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状況の人、小休止中3

「ダイブ戦線から一報が届きました!」

 魔道国 王都エンソニック城の魔道王執務室にリバァの声が轟いた。

 彼女はクーデター鎮圧後、即座に開放されてモーグに戻り、現在は対アンドロウム戦線へ赴いている宰相システの代理で王都府に詰めていた。

「来たか!? で、なんと言ってきたか!?」

 メルは立ち上がり、執務机からその身を飛び出さんばかりに前のめりになりながら尋ねてきた。

「はい! 『10月15日早朝、魔道国アデリア連合軍はダイブ戦線においてポータリア皇国の侵攻軍約1万と交戦状態に入れり。戦いの趨勢は午前中に決まり、皇国軍は幕営地まで後退せり』です!」

「勝ったのか!?」

「はい! 敵の推定死傷者数は3千人余り。我が方は250人ほどと追記されております!」

「一万中約3千!? ほぼ全滅ですわね!」

 侍従長のエバも興奮気味に喜んだ。

「死者は? わが軍の戦死者はいかほどか?」

「わが方の戦死者は……60名です」

 メルの問いにリバァが答える。

「そ、そう……」

 それを聞いたメルの表情は微妙だった。

「それだけで済んだのであれば、これは大勝利といっても過言ではありませんわ、陛下」

 エバも補足する。確かにメルもそれはわかっていた。

 だが、やはり少数とはいえ戦死者が出た事で手放しでは喜べないメルである。もちろんそんな、戦死者がゼロで済むなど、甘えを通り越して妄想であると言う事もわかってはいる。

「陛下のお気持ちはわかります。死者の数はゼロがいいに決まっている、しかしそんなにうまくいかない事も。陛下も本当はお分かりですよね? それはそうとリバァさん? シノノメさまのことは?」

 話を龍海に振るエバ。メルの目がついと大きく開く。

「特段何も……と言う事はお怪我もせず、ご健在であらせられるのかと」

「そうか。そう、だな」

 コンコン!

 ロイヤルガードからのノック音が聞こえた。三人とも扉に注目。

「注進! ダイブ戦線からの第二報が届きました!」

 早! 三人ともがそう思った事であろう。

「入室を許可します」

 ゴコン……扉が開き、ロイヤルガードが書状を持ってきた。

 メルはガードに目でリバァに渡すよう合図すると、差し出された書状をリバァが受け取った。早速開封する。

「なんだ、なんと書いてある!?」

 急かすメル。対してリバァは、一文一句頷きながら目を通した。

「第一報の修正と追加分です。え~、戦死者の数が減りました!」

「減った?」

「はい、戦死と思われた数名がシノノメ卿の異世界技術による処置と、アマリア王女殿下の治癒魔法により蘇生。予断は許さない状態なれど経過は安定とのことです」

 異世界技術――おそらくは心臓マッサージや人工呼吸、あるいはAEDの再現(リプロダクション)だろう。それにアマリアの治癒魔法が加わっての結果。そのどちらが欠けてもこの結果にはならなかったはず。

「そうか、タツミも頑張っておるのだな! それに、アマ、リア、も」

 ぴくっ

 メルの語尾にエバの眉毛が反応した。

「陛下? 配偶者候補のアマリア殿下の活躍を耳にして――」

 エバ侍従長、諫言モード入り。

「よもやよもや、対抗してご自身も戦場にはせ参じたい、などと思ってはおられませんよね?」

 口をへの字に曲げて、横目でチラ(メルにとってはギロ!)と流すエバ。

 それを受けて叔母にお説教される姪っ子モードになるメル。

「陛下の魔力は王都防衛のためにこそ使われなければなりません。城の地下にある大魔法陣と、陛下の魔力を持ってすればモーグ市全体に魔道障壁を張る事ができるのは御存知の通り。いざとなれば、より多くの臣民を市内に集めて守るために……」

「わかっておる、わかっておる! 余が出張る時はいつか、それは生前、父からも叩き込まれておる、私情を挟むようなことはせん!」

 椅子に深々と座りなおし、頬を膨らますメル。それを見て、クスッと微笑みあうエバとリバァ。

「何よりまだ、初戦を飾っただけだ。ポータリアにはまだ3万5千の兵が集まっているはず。おそらくタツミも十分わかっているとは思うが予断は許さんしな」

 エバの諫言もあり、君主モードに戻ったメルが姿勢を正した。

「リバァ、システからの連絡は無いか? 東部戦線は開戦にはまだ時間がかかると思うが?」

「はい、今のところは定期連絡だけです。予定通りなのでしょう」

「主力兵力は帝国軍に気取られぬように集結しているはずです。連中は自分たちと相対する敵の全貌を知りません。東部とダイブ平原に均等に兵が割り振られたと考えているはず。そこが狙い目ですし」

「二度と我らの領土を侵略しようなどと思わせないための戦いだからな……しかしこちらはタツミたちの力は借りられん。戦死者の数は増えるな」

「東部の開戦辺りでダイブ前線のケリが付くのが理想ですが……」

「もどかしいな。ただ待つというのも……」

 メルは机の上に置かれた、届いた書状を睨みながら呟いた。


                ♦


 盛り上がりまくったシーケン・オーバハイム連合軍とは裏腹に、ポータリア軍司令部は当然の如く通夜状態であった。いや、実際の通夜は故人を偲んで笑う事も有ろうが今の司令部にはそんな余裕も無い。

「死者行方不明、約1200人、負傷者2000人……」

「事実上、全滅に等しいな……」

「しかも、たった半日、いや、それ以下で、です」

 ふー!

 侵攻軍司令官グランドル中将は天幕内に響き渡るほどの大きな溜め息をついた。

 彼としては、いくらこちらが圧倒的兵力差を誇ると言っても、この日一日で決めてしまおうなどとは思ってはいなかった。

 斥候による偵察に依れば敵兵力は多くても6千から6千5百と見積もられていた。そして国境城壁と、その後ろの第二防衛線まではその半数。残りは後詰めとして前線から離れた後方に待機しているものと思われた。それ故、当初は二次防衛線までを突破・占領できればと考えて法則どうり3倍程度の1万人の兵力で臨んだのだ。

 だが、結果はまるで予想外であった。

「振り返ってみても、当初の戦法は間違ってはいなかったはず! 事実、我が重歩兵たちは城壁に取り付き内部へ攻め込んでいた!」

 歩兵連隊長バーンズが声を荒げた。確かに後方からの支援攻撃を受けて敵陣地内に辿り着く事は出来た。あの瞬間、連隊長は「勝った!」と思った。

「だが、それも敵の思惑通りとも言えよう。実際、敵を引き込んでの虱潰しはよくある戦法だ」

 魔導連隊長シモンが諭す。振り返ってみれば、友軍が取りついたと同時に城壁防衛兵が後退し、第二次防衛線からの攻撃をまともに食らったのは敵の手管に嵌ったと見るべきだろう。

「とは言え敵の数は少ない。数で攻めれば突破できたはず!」

 バーンズは尚も食い下がる。

「次は更に倍の兵力を投入し、一気に駆け抜ければ敵拠点は突破できる!」

「その心意気や良し! 確かに数を増やせば、あの魔導弾を放つ錫杖は制圧出来よう。しかしながら爆裂魔導弾筒はいかがいたす? あれが最初に来ればいたずらに兵の損耗を増やすだけであろう」

 バーンズの鼻息に魔導大隊長シモンズが水を差す。

 シモンズは、この戦いで初めて目にする武器、銃火器を新型の魔道具であると推測していた。銃は魔法で礫を放つ錫杖、擲弾は爆裂魔法を封じた筒の投擲であると仮定したのである。

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