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状況の人、決闘中3

 魔導士の配置が終り、ジイ様が円外に出た後に魔導士らが障壁の展開を始めた。闘技場が魔素によるドームの様な障壁に包まれていく。

 これで内部の魔法や武器が外に出る事は無く、外部からの介入も出来なくなった。それはつまり、洋子がピンチになって救い出そうとする場合の障壁ともなる。

 が、しかし、

――近付いて2~3人の脚撃ち抜きゃ穴は開けられるな。

と、状況の人・外道モードになる気満々の龍海である。


 一方、状況の人・剣闘士モードにスイッチした洋子は刺していた剣を持ち上げた。

 シーエスもまたソードを持ち上げ刀身を目の前に――刀剣による敬礼姿勢のまま、開始の合図を待つ。開始はバルコニーの端にある、銅鑼の様な打楽器を打つ事で始まる。

 洋子・シーエスともに視界の端で銅鑼を捉えていた。

 鳴ってからでは遅い。鳴る寸前に呼吸を整えていなければならない。鳴った瞬間、動けるように、互いに相手を睨みながらも銅鑼係の腕が動き出すのに注視する。

 それを指示するのはメルである。退出したジイ様が開始を促してくるが、気が重い事この上ない。

 メルはついと龍海の方を見た。

 その視線に気が付いたのか彼女を見上げる龍海。その沈んだ視線を見るに、メルの心情を察した龍海は口元に笑みを浮かべつつ、右手人差し指と中指を揃えてピッと前に振った。

 ――大丈夫だよ

 メルは彼の仕草を、そんな風に受け取った。眼を瞑り、一息ついて気を落ち着かせたのち、銅鑼係に指先で合図を送った。


 ドジャアーーーーン!!


 開始である。


 ウオオオォォー! ウワアアアァーー!

 

 同時に会場は割れんばかりの歓声に包まれた。

 そんな中、洋子とモノーポリは、

ガアァン!

双方いきなり間合いに踏み込んで斬り合って来た。

 カン! キン! ガーン!

 お互いが空きが出来ると踏んだところに刃を叩き込み、それが来ると予測して弾き、弾いて隙、若しくは甘そうなところに叩き込んで一撃を狙う、そんな脊髄反射的な反応と身体の動きが交錯した競り合いで始まった。

 ギン! 

 洋子がシーエスの上段からの一撃を受けて一瞬の膠着が生まれる。

 シーエスはそのまま右手で剣を押さえ、左手から風魔法による衝撃波を発しようと構えた。

 だが洋子も考えは同じで左手は剣に添えたままではあるが風魔法を発動、両者の風対風の衝撃波勝負となる。

 バン!

 相打ち! 二人は互いに被弾し合って後ろに吹っ飛ぶが、空中でも風魔法による姿勢制御を繰り出し、剣を構えたまま着地した。

 距離が出来た二人。シーエスは更に火魔法発動。火球を飛ばしてくる。

 ビキン!

 洋子はその火球をソードで右へ弾き飛ばすと左人差し指でシーエスを指し、彼に向けてフレイムランチャー宜しく火炎放射を食らわせた。

「フンム!」

 向かって来る、横から見るとまるで炎のロープの様な火炎攻撃を、シーエスは先ほどと同様の衝撃波を盾のように繰り出し左へ弾かせる。

 タタタ!

 防御に入ったシーエス目掛けて洋子が一気に距離を詰める。

「早!」

 見ていたケイが思わず叫んだ。

 シーエスもそうだが洋子は強化魔法を巧みに組み合わせている。

 筋力強化、速度強化、武器強化、耐性強化をその場その場で切換え、または効果の濃淡を踏まえた上での併用も含めて使いこなしていた。

 ――……成長してるとは思ったけど……ここまで来ると……

 火花を散らす剣と剣。間一髪で躱し合い、攻撃を加え、相手の剣を流し、剣先を誘いあい、攻撃魔法も放ち、身体が飛ばされ合う。それも常人では考えられないスピードで。

 ――まるでジェダ〇騎士の戦いだねぇ……

 魔王シーエスは先の戦役の英雄との誉れ高い闘将である。龍海の鑑定+の値を見ても、基本的には剣士であるが魔法力も魔王の名にふさわしいものを持っている、魔導剣士と言って差し支えはない戦士だ。

 しかしながら、驚くべきはそんな歴戦の魔王と互角に張り合っている洋子である。

 今の洋子は、当初アデリアが期待した勇者としての戦闘力に劣らないスペックに成長している。洋子・シーエス双方の数値は多少の+-差はあるが、総合的に見ると両者は拮抗していると言えよう。

 この世界に来て、最初に相(まみ)えた火竜のカレン。こちらの最強級の種であった彼女と迎合して、指南役として迎えられたのは正に僥倖。

 彼女からの魔法指南、その属性・種類は多岐に渡り、そしてそれの併用・組合せ等も学んでいた。

 実戦においては能力・技術が同じであれば後はその運用・利用センスが決め手となるが、カレンはそれを踏まえた指南をしていたのは実際に訓練に参加していた龍海自身も、十分に知るところだ。

 しかしてこの対決が洋子ではなく自分であったら? そん時ゃ迷わず、いきなり火器をぶっ放していた事だろう。正直、この世界の装備のみの戦いであったら龍海は洋子にもシーエスにも勝てる気はしない。龍海は洋子の戦いぶりを見ていて半ば呆然となり、感動すら覚えていた。

「すげぇ、すげぇよヨウコ!」

 ケイの感嘆の声に、龍海の意識もセコンド席に戻って来た。

「あの閣下に同じ条件下で、ハンデも何も無しでここまで食いつくなんて!」

 二人の決闘に、ずいぶんのめり込んでいる様だ。眼はらんらんと輝き、両の拳は固く握り締められている。

 決闘の開始からまだ二分程度しか経ってはいなかった。しかし見渡せば会場の空気もケイのそれと同様の雰囲気になって来ているのに龍海は気づいた。


 鍔迫り合いの後、洋子は押し負けそうになり一旦引いて距離を取った。

 オオオォー!

 シーエス優勢に会場が湧く。

「フオォ!」

 シーエスが念を込める。途端に彼の周辺に八本の氷矢が浮かび上がった。

「てやぁ!」

 魔王の叫びと共に加速する氷矢群。一斉に洋子に襲い掛かって来る。

「ほおおぉ!」

 洋子も剣を構えたまま、念を込めた。瞬時に剣の周りに火球が八個現れ、

「ハァ!」

洋子の気合と共に火球が放たれる。そのまま氷矢群に相対すると、

バババババーン!

その直前で火球は炸裂を起こし、八本の氷矢を一本残らず弾き飛ばした。

 ウオオオォォーーー!

 一歩も譲ることの無い一進一退の攻防に、会場は斯様に興奮のるつぼと化していた。

 始めこそ洋子にブーイングを浴びせかけていたウルフたちも、己が未来を託すにふさわしいこの決闘の様相に、脳味噌がすっかり痺れてしまっているかの様だ。

 シーエスの豪快な一撃に喝采を、洋子の見事な応戦に称賛の声や口笛が鳴り響く。

 ――ほぼ互角ってところだが……でもそろそろだな……

 始まって概ね三分が経過。

 休まることの無い攻防戦。

 疲弊する肉体。

 いくら魔法で強化されているとは言え、疲労自体は溜まっていく。全力を出し続けられる時間はそれほど多くはない。双方の息も荒くなりつつある。

 ――そろそろ決まるな……

 実力が拮抗した相手同志は一瞬の間が動く事で、意外とあっさり決まってしまう事も多い。龍海は収納からいつでも得物を取り出せるように気を張った。

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