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状況の人、反転攻勢中1

「うむ、最初に飛行隊の爆撃によって、馬防柵や塹壕の防御力を奪っておきたい。その後に魔導士と弓隊による遠隔攻撃、そして騎馬隊の突撃だ。前衛はこれで薙ぎ倒したいところだ」

 白いものが混じった髭を口周りに蓄えたドロスは、恰幅のいい腹を抱えながら遠眼鏡でティアーク側を臨んだ。

「敵飛行兵力は如何ほどか?」

「アデリア側は情報部の報告からすれば多くても150程度でしょう。あと、魔導国側がどれほど増援してくるかですが」

「モノーポリ軍勢が気になるところだ。連中の持つ飛行兵、空間機動遊撃隊は一騎当千の強者と聞くが、出張って来るだろうか?」

「自分は無いと考えます。アレは秘蔵中の秘蔵っ子と言っても差し支えありません。おそらくは王都防衛に留めると思われます」

 と参謀長。オリジナルスタッシュで手入れされた口髭の痩身の中年男性。

「だが、連合側は数的には劣勢だ。その穴埋めとしては精鋭部隊で帳尻を合わすかもしれんぞ? 特に制空権を取ればその後の戦いがやりやすくなる」

「と、すれば我が軍団より兵力が大規模な対ポータリア戦線に派遣するのではないですかな? ポータリア軍は今回、4万5千を超える大軍団で攻めて来ていると聞いております。アデリアもこちらより兵力を割いているはず」

「我が方は水軍が出港して牽制しておるからな。実際に我らがオデ市まで到達して、海と陸とで挟撃すれば効果は極めて大であろう」

「アデリアも王都やオデ市防衛のための部隊は温存しておりましょう。かと言ってこの辺の穀倉地帯を捨てて後方を防衛線にする、などは出来んでしょうからな。戦は守りが有利とは言いますが、敵は半分以下の勢力です。しかも我が方の飛行兵は600人も居りますからな。敵飛行兵と刺し違えたとしても400以上は残ります。それを以て時間をかけてでも爆撃を加え続けて兵を割いて行き、あとは騎馬兵を先頭に一気に蹴散らしていくが良策と存じます」

「そうだな。その指針を軸に攻めるぞ。各隊に伝えよ。進軍開始は本日正午をもって行うとな」

 はは! 各部隊長はドロスに敬礼すると自部隊に戻って行った。

「いよいよですな、司令官殿」

 アンドロウム西部方面軍副司令のベイムも幕僚団に入っていた。ドロスの横に立ち、彼と同じくアデリア側の陣地を睨む。

「中央の我々はこの辺りの土地勘に疎い。侵攻後の助言に期待してるぞ少将」

「お任せください。この老骨に出来る事でしたら何なりと」

 ベイムは年齢なりに薄くなった頭を下げた。

「それはそうと、ポータリアは我が方の観戦武官をアデリア北部戦線へ送る事を断って来おったな?」

「おかげでこちらにもポータリアの武官は派遣されていませんがね」

「連中は港を狙っておりますからなぁ。変に妨害や諌言などされたくないのでしょう」

「それは我が方も同じですけどね。アデリアの港は我らが頂く」

「ポータリアは魔導国側、ツセーの港を奪取して帳尻を合わせる。まあそんなところだろうが……」

「我らより先に進軍してますし、あわよくばオデの港も占領する気でしょう」

「そうは上手くいきますまい。連中は2国の中枢を突破せねばなりませんからな。各王都はとりあえず包囲して南進を急ぐにしても時間はかかりましょう。その間に我らは穀倉地帯と港を頂くと」

 口ひげを歪ませて笑いながら軽口っぽく話す参謀長。

「まあ、我々も油断はせぬ事だ。ところで参謀長、外務部の情報課がアデリア北部戦線での状況は探っておるはずだが、まだ一報は届かんのか?」

「残念ながらまだ……ポータリア側の協力が得られない以上、距離も一番遠くになりますので、初戦の状況がここに届くには5~7日はかかりましょう」

「まあ、初戦でポータリアがいきなり躓くとは思えんがな。我ら以上に一気に踏み込んでくるだろう。こちらも気を引き締めて掛かるぞ。友軍の油断や慢心に足元を掬われる事などあってはならんからな」

「では閣下」

「うむ、参ろうか」

 

 悲劇の始まりだ。


                ♦


「来ました! 連合軍です!」

 夜明けのダイブ平原、ポータリア軍司令部に伝令が駆け込んできた。

 昨夜の夜襲失敗を受けて、いよいよ後が無くなった皇国侵攻軍は今朝、本国へ援軍の要請をするかどうかを協議するはずだった。

 しかしそれどころでは無くなった。今まで防戦一辺倒だった連合軍が初めて反抗に出たのである。

 こちらが出したカードを(ことごと)く打ち破られて、眠れぬ夜を過ごしていた司令官グランドルは、ようやくウトウトしていたところで従卒に身体を揺すられた。

 司令部近くに立てられた高見櫓に上ったグランドルは既に来ていたセロテック参謀総長らと共に遠眼鏡をアデリア側に向けた。

「なんだ、あれは……」

 魔導連隊長シモンの、口の端っこから漏れる震えるような曇るような声。驚きと言うより、怖れの方が先行している、そんな声音である。

 シモン以外の、グランドルらの目も緩衝地帯ほぼ中央、国境城壁から500m辺りの真ん中に鎮座する巨大な車輌にしばられていた。

「は、破城槌、なのか? ず、随分と細い気がするが……」

「鉄……でしょうか? いや、本体自体が鉄で出来たような……」

「バカな! あんなもの、鉄で作ったとしてどうやって動かすというのだ!? 一体どれほどの重量になると思ってか!? 我が軍の可搬投石器よりもデカいぞ!」

「いやしかし……」

 槍や剣、そして小銃を持った2千名近い歩兵がズラッと横隊に並んでいる中、中央に位置する件の鉄の塊。これが未だ見ぬ、アデリアの新兵器である恐れはその場の全員が共有していた。

 魔道具か、はたまた超高位魔法か? 開戦からこっち、散々辛酸を舐めさせられた勇者の爆裂攻撃。

 歩兵を蹴散らす錫杖。それから放たれる爆裂魔法を封じたような黒筒。どんな強力な鎧を着こむ重装甲兵も薙ぎ払う20台もの大型錫杖。黒筒よりも数倍の破壊力を見せた爆裂筒……そのいずれをも凌駕する圧倒的存在感。

 目の前のこの物体がその延長であろうことなぞ疑う者は誰も居らず、それどころか満を持して現れた最終兵器である可能性に、皇国軍の司令部は全員戦慄していた。

 ――まだ……まだ、あれ以上の威力を持つ兵器があるというのか!?


 龍海はその車幅約3,2m、車体長6,7mの車輌の上で双眼鏡を構え、皇国軍の様子を窺っていた。同じく洋子も。

「慌てて迎撃態勢整えてるわねぇ。こちらが攻勢に出るとか、全く考えていなかったのかしら?」

「兵の数じゃ未だに向こうが圧倒しているからな。まあ、意表をついて混乱したところを突いて止め刺せられりゃ効果抜群だな」

「兄ぃ、早くカマそうぜ!」

 車内下からオービィが催促してきた。魔王閣下、乗っている車輌の初の実戦運用に目がギラギラしてござる。

「もう少し待ちなって。と言うか空爆隊の指揮は大丈夫なのか?」

「副長に任せときゃ大丈夫さ。敵の飛行兵連中はもう迎撃に上がる気力も残っちゃいねぇよ」

「まあ、その辺はそちらにお任せだけどな、くれぐれも油断だけはすんなよ?」

「もちろん、その辺はしっかり釘刺してるさ。何かあったらコレで連絡来るし、そん時は出張らせてもらうよ」

 と言いつつ、通信機を指でツンツンするオービィ。

「歩兵隊、準備出来ましたぜシノノメはん。最後の仕上げにいきまひょか?」

 前回と同様、高機動車に乗り込んでいるウエルドが準備完了を伝えてきた。

 龍海は左右を見回して、士気旺盛な歩兵たちを眺めると、洋子に通達。

「洋子、始めよう」

「ええ」

 洋子は頷くと、三(たび)マイクを取り出した。

「皇国兵に告ぐ!」

 洋子の声が拡声器によって皇国軍全体に響き渡る。

「いい? これからあたしたち、あんた達に総攻撃をしかけるわよ! 生きて家族のもとに帰りたい人は今すぐ武器を捨てて投降しなさい! あんた達にはもう勝ち目はないの! 数で押してもダメ! 装甲と機動力で迫ってもダメ! 夜討ち・不意打ちもダメダメ! 分かってるでしょ!? あんたらは負けたの! 敗北したの! 無駄に死ぬ事は無いわ、さっさと降参しなさい! 今から三分間待つわ! その間に決めなさい!」

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