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状況の人、反転攻勢中4

「すっかり英雄だな?」

 外の喧騒から逃れ、クーラーボックスから冷たい飲み物を取り出して洋子に渡す龍海。

「まさかホントに勇者になって祀り上げられるなんて、最初の頃は思いもよらなかったな~」

 パシュ! 

 缶ジュースのプルタブを開けてグイっと煽る洋子。

「ぷは~。でもこのままマジで伝説として残っちゃうのかな?」

 洋子は苦笑いしながら呟いた。

「まあ、連合国の中では伝わるんじゃないかな? ポータリアでは悪魔の権化として伝聞されるかもしれねぇけどな?」

 え~? と、ぼやきつつも笑顔の洋子。やり遂げた感が今の彼女を包み込んでいた。

「まあ、まだアンドロウム戦線が残っているけどな。向こうもそろそろ開戦しているはずだ」

「連合軍が前線に送れる全兵力は約6万。二国はほぼ均等に割り振られると思っているわよね」

「ここに5千。残りは全てあちらだ。情報によればアンドロウムは4万人規模らしい」

「5万5千対4万……防衛戦なら十分対応できるわね。ただ火器が……」

「ああ、人員を送った分、火器はこちらに集中させたからな。四つで組み合えば死傷者の数はこちらとは比べられないくらい多いだろうな」

「基本、飛行兵に持たせた銃と、アンドロウム水軍の迎撃のためのLAMくらいよね。ケイさんの小隊が派遣されてるのよね?」

「船上からでもLAMのクセを見抜いて正確な射撃を見せてくれたよな~。弓でもそうだけど、射撃のセンスが抜群なんだろうな」

「余った火器、送った方がいいんじゃ?」

「それは俺も考えたんだけど……送るとなれば訓練を受けている人員ごと送らなけりゃいけないんだよな。ポータリア軍はまだ降伏したばかりで、人員の差は未だ圧倒的に向こうが上。火器による威嚇が無いと暴れ出す可能性も十分あるからな」

「こちらで笑ってばかりもいられないわね。東部戦線でもなんとか力に……」

「一個小隊くらいなら送れるかも……しかし北の果てから東の果てまでの移動だ。トラックを飛ばしても三日はかかるだろう」

「男爵から聞いたけど、この世界の戦争って本来すごく時間がかかるんでしょ? 間に合うんじゃない?」

 ここは思案のしどころである。東部戦線は兵力としてはここと違ってかなり優位なのは間違いない。だが先ほども話題に出たが向こうには火器がほとんど無い。戦法としてはこの世界、この時代のスタンダードなものになるだろう。その分死傷者は多いし、なにより、ポータリア兵に刻み込んだ恐怖心と同様の物をアンドロウムにも持たせられるのか? 再戦なぞ、二度と考えられないように出来るか? 

 ――やっぱ近代兵器によるショックと恐怖が欲しいけど、ここを撤収できるのはかなり先だろうし……

「おお、戻って来たか? 待っておったぞ?」

「よおカレン。お前も後方支援ご苦労さま……ん? 待ってたって?」

「その通りよ。タツミ? すまんがちょっと付き合うてくれんかや?」


                ♦


 アンドロウム飛行隊の攻撃は苛烈であった。

 第一次防衛線の馬防柵は油脂火炎弾によって焼き払われ、その後の塹壕に設置された矢避けの盾もそのほとんどが焼失した。

 帝国軍は連合軍に修復の時を与えず、歩兵や工兵を進出させて障害物を処理、その後騎馬隊による突撃が行われた。

 連合軍は懸命に防戦するも飛行兵による攻撃は圧倒的であり、一次防衛線は初日で撤退、二次防衛線も飛行隊攻撃の連続であっと言う間に疲弊し、三次防衛線へ後退するまでにかかった時間は一次線時とそれほど変わらなかった。

 帝国軍が二次防衛線を越えて三次防衛線までも突破したら、アデリア東部を治めるティアーク侯爵領中枢までは障害がほぼ無くなってしまう。

 対して帝国軍将兵は湧きに湧き上がった。

 三次防衛線を突破すれば穀倉地帯が広がり、周辺の村々に手が届く。

 占領してしまえば食料・家畜は食い放題、蔵の中の酒も飲み放題、女は娘から熟女までやりたい放題だ。この世界、この時代の徴用された一般兵の戦勝報奨は占領した敵地の略奪が常識、と言うのはポータリアのみならずアンドロウムも例外ではない。

「飛行隊、出撃しました!」

 帝国軍司令官ドロスに伝令が報告して来た。

 ドロスが空を見上げると、500を超える飛行兵がアデリア側に向かって飛んでいく。

 遠眼鏡を覗いて確認すると、攻撃兵より戦闘兵の方が多いことを確認した。と言うか、4:1くらいで、どう見ても戦闘装備の兵が主力である。

「さすがに今度は出るでしょう」

 すでに攻略した一次・二次防衛線侵攻時は、意外にも飛行兵による迎撃は上がって来なかったのである。

 攻撃は一次・二次線ともに空爆から始まったがアデリア側地上兵は防御に徹しており、地上攻撃が始まってからも打って出る事は無く、弓兵や魔導士の遠隔攻撃に投石器の火球弾に力を入れて帝国の進軍に抵抗していた。

「アデリアは三次線を最終決戦場と決めていたのでしょうな」

「騎馬兵はもちろん、歩兵も突っ込んでは来なかった。弓兵の遠隔攻撃で少しでも我らの兵力を削り、この三次線で雌雄を決する。どうやら評定に於いて予想された通りの作戦のようですな、司令どの」

 参謀長の言にフォステックス領軍のベリンジャー子爵が言葉を添えた。

「まずは飛行勢力の殲滅だ。そのあとじっくり焼き払ってくれるわ」

 ドロスは口の周りの髭を歪ませて北叟(ほくそ)笑んだ。

 しかし、連合の迎撃兵は未だに上がっては来なかった。


 帝国軍飛行兵隊長オークスは拍子抜けしていた。

「隊長! 敵迎撃兵が全く上がって来ません! どうした事でしょう?」

「解せん。ここが最終決戦として、戦力を温存していると思っていたのだが……」

 飛行兵隊は防衛線直上まで侵攻できてしまった。オークスはその上空で旋回を始め、周辺の様子を窺った。直上まで来てしまっては、弓も火球攻撃も自分たちに降って来るので控えられている。アデリアの弓兵の眼は、飛行隊攻撃後に掛かって来る騎馬隊や歩兵隊に向けられているように見える。

「ティアーク領府とか中枢防衛に回ったのでしょうか?」

「ここで出て来ても我らに返り討ちに遭うだけですからね。最後の最後まで温存する気じゃ?」

「可能性は捨てきれんが……しかし手を拱いているわけにもいかんな。戦闘隊は周辺を厳重に哨戒、攻撃隊は爆撃を開始せよ!」

 了解! オークスの号令一下、攻撃隊は三次防衛線の馬防柵を主目標とし、油脂火炎弾に着火、投下し始めた。


「攻撃が始まりましたな。しかし迎撃が上がって来ないとは……」

「やはりティアーク領府を守るために後方へ?」

「ここは捨てる? いや、後退しながら我らの兵力を削る気か?」

 とベイム。

「飛行兵より伝達! 敵後方に騎馬隊集結中!」

「む、やはり来る気か?」

「工兵と歩兵を前進させよ。馬防柵を取り除き次第、騎馬隊突撃!」


 弓兵の援護射撃を受けながら前進する歩兵隊。ここでアデリア側からも弓兵と魔導士の攻撃が始まる。

 先頭の歩兵があと一歩で馬防柵へ取り付く所まで一気に前進。だが、

「うわ!」

彼らの視界はいきなり真っ暗になった。

「おおお!」

「ぎゃお!」

 落とし穴だった。馬防柵直前に落とし穴が仕込まれていた。

「止まれ、止まれー!」

 先頭集団が地の底に吸い込まれていくのを見て、穴に落ちる寸前で踏ん張った後続兵。

 ヒュバ! ヒュン! ヒュン!

「ぎゃ!」

「ふぅぉ!」

 彼らに対し、連合軍弓兵が放った矢が降り注がれていく。

「防御陣形!」

 後続兵は即座に盾を前にして密集し、連合の矢を防いだ。

 落とし穴の底には尖った杭が仕込まれていたが、軽装の者はともかく、メタルアーマーで武装した兵は大したダメージにはならなかった。むしろ止まれず突っ込んできた後続の下敷きにされた方が苦しかった。

 一次線突入の時はそんな罠も有り得るだろうと警戒していたが、一次線に続いて二次線にもそのような工作は無く、「陣地構築優先の結果」と思い込んでしまい、まんまと嵌った格好だ。

 しかし、その程度では帝国の圧倒的兵員の前に大した効果は上げられなかった。

 落とし穴に嵌ったものの、軽傷程度で済んだ帝国歩兵が杭を薙ぎ倒して活路を確保し、そこを乗り越えた工兵が、飛行隊の火炎弾によって燃え盛る馬防柵に鎖とロープをかけた。後ろの歩兵にロープを投げ、拾った歩兵は、

「引け―!」

「うおおお!」

わっせ! わっせ!

十数人がかりでロープを引っ張った。

 ガラン! ガロン、ゴガン!

 組まれていた縄が火炎弾で燃やされ、脆くなっていた柵は次々と壊されていく。

 侵入路が至る所に確保され、あとは突入するだけだ。

「後方騎馬隊、西に向きを変えて進み始めました!」

「むう! やはり後退するのか!?」

「次の城塞都市アムールに立て込まれますと領主府勢力と挟み撃ちになるかもしれません!」

「ふむ、その辺りが狙いか?」

「前線、塹壕より敵歩兵・弓兵が後方へ下がっていきます。いや、塹壕内はほとんど弓兵と魔導士です!」

「副指令の仰るように、近接戦闘を避け、後退しながら遠隔攻撃で突っ込んでくる我らの勢力を少しでも損耗させる気ですね」

「愚かな。その程度で我らを止められると思ったか!?」

「よし、騎馬隊前へ! 逃げる敵兵を追撃! 一気に突入させて雑兵どもを蹴散らせい! 生かしてアムールに辿り着かせるな!」

「飛行隊には戦闘装備から攻撃装備へ換装させ、敵騎馬隊の先端を爆撃するよう指示しろ! 退路を断ってこちらが挟み撃ちにしてやるのだ! 司令部も前進! 後詰めの兵にも準備させろ! 一気に攻め落とすぞ!」

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