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状況の人、小休止中2

 声の主、それはこの世界にやって来て、初めて依頼を受けた相手である、狐っ子のイーナであった。宴に出される各種料理を運んでいる最中のようだ。

「配膳かい? 糧食班勤務ご苦労さまだね」

 後方において食事等、陣地内の兵の生活を支える業務隊の人員には、周辺の市町村民から志願者が募られた。それはイーナの村にも届いていた。

 話を聞いたイーナとエミの姉妹は、あの時の恩返しとばかりに一も二も無く志願したようだ。

「戦勝おめでとうございます! さすがタツミさまですね!」

「エミちゃんもご苦労さま! おお、みな美味しそうだなぁ」

 二人が運ぶ料理を見て、思わず喉を鳴らす龍海である。

「二人とも頑張って働いとったでな、有り難く味わうがよいぞ? 我も手伝ったしな!」

 なぜかカレンも炊き出し組に参加しておった。まあ、彼女の場合は……

「お疲れカレン。でもお前が糧食班行くとは思わなかったよ。国家の思惑には加担しないんだろ?」

「もちろんよ。だがタダ飯と言うワケにも行かんでな。酒代分くらいは手伝うぞよ?」

「カレンさまが参戦なされれば無敵なのに」

「そう言わんでくれエミ。我にも立場と言うものがあるでな」

「はい! あたしとしては、またタツミさまやカレンさまとお会い出来てホントに嬉しいです!」

「ん~、エミはほんに可愛いのう~」

 エミの顔を自分に寄せてなでなでするカレン。エミもニッコリニコニコ。

「イーナも負けずに可愛いがのう」

「え! わ、わたしがですか?」

「炊き出しやっとる最中、砲撃の爆音が響くたびに『タツミさんは大丈夫かしら』とかナイフ持った手元が危なっかしくなるほどソワソワしとってのぉ。先勝の報が届いてタツミが凱旋すると聞いた時の眼のウルウルとかそれはもう……」

「ちょ! カレンさま! 今、言わなくても!」

 そんなイーナの反応を見てニヤニヤするカレンとエミ。

「そっか、心配してくれてたんだ。ありがとね、イーナ」

 と普通に、極めてフツーに微笑みながら礼を言う龍海。

 対してボン! と顔が赤ピーマン化するイーナ。やれやれ、また新しい火種でも?

 因みにアープの教会組、セレナやジュノンらも駆けつけてくれていて、ダニーたち男子組も塹壕や掩体壕掘りなどの雑工員として参加している。

 ――支えた人に、今は支えられている……

 人の縁の繋がりをしみじみ感じる龍海であった。

「お待たせしました~」

 宴に戻った一行、イーナたちが持ってきた料理を皆に振る舞う。

「おお、待ってましたぁ!」

「お疲れイーナさん、エミちゃん!」

「二人ともご苦労さま! そうだ、あなたたちも食べて行きなさいよ」

 労われて、洋子に誘われるイーナたち。

「え、でも、わたしたちは……」

 いいからいいから! と半分強制的に座らされる二人。

「良いではないか、少し付き合え。タツミ! 我も一杯もらうぞ~」

 カンパーイ! 皆がカレンたちの乱入を歓迎して盃を上げた。

 ――今は……いいよな……

 龍海はイーナたちと話して、少しわだかまりが小さくなった気がした。

「失礼しま~す!」

「お、アマリア!」

 そこに、衛生班に出向しているアマリアの姿が。

「あら、お疲れさん! 仕事、終わったの?」

 洋子が彼女にも座席を進めながらアマリアを労った。

「はい! 要治療者のほぼ全員の治療を終えましたわ。目を離せない患者もいくらか居ますけど、軍医長さんが交代しなさいって言って下さって」

「そっか、ご苦労さんだったね。お腹すいてるだろ? さあ食べて食べて」

 調理された食材を前に寄せながら勧める龍海。

 はい! と笑顔で返事して皿とフォークを手に食べ物を物色するアマリア。

「何か欲しいものある? 取るよ?」

「ありがとうございます。じゃあ、そこのソーセージ、お願い出来ますか?」

 ほいほい。龍海は大皿に盛られているソーセージを数本、小皿に受けてアマリアに差し出そうとした。で、彼女の方を向くと、

あーん

アマリアは目を閉じて、口をパックリ開けて待機していた。

 ――へ? 

 一瞬硬直する龍海。こ、これはもしや……

 次のアクションを期待しているアマリアの後ろで洋子がほくそ笑みながら、自らも開けた口に指先をちょいちょいと動かして彼女の気持ちに応えるよう促してくる。

 これもイチャラブ要素の一つであろう。性的な接触は年齢も考えて無理だがこの程度ならハードルも低い。龍海はソーセージをフォークに差してアマリアの口に運んだ。ただそれだけのことなのに、童貞拗らせ症候群の弊害か、はたまた彼女との年齢差か、殊の外心臓がドキドキしてしまったが。

「おいしいです!」

 ニッコリニコニコなアマリアさん。ホント至福そうなお顔をなさる。

 ――参るなぁ。メチャメチャいい笑顔……

「はっはっは! 無敵の勇者殿も我らが姫殿下には手が震えなさるか! はっはっは!」

 ウエルドが乱入してきた。顔を真っ赤にして、すでにかなりの酒が入ってそうである。

「からかうなよ男爵ぅ~」

 さらに、がっはっは! と重ねて笑い「まあまあ一杯!」とか言いながら龍海の盃に並々と酒を注いできた。

「ねえ、アマリア殿下? 結局、捕虜は何人くらいになったの?」

 洋子が聞いてきた。治療した敵兵も投降した捕虜も後方の簡易な柵で囲まれた収容所に纏められている。

「全部で250人くらいとの事ですわ。無傷で降参した敵兵は50人程度だと思います」

「姫殿下。その中に将校クラスの者は居りますでしょうかのぉ」

 とウエルド。

「情報かな?」

「詳しい兵力、配置なども知りたいとこですけぇの」

「そうだな。守りばかりじゃなく、最終的には敵陣も直接叩かないと相手も諦めないだろうし」

「二度とこっちに手ぇ出す気、起こさんくらいにはしてやりてぇですのう」

「明日、明後日はまだ停戦中ですよね? その間に調べておきますわ」

「ああ、連絡してくれれば俺も立ち会うから」

「いえいえ、そんなお手間は取らせては妻たるの名折れですわ。必要な情報は、ちゃ~んと()()()()()お手元に届けて、見・せ・ま・す・わ!」

 ニッタァ~……。さきほどソーセージを食べさせてもらった時の笑顔と本当に同一人物なのか? そんな仄暗い地の底から湧いて来そうな笑顔に、一気に酔いが醒める思いの龍海であった。



 宴も区切りがつき、一人二人と幕営地へ戻っていく中で、龍海とウエルドは陣地の一番南西部に設けられた戦場墓地に赴いていた。酒を供えて手を合わせて冥福を祈る。

「心配していた航空兵力、出て来なかったな」

 一息、黙とうしていた龍海。目を開けて墓地から満天の星空に目を移し、今日を振り返って話しかけた。

「有翼種、かてても戦闘に耐えうる飛翔族の数は少のうおます。地べたで這いずるワシらと違うて立体で飛び回る連中はどこの国でも虎の子ですけん。此度の様に数的に優勢な状況では、こちらが仕掛けない限り出て来んとは思いましたが……」

「次は出るよな? 兵力はどのくらいの差がある?」

「こちらは1/3以下、でっしゃろな。常識で考えれば当方は全滅必死ですわな。まあ、その辺はオービィ閣下次第でんな」

「今日もえらく、トんでたもんなぁ」

 思い出してフッと笑う龍海とウエルドは、供えた酒瓶の栓を開けた。その酒を埋葬した戦死者の上に振り掛けて供養とする。

 ウエルドは最後に残った一口を飲み、空となった瓶を死者の霊に手向ける様にかざした後、墓前に置いた。

「あんた方には、謝った方が、良いのかな?」

 墓を眺めながら、龍海が零すように話す。そう、先ほど引っ掛っていた事だ。

「なんですかい? こいつらの事ですかい?」

「まあ、そうなんだけど」

 そう答えられて、ウエルドも改めて墓地を見つめ直す。

「そうですなぁ、捉え方次第やが……勝ち戦やったし、お前らの死は無駄にせんかったぞ、と胸張る事も出来るし、ワシらだけ生き残ってすまんのう、とも取れるんやが……」

「いや、実はな……」

「ほ?」

「この連中も死なせずに済ませた、これからの戦でも誰一人死なせずに済む、そういう方法も有るには有るんだ」

「……どう言うこってす?」

 二人は戦死した英霊の前でしばらく話し合っていた。

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