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状況の人、眠れぬ夜1

「め、面目ねぇです。今までの恨みつらみでつい……今後は気を付けますけぇ」

「ん、オッケー。ところで男爵? 連中、本国から更なる増援とかあり得るかしら?」

「そうでんなぁ。現状このありさまで、まだ諦めずに侵攻しようってんならそれも有り得ますかのぅ。推定やが、ポータリア本国には徴用兵を含めればまだ3万近い兵力が控えちょるはずですわ。本来はここをさっさと蹴散らして、本国勢の半分も繰り出しゃ一気に侵攻出来るじゃろうと企んどったんだろがいの。じゃが、序盤で(つまづ)いてしもうて、わしらへの対処の仕様も無い状況じゃぁ、いたずらに本国勢を呼ぶ事も出来んでっしゃろなぁ」

「リターンマッチする気が起きないくらいに思い知らせてやりたいな。下手を打つと東側のゴタですら抑えられなくなるかも? てくらいにな。では、この作戦は3日後に開始するぞ」

 龍海がまとめると、出席者全員が一斉に頷いた。

 これで会議はお開き、各員は自分の幕営地に戻っていった。



「これで決まるのかな?」

 司令部幕営地の一番奥に用意された龍海と洋子用の天幕に向かいながら、洋子は龍海に話しかけた。

「ポータリアはこの作戦で黙らせられるだろう。敵司令官を押さえて降参させて、不可侵条約を結ばせる。まあ実際はお互いの文官が出張って最終的な条文が作られると思うけど、その辺はアリータさんやシステさんにお任せだな」

「いよいよかぁ……」

「もうすぐ帰れるな」

「うん……」

 洋子は微笑んで龍海に答えた。しかし龍海はその笑みに何か引っ掛かりを感じた。

 かがり火等の揺らいだ照明のせいではないと思う。何か影がある。

 もちろん、洋子が嬉しさ100%で笑えない理由くらい、鈍い龍海にだってわかっているつもりだ。

「やっぱ気がかりが?」

「ん……まあね」

 それも当然予想できる。

 自分と洋子はこちらに来てから既に半年以上が経っている。その間に起こった事、やった事は日本の日常・常識からは、かけ離れ過ぎている。

「たくさん……」

「たくさん?」

「人、殺しちゃったし」

「……」

 人を殺めた事実との葛藤、龍海もそれは思っていた。

 この世界で生きていくため、かてても洋子は日本に帰るために、アデリア王国の要望から逃れる事など出来ない話だ。

 国家の思惑から離れ、日本への帰国を諦め、この世界の中で庶民として生きていくとしても、果たしてそれから逃れられるか? それは甚だ怪しいと言わざるを得ない。

 今なお登録中の冒険者としてはもちろん、行商や農業の類にしても盗賊に襲撃される危険はいつでもすぐそばに存在する。他国・敵対勢力の軍隊が侵攻してくれば一般人は略奪や凌辱の対象にされてしまう、こちらの世相と言うものはそういうものだ。

 だから、こちらでこのまま生きていくのならそれでもいい。気にする必要は無いし、実際にしていない。最初にゴブリンを撃った時からそれは変わらない。一般の農民・町民であっても命のやり取りはすぐ近くで起こるのだ。

 この辺りで龍海は、先だって戦死者墓地で感じた引っ掛かりの答えが見えてきた。

 自分の手にかかって死んでいった者はこの世界、この世情に則った殺るか殺られるかの状況だった。だがあの戦死者たちは、自分の作戦のために死んでいった自分たちの同胞なのだ。

 そして彼らは龍海の考え方次第で死ななくても済んでいた者たちだった……そういう考えが気に掛かっていたのだった。

 とは言え当初の、自分一人だけで気楽に生きると言う選択は既に無く、為政の側に立つことになる自分に、まだ戸惑いがあると言う事なのだ。

 メルやアマリアを守る立場に立つことを決意した龍海にとって、それはこの戦役で乗り越えなければならない課題である。

 だが洋子は違う。

 戦乱の無い日本に帰った後、その事実が彼女にどう降り掛かって来るか。

 現代の地球にしてもそういう状況の中にある地域は実際に存在している。それらの情報は、否応なく他の家族友人とは違う形で洋子の上にのしかかって来るだろう。

 いろいろ様々な問題はあっても日本が如何に恵まれた国であったか、こちらに来て二人はつくづく思い知らされた。

「……向こうに帰ればさ……」

「ん?」

「魔法も使えなくなるし、こちらの出来事はそのうち『夢』とか思うようにならねぇかな?」

 とりあえず、気にするなよ的に話してみる。

「そう、上手くいくかな?」

「そりゃ最初はさ、記憶も生々しいから引き摺るかもしれないけど、もう火は出せないし、水も出せなくなるし。俺が出していた武器を使う機会も無くなるんだ。そのうち、日本の日常に慣れていくさ」

「そう、かな?」

「お前、文章書くの得意かな? なんならこっちで体験した事、ラノベで書いてみるとかさ、そう言う事してたらなんつーのかな、空想の彼方へ押し込める、なんて感じにも出来るんじゃね?」

「え~、売れるかなぁ?」

「描写がリアルすぎ~、とか評判になったりして?」

「だってマジだし~」

「だな、ははは」

「ふふふ」

 二人は小さく笑いあった。笑って不安を煙に巻いてしまえ、っと言う感もあるかもしれない。でも、少し楽になった。やっぱりどんな時でも笑えるのは良いことだな、そう思う二人である。

 恵まれた環境にある故郷は、きっと彼女をやさしく包んでくれるだろう。

「ん、ありがとシノさん」

「少しは気が楽になったか?」

「うん、勝ち目が見えて来たからってまだ確定したわけじゃないもんね。気合入れて、最後の詰めで魔が刺さないようにしなくっちゃ!」

「その意気だ。明日あさっての準備に専念しようぜ」

「ええ。じゃあ、お休みなさい」

 洋子は自分の天幕前で、手を上げて就寝の挨拶を送ってきた。

「おう、お休み!」

 龍海もまた、同じく返す。すっきりして就寝を迎えるべく、龍海も自分の天幕に向かった。

 と、その瞬間。

「!」


 ザワッ!


「洋子ォー!」

 龍海は自身が総毛立つのが早いか、洋子に警告を飛ばした。とんでもない悪寒、殺気が龍海の背筋を襲ったのだ。


 ズサ!


 何者かが空から降りて来た。それも真上だ。星明りに光る刃が目前に迫る。

 ――この!

 龍海は突き掛って来る短剣を左腕の籠手で受けた。その籠手にもカレンのウロコが仕込んであり、並の剣では刻むことを許さない。

 敵の剣はそのウロコの硬さに流され、賊はそのまま龍海に被さって来た。

 ――フン!

 龍海はその落下を受け流すように身をかがめて賊ともども前転した。転がりながら仕掛ける背負い投げの様な塩梅になり、足が地に着いたところで跳ね飛んで、構えの姿勢を取る。

 賊も同様に立ち上がり剣を構え直し、こちらに掛かってきた。

 ――刺客(アサシン)か! しかしどうやってここまで!?

「敵襲――!」

 城壁方向から襲撃を知らせる声が響いた。

 ――夜襲!? くそ!

 ポータリアの士気はまだ挫けてはいなかった。隠密か刺客か、後方にゲリラ攻撃を加えて混乱を狙い、正面から夜襲を仕掛けてきたようだ。

 ボウン! ボオオォ!

 後方から火の手が上がった。刺客による放火だろう。

 ザ――! 

 正面からも大量の火矢が飛ばされ始めた。第二次防衛線の付近まで届いている様だ。

 バンッバンッバンッバン!

 G19の撃発音。洋子は自分に襲ってきた刺客に4発の9mm弾をブチ込んだ。

 龍海もP-09を抜いた。だが、短剣(ダガー)を構えた刺客との距離は近く、右腕を払われ、剣先が龍海の顔を狙う。

 ガシ!

 龍海もその短剣を左手で押え、切先を寸前で止めた。一瞬膠着に陥るも、武器の差が出る。

 バン!

 刺客は龍海の銃を押さえて銃口を払ったはいいが、剣と同じ感覚でいたのだろうか、その位置は自分の耳元だったのだ。

 P-09の撃発音と衝撃波は刺客の左耳鼓膜をブチ破り、奴の身体を硬直させた。

 バン! バン!

 半歩身を引いた龍海は刺客の両の大腿部に1発ずつ撃ち込んだ。足の力が抜けて転倒する刺客。更に、

バン!

ダガーを持っていた右腕を撃ち抜いた。

「魔導士、照明火球上げ―い! 城壁班、掃射始めぇ!」

 ウエルドの号令が飛んだ。

 パアァ―!

 魔導士隊による照明火球が空高く打ち上げられた。緩衝地帯から忍び寄ってきた敵兵の姿が浮かび上がる。

 ダダダダダ! 

 ダダダダダダダ! ダダダダダ!

 小銃手、機関銃手が迎撃を始めた。敵の矢は盾役の壁盾に守られ、開けられた小窓から銃口を突き出し掃射する。

「洋子! 無事か!? ケガは無いか!?」

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