスしてしまう。

「いってぇ~!」

「なにをしとるか、こんな高さで降りたくらいで。強化魔法(バフ)かければこの倍の高さでも何とも無かろう?」

「いきなりでビックリしたんだよ! お手柔らかにって言っただろ!」

「まだまだ修行が足りんようじゃのう? 一段落したらまた鍛えてやるからな?」

「おい、火竜カレン。なに夫婦漫才なぞやっとるんだ、幹事が一番遅刻しおって! ほれ、早く臨時定例会、始めんか」

「すまんな、ペクニャー殿。人を乗せて飛ぶなぞ初めてじゃからな~」

 ――定例会? 臨時の? 以前カレンが言ってた古龍の女子会か?

 と言う訳で古龍6頭が勢ぞろい。まるでアデリア怪獣総進撃みたいな?

「そいつなの? 例の異世界人ってのは?」

 天竜が龍海を見ながら。

 ――は? 俺?

 古龍みんなの注目を浴び、委縮してしまう龍海。カレンに「ちょっと付き合え」と言われるままに連れられて来てしまったが、なぜかアンドロウム戦線に。しかも戦場のど真ん中。んでもって最強種たる古龍がぞ~ろぞろ。

「だったらほれ、さっさと用意せぇ。何のためにワシたちが集まったと?」

 ――え? え?

 龍海くんの頭上で「?」マークが剣の舞を踊っている。

「まあまあ、皆様方、少々お待ちいただけるか? タツミにはまだ、最後の仕事があるもんでな?」

 そう言いつつ、カレンは龍海を見ながらニヤッと微笑んだ。もう、これ見よがしに「わかっとるだろ?」とでも言いたげに。

 と、ここで、

「古龍らに物申ーす!」

ドラゴントークに割り込む無粋な声が響いた。帝国軍幕僚連中からだ。

「我らはアンドロウム帝国軍の将兵である! 今現在、我らは作戦行動の最中にある! 我らはこれより我が陣地に進む故、即座に街道を開けるよう要求する!」

 幕僚の中の参謀長が古龍たちに道を開けろと要求してきた。それを見て、一度お互いの顔を合わせた古龍たちは、はぁ~と嘆息しながら話し出した。まずはカレン。

「何を言っとるんだ、こいつ? 我らに『ここからどけ』、だと?」

 次にペクニャー。

「なんか勘違いしとりゃせんか、このチョビ髭は? 自分が何を言っとんのか、わかっておるのか?」

 続いてネーロ。

「ダメですわ、ペクさん。この方たちは初対面ですし、何もわかって無くても仕方が有りませんよ」

 一同、やれやれな古龍さま方。対して、

「我が軍は一刻も早く後方の予備隊と合流して体勢を整えねばならんのだ! それに今、貴公らの立っておるところは我が国の領土である! これ以上の妨害は止めて速やかに移動、若しくは退去せよ!」

古龍と相対するのは初めてであろうが今現在、劣勢を抱えている最中でもあり、声が荒くなってしまうのも已む無しか? それとも、いつも国家の権威を笠に着ているからそのクセが抜けきらないのか? 巷で流れる古龍の噂を聞いた事が有れば、もう少し言葉選びは慎重になっても良さげだが。

「なにこいつら? 『道を開けろ』とか『退去せよ』とか、まさかあたしたちに命令してんの~」

「まあ、気にする事も無いっしょウェン様。カレンちゃ~ん、始めようよ~」

「うむうむ。しかしアーシー、先ほども言うたが肝心のタツミの要件がの~」

「え~、なあに? こいつらの事ぉ~」

「う~む、面倒だが仕方ないな。おい、そこな人間ども!」

 ペクニャーが腰を上げる。威勢よく古龍の面々(おねえさま方)に向かって「そこをどけ」と抜かしたチョビ髭参謀に忠告。

「ワシらはこれよりここで茶会を開く。貴様らがここで何をしようが勝手だがワシらの邪魔はするな。ケンカか戦かしらんが、そんなもんその辺で勝手にやっとれ! わかったな?」

「な!」

 ――ち、茶会だと? 竜が茶会? あんな口でどうやって茶を飲むというのか?

 そこか?

 ――いや、それはどうでもいい! そんな事のために、我が軍が身動き取れず、全滅の危機に……

 ドロスら幕僚連は混乱・困惑の中にいた。幸いにも、いきなり集合してきた古龍たちのせいでアデリア・魔導国連合軍も手を拱いている、と言うか呆気に取られている状態なので、撤退するなら今しかない。

 しかし古龍たちは国境線を意味する、ポータリア国境と同等の城壁の帝国側に居座っている。街道が使えなければ迂回してよじ登るしかないが、そんなモタモタしていては殿からどんどん兵が削られていってしまう。

「勝手とはどの口が言うかー! そこは我が帝国の領土である! 茶会とやらにはこちらも目を瞑るはやぶさかではないが、ともかく我が軍の進路を遮るなと……」

「やかましわー!」

 カ! ガラガラガガガ! バシャーン!

 雷竜ブロンディの一喝と共に、鼓膜が破れるかと思うほどの大音響を伴った落雷が後方監視所の櫓を襲った。櫓は一気に炎に包まれ……る事も無く、木っ端微塵に吹き飛んだ。

 いきなりの、しかも生まれてこの方見た事も無い、第一級の宮廷魔導士が繰り出す全力雷撃すら軽く凌駕する激しい落雷を目の当たりにし、帝国兵たちは頭を抱えてしゃがみ込んだ。

 恐る恐る開けた目で、残骸どころか燃えカスすら残らない、ブロンディ怒りの(いかづち)を喰らった櫓跡を見て、兵たちは一様に言葉を失った。

「ゴチャゴチャうっせーわ! こっちは飲み放題、食い放題と聞いて海越えてやって来てんのにお前らのせいでお預け食ってんだぞ!? これ以上、口からクソ垂れてっと皆殺しにすっぞ、()けぇ!」

 飲み放題? 口からクソ? 龍海は眉間にしわを寄せ、ゆっくりカレンの顔を窺った。カレンは明後日の方を向いていた。

 ――カレンも妙な腹芸使うなぁ……

 とりあえず、早々にこの戦場の決着は付けねばならない。連合軍としても、この思わぬ古龍の行動()は大きなチャンス、一気に追い詰める事も可能。

 とは言え、古龍たちに火の粉がかかる事が有ってもいけない。彼女たちが不快に思う事が有れば、その怒りの矛先には帝国軍だろうと連合軍だろうと区別は無い。

 カレンの思惑を察知した龍海は再現した拡声器を収納から取り出し、

「あ~、テステス」

帝国軍に向けて伝えた。

「え~、私はアデリア魔導国連合軍に籍を置いております東雲と言うものです。さっきまで対ポータリア戦線にいたんですが、縁あって火竜さんに連れられて、ここまで来てしまいました~」

 ざわざわざわ…… ざわざわざわ……

 この戦場全体に騒めきが起こった。

 確かに勇者による火竜討伐の噂はアンドロウムにも流れていた。それが、アデリアが召喚した異世界の超人であると言う話も。

 眉唾ながら捨てきれなかった懸念。確かに火竜は滅せられたわけではないのは目の前の彼女の雄姿を見ればわかる。しかし彼が古龍とつるんでいるらしいこの状況からすれば、シノノメと名乗るこの男は最強種たる古龍と同じ位置に立てるという噂の異世界人、そしてそれはやはり神の祝福を受けた超人では無いかと? そんな様々な思考・思いが交錯し、帝国兵は語る言葉が見つけられなかった。

「シノノメ~! ポータリアとの闘いは如何なされたー!」

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