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状況の人、小休止中5

 確かにロイは座学段階とは言え、士官学校でこの世界の部隊指揮・運用を学んだ身であり、その知識は龍海を上回るワケで、近代兵器の知識経験も相まって適任と言えば適任。しかし候補生軍曹からいきなり中佐、は戦時昇進としても例外過ぎる。ロイの苦悩も宜なるかな。

「で、用事はなに?」

「フランジャー中佐がお見えになってるのよ」

「え? 中佐が? すぐお通しして!」

 ロイはマヤに、フランジャーを迎え入れるよう指示した。盗賊戦の一件で旧知でもあり、東部戦線の支援に向かう魔王ポリシックの配慮で、一個中隊を引き連れて応援に来てくれたのだ。龍海とも協議して、ロイの参謀役として支援してもらう事になったのである。

「よろしかったですかな、大隊長?」

「はい、なにかありましたか?」

「どうやら敵の斥候による偵察が増えておるみたいでしてな」

「……という事は、次の攻撃では敵の別働隊がここを通る可能性が増えた、という事でしょうか?」

「おそらくは。ダイブ平原における皇国軍の第一次総攻撃では敵は手痛い敗走を喫しましたからな。次回はここを通ってダイブ後方から側面を突くつもりでしょう」

「こちらに割ける兵は今がギリギリ。参謀殿? 火器や弾薬、兵器等は表には出ていませんよね?」

「火器も弾薬もほぼトーチカや天幕内ですし車輌は完全に偽装しております。遠眼鏡で見たくらいでは見つかる事はありますまい」

「表に全く無いのも不自然ですけどね。その辺は?」

「前衛の後ろに3~4人ほど、小隊長級の者にショウジュウを持たせて分散させております」

「油断を誘うためにも余り行き渡っていない、そう思わせたいところですね。実際に10人に一丁くらいしかありませんし。あと、敵斥候に対する対処ですが」

「遠巻きに見ている限り放っておきましょう。対して陣地内、特に天幕内を伺うやつはもちろん捕まえた方がいい」

「わかりました。通常兵力の采配は参謀殿にお任せいたしますので、どうかよろしく」

「心して! ここ一番という時の火器の運用はお願いしますよ、特務中佐?」



 フランジャーとの話が終わったロイとマヤは外に出て台地の状況を見て回った。

 ポータリアへの街道の幅は路肩を含めて30m程度と狭く、この台地をアデリア方面へ抜けると平原へと順々に広がっていく。この狭路ゆえ、大軍が進軍する事は無く、精々遊撃隊による後方撹乱目当て程度と想定して、一個大隊程度が守備隊として派遣されているのである。

 主力はこの先の平原前に展開しているが、峡谷西側から続く、岩肌が広がるようなこの台地は街道から25mほどの高低差があり、400mくらいの距離で平らな面が続いてやがて平原に向けて傾斜していく。侵入してくる敵に上から弓矢を浴びせかけるにはいい立地だ。

「ここにも攻めてくるとして、どれくらいの人数が来るのかしら?」

「地形からして、そんなに大勢は投入しないんじゃないかな?」

「そうね、主方面のダイブ平原の援護、後方の撹乱が目的だもんね。それでも2千や、そこらは来ると思うけど、どう?」

「その辺はマヤ姉さんの方が詳しいんじゃない? もう学校を卒業して部隊に配属されてるんだし」

「まだまだヒヨッコよ。誰かさんみたいに、魔族の盗賊団や奴隷商人皆殺しなんて実績無いしね~」

「言い方! 姉さんは昔っからそうやって自分の事、弄ってさぁ……」

「そんな感じで唇尖らすのも変わんないわねぇ~。ん、かわいい!」

「ちょ、姉さん!」

 ロイの頭を自分の胸に抱えるマヤ。ぐいぐいお胸を押し付けてくるが、プレートアーマーのおかげで痛い事この上ない。

「姉さんも変わんないよ、そう言うとこ!」

「で、アッチも変わんないの、あなた?」

「え……?」

「イーミュウが言ってたけど、今はあのシノノメ卿にぞっこんなんだって? イーミュウ零してたゾ?」

「姉さんには関係ないでしょ?」

「つれないなぁ、同じイオスの一族でしょ? それにさ……」

「?」

「私にとってもイーミュウはホントの妹みたいに思ってるんだ。彼女が泣くとこなんか見たくないからさ」

「それは……」

「それは?」

「自分も同じだよ。イーミュウの泣き顔なんて、見たく、ない……」

「そっか。あなたも、悩んでくれてるんだ」

 マヤは再びロイを自分の胸に抱き寄せて、彼の額の左辺りに思いっきりキスをした。


                ♦


 ポータリアの第二次総攻撃の準備が始まった。

 今度は連合軍正面に1万5千人。サンバー台地経由の挟撃隊5千の2万人体制で臨む。敵国境防衛軍を殲滅し、突破できれば残存の1万5千も繰り出して一気にアデリア国内になだれ込もうとの算段だ。

「500の飛行戦隊が露払いをしてくれます。貴重な航空戦力ですし、王都や南部攻防戦まで温存の方針でしたが、最早そんな悠長にも構えてはおられません」

「そうだな参謀長。油断ならぬ相手と見るべきではあるが敵は多く見積もっても、せいぜい7千程度。少数とは言えサンバー台地にも分散しておるし、突破口さえできれば一気に崩せるだろう」

 平原全体を概ね一望できる即席の櫓の上でグランドルとセロテックは前進を始めた友軍の雄姿を眺めながらこれからの指針を述べ合っていた。

「懸念するは勇者の存在ですな」

「ヤツが現れたら我ら魔導連隊にお任せを。総掛りで制圧させます。前回の雷撃、炎撃への対処法は考えております」

「しかし、もしもまだ隠し玉があるとすれば……」

「出せるものなら既に出しているのではないですかな? 連中とて我が軍がどれくらいの兵力を展開しているか、温存しているか知らぬわけはないでしょう。ならば第一陣は一人残らず滅していたはず」

 それにシモンも加わっている。彼は敵勇者の魔法の威力、その他魔道具による攻撃や威力を大局的に見てみたくなり、前線は副官に任せてこちらに赴いてた。

「魔導連隊長の仰ることを信じたいところですな。まあ、勇者一人でどうにかなるならあんな魔道具には頼らないでしょう。しかしそれだけに魔道具の底が知れない方が要注意かと?」

「いずれにせよ、油断は大敵だ。前回の作戦においては、数に驕っていたのは言い訳のしようも無い事実である。同じ轍は踏んではならない!」

 司令官グランドル中将は幕僚幹部の気を引き締めた。無論、自分の身も含めてである。

 ――皇王陛下への最後のご奉公。ゆめゆめ陛下の期待を裏切ってはならぬ。

 齢50代の後半を迎え、引退の花道を探っていた矢先のこの拝命。グランドルは何としてもこの侵攻を成功させ、念願の不凍港を祖国にもたらし、皇国発展の礎として奉公の最後を飾りたいと願っていた。


「騎馬弓兵隊前進!」

 ポータリア軍による第二次総攻撃が開始された。

 作戦通り、まずは装甲騎馬弓兵が先頭。次いで歩兵弓兵3千が続く。

 弓兵3千がアデリア防衛軍に矢の雨を浴びせかけながら、装甲騎馬弓兵1千騎ずつが東西から回り込んで、交差するように疾走し、流鏑馬(やぶさめ)宜しく弓による攻撃を加える寸法だ。

 やがて騎馬隊の先頭がアデリア側から400m付近に達した。あと100mも前進したら弓矢の射程ギリギリになる。

 本来なら矢の撃ち合いになるところだがアデリア軍には妙な魔道具がある。前回の攻撃では、その詳しいデータは得られるには至らなかった。

 そこで、皇軍内で屈指の大弓と屈強弓手の組み合わせが最大射程400mであるので、それと同等と推定された。

「例の魔道具は放たれませんな」

 騎馬隊副官が連隊長モンスニーに現状を話しかけた。

「前回被弾した兵の傷からその魔道具から放たれたと思しき礫が見つかったと、昨日軍医が報告して来よったわ。小指の先ほどの銅と鉛で出来た細長い礫だそうだ」

「……矢じりだけが飛んできた、という感じですか?」

「鎧を抜くと言うその威力は驚愕すべきものだが、矢柄も矢羽も無くては真っ直ぐ飛ぶ道理が無い。至近距離でないとまともに当てられない可能性も高いと兵器工匠の分析だ。だが当たればタダでは済まん。侮れん」

「騎馬隊進行と同時に飛行戦隊による攻撃で敵弓兵、魔道具兵を殲滅できればあとは突っ込むだけです。おっと、あと5分です、連隊長」

「サンバー台地攻撃隊と歩調を合わせれば敵を混乱させる事も容易だ。グランドル司令は今回で決める気だな」

「飛行戦隊は全力出撃です。飛行戦隊同士は格闘戦がメインです。対地攻撃はともかく、縦横無尽に飛び交う飛行種相手では弓は役に立ちません。敵の魔道具でもそれは変わらないでしょう」

「地上でもその機動力が必要だ。故に騎馬隊も出せるだけ出す」

「仰る通りで。む、時間です連隊長」

「いよいよか……よし、第一騎馬戦闘団、東へ! 第二騎馬戦闘団、西へ! 各団各隊、指示通りに進軍せよ!

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