状況の人、二回戦中3
「こっちはねぇ! 過去、あんたらがやってきた窃盗やらタダ飯タダ酒、器物破損や強姦やら水に流そうって言ってんのよ! 過去のわだかまりを捨てて平等になろうと……!」
「ふざけるな!」
洋子の声が遮られる。それも大概不愉快な言葉に。
「貴様ら如きが、我ら上級民たるポータリア臣民と同じ立ち位置に立てる訳が無かろうが! 調子に乗るな!」
「過去の恩を忘れて魔族と手を結んだ下郎どもが!」
「劣等国民の売女どもなど、我らに相手してもらえるだけ有り難く思え!」
うおお!
そうだ、そうだ!
――集団心理って言や、そうなんだろうけど脳味噌痺れてんのかなぁ?
言っている事はとても上級民のお言葉とは思えない。龍海はこれから起こるであろう惨状を想像して頭が重くなっていった。因みに03隊への指揮権は洋子に渡してしまっている。アデリア民が帝国や皇国に受けた仕打ちをウエルドらから聞いていた洋子は、思いっきり物騒な眼をしながら指揮権を要求して来たのだ。
下手すれば、置き引きマティらによって自分らも凌辱される側になる寸前だった洋子にとっても、過去凌辱された女性たちと、その家族の無念は察するに余りある。
「ウエルドさん……」
「なんだす?」
「言葉通じても、話が通じない相手ってやっぱ居るのね……」
「でっしゃろ?」
声こそ小さいが、背筋が絶対零度級に凍りそうな地獄の底から湧いて出るような声音で呟いた洋子はマイクを握り直すと、
「ああ、わかった! 四の五の言うの、もう止め! 今から三つ数える内に武器を捨てて投降しなさい! さもないと! あっ……」
「おどれら全員、一人残らず皆殺しじゃあ!」
天辺までムカついていたのは洋子だけでは無かった。
同じくブチ切れたウエルドがマイクをむしり取って怒鳴りつけよった。対して、
「身の程知らずがー! 目標敵城壁城門! 騎馬連隊突撃ー!」
皇軍も皇軍なりの自負で怒りをぶつけてきた。
おおおおお!
騎馬隊が突撃を開始した。
ドドドドドドドドー!
地面を揺るがす、3千の馬蹄の音が響き渡った。並みの軍隊ならば、この音だけで委縮してしまうだろう。並みの軍隊なら?
「あーもう、カウントダウン無シ! 03こちら01! 初弾撃て!」
「01こちら03、了解!」
言うと同時に、陣地の更に後方から、
ドンッ!
今までにない太く重い爆音が両軍兵士の耳に届いた。
ヒュウウウウウゥゥゥ
ドッガアアァーン!
「どわぁ!」
「ぐはぁ!」
騎馬隊集団の中央に馬蹄の音をかき消すほどの炸裂音。同時に騎兵数騎が宙を舞い、十数騎が爆炎と共に転倒した。
「うわわ!」
転倒した集団の後続は行き場を失った。馬は懸命に飛び越えようとするも、着地地点に転がっている騎兵に足を取られて転倒。その後も次々に玉突き。
「な、なんだ!?」
先頭も後ろを向く。
その間に、
「着弾点修正、南に50! 全門効力射はじめ!」
ドンッ! ドドンッ! ドンッ!
先ほどと同様の爆音が重ねて響く。同時に洋子たち守備隊は城壁に身を預け跳弾、流れ弾に備える。
ドッガアアァァン! ドッガン! ドォッドォッーオン! バゴーン!
騎兵集団が爆音とともに、吹き上がる土煙の中へ次々飲まれていく。
ヒヒーン!
それから逃れた者も、爆音と地を揺るがす衝撃に馬がパニック状態に陥った。暴れまくる馬から振り落とされる兵。更に暴れ馬に踏みつけられたり。吐血か破裂か、頭部口当たりの甲冑が朱に染まる。
「03、砲撃中止! すぐ再開できるよう待機!」
「城門開けー! キャリバー掃射隊前へ出せー!」
うおお!
街道城門が開かれ、まず洋子とウエルドらの高機動車が緩衝地帯突入。それに続いて他の城壁門からも総計20台の12,7mmM2機関銃を据え付けられた荷車がなだれ込み東西に展開していく。
M2は銃本体が約38kg。龍海が自衛隊で使った60kgの三脚込みで約100kgとなる。それを積んだ荷車を4人で操作。1人が射手。それが×20。その銃口を向けられれば、知っている者なら正に悪夢。
「撃てー!」
いや、悪夢でも夢ならまだマシだ。しかしこれは現実だ。
ドドドドドドドドドドド! ドドドドドドドドドド! ドドドドドドドドドドド!
一斉に火を噴くM2重機関銃。20門の銃口から秒間13発、弾頭エネルギー18,000Jの12,7mmNATO弾が騎兵隊に放たれる。
重装騎兵は特に胸部装甲に5ミリ近い鋼鈑を奢っていた。そんじょそこらの弓矢など問題ではなく、並みのランスでも貫けない代物だが50BMG弾の前には紙同然であった。
ドドドドド! ドドドドドド!
「ふが!」
被弾した騎兵は馬から転落。
「ブヒヒーン!」
馬が被弾すればもろとも転倒。
脚に当たればへし折られ、頭部に当たれば木っ端微塵である。
「03こちら01! 着弾点修正、北へ300、砲撃再開!」
洋子は砲撃を北側、ポータリア側に移動させた。キャリバー隊はそのまま自軍から100m地点まで前進。更に掃射。
ドオン! ドガッ! ドッバァン!
ドドドドン! ドドドドーン!
M2による掃射と遠方からの砲撃。皇軍の展開地は前も後ろも血と肉片が飛び散る屠殺場と化していた。
「うらぁー! さっきまでの威勢はどうしよったぁー!」
M2を乱射しながら吠えるウエルド。オービィに続いてトリガーハッピー2号爆誕。
しかしオービィは5,56mm弾のミニミ機関銃だったので一命をとりとめた者も多かったろうが、今度はキャリバー.50である。弓兵や歩兵より装甲が厚いと言う事でミニミでは力不足かも? と換装しておいたわけだが、正にオーバーキル。
それに積年の恨みも加わって連合、かててもアデリア勢の攻撃には情け容赦は無く、前回より更に悲惨になっている。
洋子も連中の「アデリア女などレイプして当然」みたいな寝言をほざく連中には、白旗でも上げない限り助けてやる気にもならなかった。あれにはさすがに反吐が出た。
件の03隊は120mm迫撃砲10門を装備した砲撃班であった。敵皇軍からは視認できない陣地後方に展開し、そこから砲撃していたのだ。
「うっへぇ~、すごい威力だなハクゲキホウってな。演習で見た時も驚いたけど、実際に馬とか吹っ飛ぶの見てるとまた違うな~。それをこれだけ集中させるとマジ地獄だわ。兄ぃがあたいらと手ぇ組みたいって言ってくれて良かったぜェ~」
当初は龍海たちは彼女らの敵になるはずだっただけにオービィの安ど感も半端ない。同盟が実現して無かったら、ああやって吹っ飛んでいたのは自分達だったのだから。
「よほど恨みが募ってたんだなぁ」
櫓から戦場の様相を見ていた龍海が呟いた。
「あたいたちの領土はポリシックのとこも挟んでいたし、そのオジキのとこも、ポータリアとは国境抱えて無かったし。おかげでポータリアの連中とは縁が無かったからなぁ。プロフィットは国境線も広いし一番ポータリアにやられてたんだろうなぁ」
「だから、むしろポリシック領との交易が盛んだったのかな? 仮想敵国の方が好感度高いとか悪い冗談だな……ん?」
「00、こちら06おくれ」
オービィと駄弁っている内に、06――街道東側歩哨班から無線連絡が入った。
「06、こちら00感明良し」
「00、こちらにサンバー戦線からの伝令が到着。援軍の要請!」
「援軍!? 了解、すぐに向かう! 伝令をそこで待機させろ!」
――ロイが援軍を求めてる? 予想外に大軍が来たのか?
龍海はオービィに後任を頼むと、急いで櫓から降りてJ53に乗り込み、東の警戒線に急いだ。