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状況の人、反転攻勢中5

 帝国軍が一斉に前進を開始した。一次、二次戦時には参加していない、未だ手付かずの主力部隊一万の投入である。これで国境を越えた総兵力は約二万近くとなる。

 ウオオオオォオー!

 鬨の声が響き渡る。騎馬隊の馬蹄が台地を揺るがす。帝国軍は雪崩を打って三次防衛線を突破し始めた。アデリアの殿(しんがり)兵が帝国軍の進行速度を少しでも抑えようと必死の防戦を続ける。

 だが帝国軍の速度は大して衰えなかった。横に数百メートル幅に広がって進撃する帝国軍の数は圧倒的である。さらに撤退中のアデリア軍騎馬隊は飛行兵の空爆を受けて撤退の速度は著しく低下していた。

 やがて帝国軍兵の先端が、殿に届く寸前まで接近した。

 ――チェックだ!

 ドロスの髭が、勝ちを確信した笑みに歪む。が、その時。


 ターン! ターン! ターン! ターン!


「ん! なにか! 今の音は!?」

聞き慣れない破裂音が4発。ドロスたちは眉間にしわを寄せ、脳内に「?」マークを浮かべながら戦場を見つめた。

 そこで彼らが見たものは……


 ドォン! ドガ! ドオッ! ドーン!


 今まで聞いたどんな爆裂魔法も叶わない大音響とともに、味方騎馬隊が密集している場所に黒い土煙が噴き上がり、加えてその爆裂で馬や騎兵が数騎、宙を舞うように吹っ飛ぶ光景だった。

「なんだ! 何が起こって……うお!」

 バァン!

 バサ! バババーン!

 謎の爆裂に呼応するが如く、南北の丘陵地や叢の草木が一斉にめくれ上がり始めた。その動きは帝国兵が殺到した平原を挟む形で打ち寄せる波さながらに続いていく。

 そのめくれ上がった場所から、まるでアリの巣を突いたがごとく、夥しい数のアデリア弓兵が飛び出して来る。その勢力は平原に飛び出した帝国兵のほとんどを取り囲むほどの勢いだ。

 盤面が一気にひっくり返った! そんな様子を目の当たりにし、帝国軍幕僚たちの背筋が凍りついた

「放てぇ!」

 シュシュ! ヒュバ! バシュ!

 号令一下、次々に矢を放つアデリアの弓兵たち。

 ザァ――ッ!

「伏兵だと!?」

 一斉に、正に雨、いやそれ以上の密度で降って来る矢の嵐。

「ぼ、防御陣け……ぐお!」

 現場の指揮官は落とし穴の時と同様に防御を指示するも、左右からの同時攻撃には対応しきれなかった。盾を掲げて密集するも大人数も相まってあちこちに綻びが出る。その隙間をすり抜けたアデリア兵の矢が、非情なほど帝国兵を屠っていく。

「に、逃げろぉ!」

 その嵐の洗礼を受けて平原中央に追いやられる帝国兵。だが、そこには正体不明の爆裂攻撃が加えられ、

ドォン! ドガッ! ドドォーン!

囲まれた帝国兵は次々に朱に染まった。

「に、逃げ、逃げ……!」

 ドバッン!

「どっちだ!? どっちへ逃げればいいんだぁ! ぐわ!」

 降り注ぐ矢と爆発に追い回され、逃げ場を見つけられない兵たちは、見る間にパニックに陥っていった。

「司令! 敵騎馬兵、反転します! 歩兵もこちらへ!」

 ――さ、誘われた……! まんまと……まんまと!

 ドロスは歯が砕けるかと思えるほどの歯軋りを響かせた。

「敵騎馬隊後方に動きアリ!」

「今度はなんだ!」

「前方の丘から所属不明の騎馬隊が降りて来ます! その後ろから歩兵も!」

「あれは……ウェアウルフの軍勢! シーエス軍です!」

「右からの部隊はオーク、オークが主体の……モノーポリ勢!」

「さらにオーガの集団も! ポリシックかと!」

「続いてハウゼン軍も来ます!」

 伏兵の攻撃に機を合わせたか、森林や丘陵の陰に潜んでいたらしい魔導国軍の名だたる軍勢が進軍してきた。アデリア軍と合流した部隊が更なる弓攻撃を加え始める。

 各軍勢の様相や、旗印を確認しながら幕僚たちが悲鳴にも近い声音で次々に報告してくる。

「ま、魔導国軍のほぼ全ての主力部隊ではないか!」

「魔導国だけではありません! アデリアのイオス伯軍にミケレ辺境伯軍の旗印も!」

 ――こ、こんなにも敵兵が? 一体どれほどの兵力が投入されているんだ! ポータリア軍への備えは、王都の防衛はどうなっておるのだ!?

「数は! 敵兵力の総数は!?」

「およそ、およそ6万!」

 ――な、なんだと……

 6万! 有り得ない! 敵アデリアと魔導国、双方を足してやっとその程度の兵力のハズ! 全軍がこちらに掛かってきたというのか!? 有り得ない! 有り得ないー!

 ドロスの頭は斯様に大混乱を起こしていた。錯乱と言っていいほどだ。まあ当然であろう。

 連合軍側は帝国軍とポータリアの二正面作戦を強いられているはず。なのに今、連中は動かせる全兵力に等しい6万と言う大兵力でこちらに向かって来ている。ポータリアまで連中と手を組んで、我が国を陥れるというならともかく…………

 いや、それは無い。ポータリアのアデリアに対する蛮行はアンドロウムにも届いている。それは無い、断じて無い! 

 ならばこの有り様は一体? 

「2時の方向、敵飛行兵!」

「なに!」

 ドロス以下、混乱収まらぬ幕僚たちは哨戒からの連絡を受けて一斉に遠眼鏡を構えた。すると右前方の原生林の様に樹木が群生する丘から飛行兵が飛びあがってきたのが確認出来た。

「なんてこった、奴らも潜んでいたのか!? マズいぞ! 今の我が飛行兵は爆装重視でロクな武器を持っとらん!」

「でも丸腰ではありません! 敵飛行兵は情報通り100にも届いていません、こちらは現在500騎が上がっています!」

 


「くそ! 今ごろ上がって来やがって! 総員、火炎弾を捨てろ! まずは飛行兵を叩くぞ! 相手一騎にこちらは三騎以上で当たれ!」

 飛行隊長オークスの指示を受けて、即座に近辺の者と距離を近づけてチームを作る帝国飛行兵たち。攻撃隊の武器はせいぜいがショートソードだが中には戦闘装備の兵も居り、ロングソードや(ランス)、ハルバートを持った者が居るチームは前衛に出た。

「欲をかくな、一騎づつ確実に落とすんだ! 冷静さを失うな! かかれ!」

 帝国軍が速度を上げた。握る武器に力が入る。

 が、しかし、彼らはやはりポータリア飛行兵と同じ運命をたどった。

 ドドドォーン! ドドン! ドドドドドドン!

「ぐあ!」

「ふぉごぉ!」

 次々と撃墜される帝国軍飛行兵。最初の会敵だけで100人以上が連合国飛行兵の装備する散弾銃から放たれたOOバック弾の餌食になった。


「な、なんだ! 何が起こっている!?」

 帝国軍の幕僚たちは、正に目を疑う情景を突きつけられていた。圧倒的優勢だったはずが、あっと言う間に形勢逆転。一騎当千の飛行兵も正体不明の新兵器の前に手も足も出ず、それどころか近づく事すら敵わず落とされていく。

 惨憺たる有り様は地上も同様だ。三方からの弓攻撃を喰らい動きが取れないところへ、潜んでいた魔導国の猛者たちが突撃してくる。戦場の帝国軍二万は二進も三進もいかなくなっている。

 おまけに友軍飛行兵を撃退した敵飛行隊によって、帝国地上軍の中央部を中心に爆裂兵器(手榴弾)を投下され、混乱に拍車をかけられていた。

「退却だ! 国境線まで撤退させろ!」

「し、しかし! この数に追撃されたら……」

「とどまっても死を待つだけだ! 少しでも生き延びねば軍を立て直す事も出来ん! 退却ラッパを鳴らせ!」

 ブオオオオオ~ ブォブォブォ~ ブォオオオ~ ブォブォブォ~

 ドロスの命令により、帝国軍の退却ラッパが戦場に鳴り響く。それを耳にした帝国兵は、我先に自国領を目指して駆け出した。

「司令部も撤退だ! 国境監視所に移動する!」

「はは!」

 ドロスを先頭に幕僚たちは移動司令部にしていた荷車上の高台から降りると、それぞれの愛馬にまたがって母国へ走りだした。

 だが、

「あ、あ……」

「な、な、な、な……」

 幕僚たちは一様に言葉を失った。なぜならば、戦場と監視所の中間に……

「なんだ貴様ら? (ひと)の顔を見て、ハトが小石投げられた様な間抜けなツラしおって?」

 古代龍がいたから。



「あら、金竜(ペクニャー)。相変わらず早いね?」

 更にもう一頭が降りてきた。全身金色……よりちょっと銀が混じった竜の傍に降り立つ、カレンと同じ系統のブラウン地で、首に青白いストライプの様なラインが特徴的な古代龍。

「む、雷竜ブロンディ。貴様もいつもより早いのでは?」

 などとペクニャーと呼ばれた金竜がご挨拶。そして、

「ああ、いたいた! やっぱりここでよかったんだよね? カレンの言ってた集合場所!」

もう一頭来た。ちょっとオレンジが掛かった白い身体の古龍だ。

「ウェン様、ようこそ~」

「ネーロやアーシーも来るんだよね? てか、言い出しっぺのカレンが遅刻ってどうよ?」

「ウェン様、呼んだ~?」

 バサッバサ!

「時間にルーズなあいつが呼びかけ人とかね~。まあ、あいつらしいっちゃ、らしいんだけどぉ?」

 今度は黒い古龍だ。

「やっほ~、地竜(アーシー)。あれ? ウロコ変わった? ずいぶん黒光りしてるね~?」

「今、火山近くにいるって前回言っただろぉ? そこの温泉が肌に合ってさぁ~。ウェン様も今度来なよぉ。お、あれ、ネーロじゃね? おーい、ネーロぉ! ここだここ!」

 地竜(アーシー)と呼ばれた古龍が着地と同時にネーロなる古龍を見つけたらしく、声を張り上げた。他の竜が揃って注目すると薄い緑色をした竜が降りてきた。

「皆様、遅れて申し訳ありません。わたくしが最後でしたか?」

「いや、火竜カレンがどん尻のようだ。前回からあまり日も経ってないのに緊急で呼んでおきながら遅刻とか、相変わらずいい性格しとるな?」

「まあまあペクちゃん、そうカリカリしないでさ」

「そうそう! どうせペクニャーも目当てはアレでしょ?」

「無論だ! でなければこんな騒がしいとこなぞ!」

「そういや人間どもが戦してるわねぇ? よくもまあ飽きずにやるもんだわ」

「見ていれば分かりますでしょアーシー? 性ですよ、サガ」

 などと何故だか五頭の古龍は呆然とする帝国軍と連合軍の将兵を尻目にドラゴントークを楽しみ始めた。

「あ、カレン来たよ~」

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