状況の人、冒険者になる1
――ヘンな人……でも悪い人じゃないよね……
洋子は、ほんのちょっとほっこりした。張っていた気も少し楽になった。
「魔導王国倒せば帰れるってホントかなぁ?」
先ほどのアリータ達とのやり取りのおさらい。これらの情報、認識は二人で共用しておかねばならないだろう。
「信じたいところだけど実際はどうだろうなぁ? もしかしたら戻れるかもしれんし、ダメかもしれんし。でもまあ、仮に宰相たちの思惑通りになって、しかし日本に帰れなかったとしてもここでは生きて行く事自体は問題なかろうな」
「そう? もしかして、もう用済みだからと消されるとか……有りがちじゃない?」
「それもあり得るけど……だけど彼女らの言葉を借りれば、一国をぶっ潰せる戦力相手にケンカ売るかな?」
「でも、あたしにそんなコト出来ると思う? あたしってホント、そんじょそこらの普通の高校生よ?」
「普通よりかはトラックや重機に詳しい女子高生じゃん」
「自然に覚えちゃっただけだってば!」
「でも俺の鑑定でも戦闘力にしろ魔力にしろレベルはかなり高そうだぞ? 鍛え方次第だろうな。レベッカさんも言ってたが召喚直後の鑑定でも君は、この世界の人間に比べて桁違いの素質があるとの事だそうだし、それは俺の鑑定データと一致するし」
「全然自覚できない」
「女神の説明によると、俺たちの身体は前の世界――日本で葬られているし、こちらへ召喚・転移するのに必要な身体は魔素で再構成されているらしいんだな。つまり魔素の塊であって、当然のごとく魔法との相性や強さがこちらの世界の人たちより上なんだそうな」
「でも剣とか槍とかは関係ないんじゃ? 剣道でもやってればともかく」
「それも圧倒的魔法力で筋力とかスピードとか強化されたりするんじゃないかな?」
「やっぱり明日から外へ出るの?」
「ああ、もしもこのままここで生きて行くにしても、そのための能力は磨かなきゃな。これは俺も同じさ」
「ねぇ、東雲さん」
「なんだい?」
「どうせなら銃の使い方教えてよ。他にも出せるんでしょ?」
「銃を? それはいいけど、またなんで?」
「剣や刀より強そうだし、腕力じゃ敵いそうにないし」
「まあ、君にその気があるなら俺は構わないけど……でも銃って操作とか憶えることは多いし、なにより結構重いよ?」
「剣や盾だって重いでしょ」
「それもそうか。う~ん、自動小銃持った勇者様か~。マジ、ラノベだわ、ははは」
さて、今後の指針も決まったところで、龍海はようやく装備の再現に取り掛かり始めた。
洋子も制服のままとはいかないので、今現在、侍女らの手によって女性冒険者らしい服を誂ってもらっているので部屋内は自分一人。その間に龍海は武器の再現を行った。
洋子も言っていた事ではあるが、この世界の主力武器たる剣や槍、斧や弓などはここしばらく、自分らには扱えないと思った方がいい。
実際、龍海は刀剣類での戦いと言えば、せいぜい自衛隊での銃剣道くらいしか知らない。
後は居合をやっている上官の持つ日本刀を振らせてもらった程度だ。もちろん居合の修行をしていたわけでもない。言わんや洋子。
やはり火器による武装を主軸にするのが現状最適であると言えよう。
龍海が在隊中の頃の正式小銃の主力は89式5.56mm小銃だ。
西側諸国でアサルトライフルの標準規格弾である5.56mm×45mm弾を使用する自動小銃で、単射、3点連射、連射で射撃できる国産小銃である。
龍海も在隊中はこの銃とともにあり、グァムで射撃経験した物を含めても一番手慣れた小銃であった。
しかし、龍海がチョイスしたのはそれより旧式の64式7.62mm小銃だった。
性能や取り回しの良さなどは新しい89式に軍配が上がるのは当然であり、重量は89式よりも重く、装弾数も10発少なく、使い勝手最悪の安全装置など問題点も多いのだが、龍海はこの64式に使用される旧式NATO弾(とは言え現役)である7.62mm×51mm弾の火力を欲したのだ。
森の街道で遭遇した角狼は44Magで仕留める事が出来たが、冒険者のトレドらの話によれば更に大型の大黒熊や魔狂牛も出没することがあると言うし、そうなると5.56mm弾では心許ない。
実際に試さないと分からないが、やはり少しでも火力のある弾薬を使用したい。
同程度の威力の軍用銃としてはグァムではスプリングフィールドM1A(M14)やイズマッシュのAK47の派生モデル等も経験したが、あれらは民間用の単射専用モデルであるので、メインとしては除外した。
7.62mm弾は火力としては44Magの大体3倍程度である。
熊や牛を相手にするにはこれくらいの火力は欲しいと龍海は考えた。
火力だけならグァムで撃った事のある、バレットM82という第二次大戦では戦闘機の搭載機銃や対空機関銃用として使われた12.7mm×99mm弾が使える、人に向けて撃つには大変外道な狙撃銃もある。
だがこの狙撃銃は重量が13kgも有り、とても常日頃持ち歩く気が起こらない。
いずれ長距離狙撃等が必要な時のために作っておきたいところではあるが、常用とするには使い勝手が悪い。
洋子用には米軍でも採用されているM4カービンを用意した。民生用の単射モデルである。
理由は全長が短く、重量が軽いから、である。それでも空重量2.7kgはJKの洋子には重いかもしれないが。
しかもその軽さゆえ、同じ5.56mm弾を使用しても89式やベルギーのFN社製SCARなどより反動は鋭くなる。
まずはこれで訓練して扱える目途が付けば89式に変えようと思う。
ここまでの作業中、龍海はステータス画面を小まめにチェックしていた。
これまで再現した拳銃一丁、ハンバーガーにジュース。小銃を二丁、それに合わせた予備を含めた弾倉・弾薬、銃剣に、タクティカルベスト。
これだけ再現してどれほどMPが消費されているか、その確認をしなければならない。
女神は触れた記憶があれば住宅でも再現は可能、とは言っていたが、MP枯渇で死んだらマジでシャレにならない。
で、まず64式のMP消費量は……4300P。
M4カービン・2680P。
7.62mm弾一発辺り26P
5.56mm弾一発辺り12P
――1gにつき1Pか……
どうやら材質に関わらず1gにつき1Pが消費されるようだ。
で、次に気になるMPの最大値は……
50.000.000P