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状況の人、フラグをへし折る3

「え? な、なによ、ありがとうって? ……怒って……ないの?」

 若干、目を泳がせながら恐る恐る聞き直すマヤ。ロイの意外な反応に目を見開いた龍海も注目。

「そりゃぁ、自分を騙すみたいな事されたのは一言ありますけど……でも、それは姉さんが悪意で以ってやった事じゃないし。イオス領の未来を慮っての事だし、何より……」

「何より?」

「自分と、イーミュウのことを考えてくれてたことが、うれしくて……」

「……」

「それでその……自分もイーミュウの事、やっぱり世界で一番大切な女性(ひと)だって思っている事に気付かせてもらって……だから……」

 イーミュウに視線を移すロイ。イーミュウは両手を口に寄せ、その大きな眼からは涙が今にも溢れそうであった。涙腺、休まる間もないイーミュウである。

「ほら」

 洋子がイーミュウの背中を押した。よろけながら前に出るイーミュウ、その彼女をしっかり抱き支えるロイ。

「腹、括れたか?」

 龍海も笑顔でロイに語り掛ける。それに「はい」と答えるロイ。

「やっと自分の気持ちに整理がつきました。シノノメ卿への想いは今も変わることは有りませんが、自分にとってイーミュウは一番守りたい人だと、やっと認める事が出来ました! 卿のお心を裏切ってしまい申し訳ありません!」

 ――いや、俺の方は変わっていいから! 謝んなくていいから! てか裏切るって何ぞ!

「よかった! じゃあ、本家にも一報入れとかなくちゃね」

 とマヤ。バレたら嫌われる、軽蔑されるかも? と覚悟もしていたが、この一世一代の演技、功を奏したようで、マヤは心からの笑顔を浮かべる事が出来た。胸に残るであろうキズ痕も勲章に変化した思いだ。

「善は急げよね~」

「う~む、タツミとの絡みが減るのは我としては残念じゃの~」

 ――勝手に残念がれ!

「じゃあ、この戦が終ったら結婚式かしら?」

 などとアマリア。

 ――え?

 その言葉にギョッとする龍海。

「はい、そうします。サイガ卿も善は急げって言って下さいますし」

 ――ちょ!

「ヨウコさまもタツミさまも、式にはぜひ、出席してくださいね!」

 龍海は叫んだ。

「この、大馬鹿野郎―――!」

 その後、龍海は二人の現在の任を解き、マヤ共ども後方に送り返した。直ちに!


                ♦


 とんでもねぇフラグを立てよったロイとイーミュウをその日のうちにイオス領に叩き返した龍海は、今後の方針についてウエルドやオービィ、フランジャーらと相談することにした。現実的にはそんなフラグなんてもんは無視してしまえばいいオカルトレベル程度のものでしかないとは思うものの、変に気が散って魔が刺すなんて事態は避けたいところ。何せ作戦は、正に佳境に入っているのだから。

 二度にわたる敵主戦力の撃退は友軍の士気高揚に大きく寄与はしたが、やはりそこは龍海の火力。今回、敵魔導連隊の防御幕を尽く撃ち破り壊滅せしめたのは洋子の人並外れた魔法力によるものだ。

 龍海がサンバーに向かった後の洋子の攻撃、火・水・氷・雷魔法等の乱れ撃ちは苛烈を極め、その姿はまるで歩く迫撃砲の如くであったという。

 サンバー戦線においては、予想以上の敵兵力が投入されたとは言っても、表向きはこちらも勝利ではあった。だが陣地の半分が破壊されてしまっており、手放しでは喜んでいられない。こちらもまた龍海の火力あっての辛勝である。

「みんな、今まで良く俺の方針に従って来てくれた。改めて礼を言うよ」

 龍海はまず、今日まで自分が決めた路線で行ってきた作戦運用に従事してくれた諸侯に頭を下げた。

「なんだよ兄ぃ、そんなの今更じゃんか。今回の勝利だって、兄ぃや姉さんあってのものだぜ?」

「左様。敵兵力の1/5にも満たぬ我らが戦死者100程度で済んでいるのは(ひとえ)に、お二方のおかげでございますぞ?」

 オービィとフランジャーが応える。

「ありがとう。だけど俺としちゃあな……」

「あの時の話ですかい?」

「ん? ああ、まあな?」

 ウエルドが突っ込んだ。あの墓地での話だ。

「だから何の話だよ兄ぃ、ウエルドのおやっさん?」

「最初の迎撃戦の後なんやが、シノノメはんに言われてのぅ」

「……例の事?」

 龍海は洋子にも話していた。

「だからさぁ!」

「オービィは不思議に思わなかった? シノさんが、なんでもっと大量の火器を最初から大量に使って一気に圧倒しないのかって?」

「え? そりゃまあ、思わない訳じゃなかったけど。でも、兄ぃの魔力の問題とか理由は有るだろうし……ああ、そのことってわけか?」

「いきなり重砲のつるべ撃ちを食らわせりゃあ、敵本隊もあっと言う間に蹴散らせられた。それこそ何が何だか分からない内にな」

「まあなぁ。ハクゲキホウだけでもそれ、出来そうだもんな。で、なぜ兄ぃはそれをしなかったんだい?」

「何が何だか分からないうち……俺はそれを避けたかったんだ」

「相手は数に任せて勝気満々でやってくるわ。そしてこっちはそれを根底からひっくり返すように、挫かせるつもりで当たったワケだけど」

「実際に勝ちましたな。うん? なるほど……最初からこちらが全力を出さなかったのは挫き過ぎないように、言葉はアレですが手を抜いた、わけですな?」

「正解だ、フランジャー中佐。こちらの思惑通り、奴らはさらなる増員と工夫を凝らした戦術でそれを圧倒しようと試みた。航空兵力の投入、耐久性と機動力を重視した騎馬隊の前面配置、地の利が乏しくても大量の兵力投入で押し切ろうとする挟撃作戦。俺たちはそれを引き出した」

「だけど結果は前以上に惨敗。更なる重火器の投入で主戦場たるダイブ戦線はもちろん、守備兵の10倍近い戦力を投入したサンバー戦線も一時的には優勢になりかけたけど結局は敗退したわ」

「敵にはまだ手付かずの兵が我らの倍はおるやろ。引き下がった隊の再編成が済めば2万5千は組織できるじゃろう、わしらの4倍じゃ。だが今の奴らァ、考えた策が次々打ち破られて大量の死傷者を出し、一次戦より強力な火器の出現で手を拱く……いや、恐怖している状態になっていると思われますのぅ」

「そっか、兄ぃはポータリアに恐怖を叩き込むつもりなんだね?」

「そう。自分らがどれだけ知恵を振り絞っても、どんな小細工を仕掛けようとも全く無駄だった、それ以上に強力な兵器で全て薙ぎ払われてしまう。兵力は明らかに劣勢なのに戦力そのものは次から次へと自分たちを上回ってくる……そう思わせたかった」

「それは成功しましたな。連中は今、次手を考えてはいるでしょうが、我らがこれ以上にまだ強力な隠し玉でも持っているのではないか? と怖れておるでしょう」

「そのために、結果として火力を出し惜しみしたがために、死なせずに済んだ命が散った。俺の責任だ」

「そんなの……そんなの、兄ぃが背負う事ないじゃんか! てか、だからこそ、この程度で済んでいるんじゃねぇの?」

「わしもそう言わせてもろた。それ以上に死なんで済んで生きとる奴らがいる。襲われんで済んだ村や街がある、そう言うてな。それを背負うんはわしらの役目じゃろうと」

「ああ、男爵に、この世界の人にそう言われて、少し楽になったよ。だから犠牲になった連中に報いるためにも敵には二度と侵略なんかさせない、そんな気にさせない作戦が必要だと思ったんだ。ここで最終フェイズに移るぞ」

「最終?」

「更なる恐怖の植え付け、でんな?」

「そうだ。今度から、こちらは攻撃に転ずる。戦う気が折れかけている今、使える火力を総動員して奴らを絶望に追い込む! 泣いて白旗を掲げるまでな!」

 龍海は作戦概要を説明した。ポータリアの戦意を完全に挫き、帰国した後も復員した兵士の口からは恐怖しか漏れて来ないくらい、二度と再戦しようと言う機運など起こらないくらいのトラウマを刻み込むほどに攻める作戦だ。

「うわぁ~、タツ兄ぃ、えげつ無ぇ~」

 オービィが呆れる。しかし口元にはこれ以上ないニンマリした笑み、目元はギラギラ輝いて来る。

「ううむ、この作戦が成功すればポータリアは、少なくとも今、生きとる世代が居る内は、もう戦を仕掛けようとは思わんかもしれませんな」

「それが狙いだ。出来れば俺が死んだ後でもそれが続いてほしいんだがな」

「兄ぃは自分が死んだ後の事も考えてたのか?」

「シノさん、下手なこと言うとフラグになっちゃうから、そう言うの止めようよ」

 洋子の諌言。ついさっきまでロイとイーミュウのフラグ騒ぎでゴタついていたから余計である。

「ふ、そうだな。まあとにかく、我ら連合国にちょっかい出すなら、この攻撃に対する対処法を編み出さないといけない、しかしその可能性は絶望的に低いと刻み込ませたい」

「連中は今、虎の子の飛行兵が壊滅するわ、防御力・機動力が抜群の重装騎兵も全滅するわで士気がダダ下がりのはずじゃけんのぅ。あのザマ、爽快でしたわ、がっはっは!」

「そりゃ誰かさんが銃身焼け付くまで撃ちまくればねぇ?」

 洋子に半眼で睨まれ笑いが止まるウエルド。額に冷汗が一滴タラーリ。

「M2は銃身交換も調整も面倒くさいんだから気を付けてって言っておいたわよね?」

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