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状況の人、二回戦中4

 そう、その予想外だった。

 幅30mの峡谷道路。その路肩幅がサンバー台地の始まりから一次防衛線にかけて80mくらいまで広がっていくのだが、そこまでの狭路は200mほど続いている。しかも路肩を含めてその程度の道幅では通過するだけならまだしも、軍隊の大規模な作戦運用は出来ない、と考えていた。

 ダイブ平原での正面突破攻撃が失敗すれば、このルートを使っての挟撃・後方撹乱は当然予想されていたので迎撃隊は編成されてはいたものの、先述の理由からロイ率いる守備隊は600人程度しか送られていない。

 だが皇軍挟撃隊はここに5千人を投入してきたのである。狭場ゆえ、正面の攻撃力が限定されて少人数相手でも迎撃されてしまうのだが、皇国軍側はそれをものともせずに次から次へと肉の壁とばかりに兵を押し出してきた。呆れかえるほどの力押しである。


 サンバー台地付近の狭道出口でロイたち守備隊は防衛陣地を構築していた。

 国境閉鎖に伴い、出口付近では丸太によるバリケードが築かれ、100m後退したところには幅50m強に広がる平地を塞ぐようにトーチカが作られた。

 トーチカと言っても、龍海の考案によるもので木枠で屋根を作り前面と上面に土嚢を積み重ねた簡易なものである。敵の弓攻撃を避け、ところどころに開けられた窓から火器や弓、クロスボウによる狙撃を行う。更に200m後退したところでは同様の仕様の第二次防衛線が構築された。

 街道北側にあるサンバー台地は道より25mほど高く、そこにマヤ・クロノス率いる弓兵200がバリケードを突破した敵兵を撃つ段取りだ。トーチカに敵兵が取りついても上部にある土嚢のおかげでロイ達への誤射は無くなるので、遠慮なく射掛ける事が出来る配置となっていた。


 だが、そうは言っても今襲撃をかけている皇国軍の兵力は5千人である。

 敵工兵はバリケードを崩し、後方からの弓や魔導士による遠隔攻撃の支援を受けながら、歩兵が次々突撃してくるのだ。

 ドンッ! ドンドン! 

 ダダダダダ! ダダダダダ!

 一次線は小銃が30丁とミニミ機関銃3丁を主力に応戦。数少ない魔導士の火炎球や氷結槍、弓・クロスボウも懸命に敵の進出を押さえていた。

 二次線は少数ながら後ろに回り込んだ歩兵を狙撃。中央に作られた、一次線が射角に入らない角度での12,7mmM2機関銃座が一カ所設けられ、峡谷の出口から奥方面までを掃射していた。

 そして襲い掛かる2つ目の誤算。5,56mm弾の力不足であった。

 比較的軽装の弓兵は当然後方から矢を射かけてきており、前衛は重装備の歩兵を押し出している。

 まともに当たればプレートアーマーの板厚くらいは普通に抜いてしまうのだが、それらの防具は曲線が多く、跳弾してしまうこともまた珍しくない。

 ロイは前面に7,62mm弾の64式を主に、回り込まれた歩兵の掃討を89式に当てたが、機関銃の主力を5,56mmのミニミにしたことで面制圧力が力不足になってしまったのだ。

 数こそ少ないが敵の装甲兵の中には、材質に高硬度希少素材ミスリルを使った合金を奢った者もいて、それらには、5,56mm弾はもちろん7,62mm弾でも抜くのが容易では無かった。

「M2銃座! 2時方向に特重装甲(ミスリル)兵! 排除せよ!」

 ロイが後方に無線で指示を飛ばす。

「了解! 2時方向排除します!」

 ドドドドン!

 M2が重装甲兵を捉える。

 腹部中央、ヘソ付近に被弾した重装歩兵は身体をくの字に曲げて後ろへ吹っ飛んだ。

 さすがに12,7mm弾であればミスリル合金製アーマーでも撃ち抜くことが出来るようだ。撃ち抜けなかったとしても、その弾の勢いまでは重装甲と言えど止められない。その勢いは鎧ごと兵を吹っ飛ばした。足や腕に当たれば関節がもぎ取られるように粉砕され、頭部に命中すれば首の骨が折れてしまう。さすが、かつては装甲車や航空機を相手にしていた弾薬である。

 だが効率はすこぶる悪い。なにより1丁しか装備されていない。

「ロイ! 盾役(タンク)が増えた! 突っ込んでくるぞ!」ザッ

 台地から支援攻撃を加えているマヤから通信。ロイはトーチカ窓から前方を確認した。峡谷道路出口に大きな壁盾を持った盾役が密集して横隊に並び、その後ろには槍を持った歩兵が控えているのが見える。一気に突撃し、窓から槍を突っ込んでくるか?

 ――あの盾、二枚重ねているのか!?

 さすがに壁盾二枚、と言うワケでは無さそうだが、歩兵用の盾を前面に張り付けて装甲を強化している。さすがに前進速度は落ちるものの、トーチカにはまだ少数だが歩兵が取りついて来ており、今のところは撃退しているが土嚢の損傷も増えてきた現状では、これ以上の前進を許せばいつかは崩壊する。

「89式! 小銃擲弾用意!」

 ロイが15人いる89式小銃手に06式小銃擲弾の準備をさせた。

「目標、前方盾役兵、距離約75! 一番から八番、擲弾撃てー!」

 ドンッ! ドドドン!

 窓から8発の擲弾が、ほぼほぼ水平射撃で盾役に向かって放たれた。

 ドカ! ドカッドカン! ババーン!

 次々命中する擲弾。さすがにこの距離ではほとんどが命中する。外れても、奥に飛んでいけば無駄ではない。

 ドンドン! ドーン!

 次々と盾役を粉砕する擲弾。擂り鉢状に成型された爆薬が高圧力を発生させ、押えていたスリーブがメタルジェットと化して盾を貫き、後方の兵に襲い掛かかる。多少、盾を強化したと言っても、そんな成形炸薬弾の貫通力、爆発力の前には無意味であった。

「敵盾役全滅! 槍歩兵群も被害甚大と認む!」

 ――よし!

 擲弾の猛烈な効果に笑みが漏れるロイ。だがしかし、

「対空警報! 飛行兵8、一次防衛線直上、急降下!」

マヤからの警告無線が飛んできた。思わずトーチカ天井を見上げてしまうロイ。

 ドウン! ドバアァァ!

「うわああ!」

 トーチカ内に悲鳴が響く。窓から炎の塊が飛び込んできて兵数人を巻き込んで燃え出したのだ。

 ――油脂火炎弾か!

 飛行兵の火炎弾による空爆であった。そのうちの一つが窓枠上部に直撃し、引火した油脂が内部に侵入して来た。飛び散る油脂が兵士たちを襲う。

「火災発生!」

「うわ! うわ! うわあぁ!」

 油脂を被った兵が火だるまになってのたうち回った。

「消化しろ! 魔導士、水魔法だ!」

「だめだ! 火炎弾の油脂は水をかけると飛び散る! 消火器だ!」

 ロイは龍海が再現した消火器の用意を命令した。油脂弾の特性のレクチャーを受けた龍海が用意しておいたものである。

 出入り口付近に設置しておいた消火器を取り出させ、自分が受け取って、龍海に教えてもらったようにピンを抜き、レバーを握って顔に当たらない様に消火剤を噴射。

 ブォォー!

 ロイの訓練通りの操作により、数秒の噴射で火は消えた。

「よし、魔導士! 負傷者に水をかけろ、患部の冷却と洗浄だ! その後、後方へ搬送して治療させろ。あと、風を起こして内部の換気を!」

 次々と指示するロイ。その間にも火炎弾はトーチカを襲った。漏れる煙から天井が火に包まれているのが分かる。木枠で骨組みを作り土嚢を積みあげたトーチカであるため、一気に燃え広がる事は無いが、やがては崩れ落ちてしまうだろう。

「機関銃、対空防御! 弾幕を張って飛行兵を追い散らせ!」

「隊長! 弾薬が有りません!」

「なんだと!?」

「こちらもです! あと弾帯一本しか!」

 焼けた銃身を交換しながら、機関銃手が弾薬の枯渇を訴えてくる。

 ――く!

 敵の数が多い上、装甲兵に対して5,56mmを消費しすぎたツケが回ってきた。さらに屋根の炎上により内部にも熱が伝わって来る。

 タタターン! タタタタン!

 外から銃声が聞こえる。伺ってみると台地展開組が弓と10丁の小銃で飛行隊を狙っていた。 

「クロノス少尉!」

「ロイ! そっちは大丈夫なの!? 上の方、かなり燃えているわよ!」

 ――くそ……仕方ないな……

 二次防衛線には、ある程度の弾薬の備蓄は、まだ有る。しかし、そこから補給を受けて、ここに留まって抗戦を選ぶとするには一次線の損耗は大きすぎた。

「このトーチカは放棄する! 擲弾の一斉射を合図に二次防衛線に後退する! 少尉もそこを撤退して二次線以降の後方に下がって!」

「わかった! あんたたちが撤収するまで飛行兵はこちらで牽制するわ!」

「了解! 無理しないでね姉さん!」

「あなたも!」

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