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状況の人、決闘中1

 ダダダダダダダダ!

「ひ、ひひ、ひ……」

 ミニミの掃射を喰らって頭を抱えて蹲る兵たち。さっきの威勢はどこへやら?

「あんたらだって一人残らず女の股からこの世に出て来たんだろうが! それとも木の股からでも生えてきたのか! なに自分たちの故郷(ふるさと)を見下してやがんだー!」

 ダダダダダダダダ!

 ――お~い、連発しすぎると銃身イカれるぞ~

 加熱した銃身の交換にしても弾薬の再装填にしても軽機関銃は手間が掛かる。それを見切られると、そのスキを狙われる事にもなりかねないので、そういう場面は兵たちには見せたくないのだが……あまりアツくなられると、逆に引いてしまいそうな龍海。

「はっはっはっはっは!」

 おまけに魔王閣下は何かの琴線にでも触れたのか、なんだか笑い出してるし。

「確かに小生とて、我が母の腹から生まれた身。女性(にょしょう)を見下すは己に唾するようなものよのぉ」

 シーエスはそう言うと今度は笑顔から顔を引き締めて洋子に相対した。

「とは言え、はいそうですかと従っていても遺恨は残る。祖国が我らの思いを受け入れても、宰相らの思いを受け入れるにしても、だ」

「わかるわ」

「そこで提案だ、勇者どの」

「?」

「小生と勇者どので一対一の決闘を申し込みたい」

 ――決闘ぉ!?

 シーエスの口から出た意外な言葉に、龍海の目が思いっきり全開した。いや、この流れで、なんで決闘?

「勇者どのが勝てば我が軍は即座に王都の包囲を解き、その後はエームスで開かれている魔王会議の決定に一切の服従を誓う。そして小生が勝った場合、貴殿らは即座にアデリアに退去。他の5魔王は我が傘下に入り、その上でアデリアに対し宣戦を布告する!」


                ♦


 決闘は午後一時半開始。場所は王都のはずれにある国防軍司令部前の野外訓練場において。メルが立会人を務め、勝った方の趣意を魔導王の名で全国に発布する、と言う段取りである。

 いかな魔導王の判断と言えど、1対1の決闘で国家の未来を左右してしまうなど、些か強権行使に過ぎる沙汰ではあったが、こうでも無ければあの場が収まらなかったであろうことも事実。メルとしても正に苦渋の決断であったろう。

 で、当の洋子はその申し込みをすんなり受け入れたので、メルともども魔導王執務室に戻されて一時半まで、そこで待機となる。待機と言っても朝食を取り、すぐに仮眠して体を休めるだけだったが。

 ルールは単純なもので甲冑等の防具も自由、武器類もその数も自由。

 それに加えて自身が単独で使える魔法は強化魔法等をはじめ、防御・攻撃等にかかわらずこれも自由。決闘中は魔導士隊による結界ともいえる魔導障壁をフィールドに展開するので、施設やギャラリーに被害が及ぶことは無くなるからであり、気兼ね無く全力が出せる、と言うわけだ。

 勝敗は相手が降参するか、自力で起き上がれなくなった時点で決定となる。その場合の生死は問わない。


 十一時を過ぎ、龍海は洋子を起こした。こんな状況でも、すやすや寝付ける心臓ならそりゃ魔王との決闘も受けて立つ事も不思議では無い、と言えばそうだろう。マジ勇者サマ。

「装備はどうする?」

 本番を控え、龍海が再現した食事代わりのケーキにエナジードリンクを合わせて食べている洋子に聞いてみた。そうしたら……

「火器で一撃、が一番楽だけどそう言う訳にもねぇ」

「こちらの常《・》()()で決着しないと一般兵が納得しないだろうって事はまあ、その通りなんだろうけどな。しかしだからと言って……」

洋子はいつものカレンのウロコを仕込んだベストに、こちらの世界で標準的な剣や防具で臨む、と言うのだ。

「シーエスは俺が鑑定する限り、魔王の一角だけあって生命力も戦闘力もずば抜けている。格闘戦なら六魔王内でもダントツだ。確かに勇者としてレベルアップしたおまえはスペック的には拮抗してると言えるけど、奴には長年の経験に基づいた戦闘センスってものがある」

「だからこそ同じ条件下で倒さなくっちゃ。禍根を引き摺ったケリの付け方したら、この決闘を受けた意味がない」

「ああ、おまえがそこまで考えて受けたのは俺にもわかるよ。けどな、罷り間違って死んじまったりしたらそれこそ元も子も無いしなぁ」

「だ~い丈夫! あたしだって死ぬ気なんかこれっぽっちも無いし? それにねシノさん?」

「あ?」

「あたしがレベルアップしてるのって、勇者としてのスキルだけじゃないんだよ?」

「……どういうこった?」

「あたしの目標は日本へ帰る事、これは言うまでも無いわね。でもそのために必要な最低条件はあたしたちが生き延びる事でしょ?」

「ああ、そうだが……で?」

「で? じゃないでしょ? シノさんが最初に教えてくれたことよ?」

「最初? あ……」

「いざとなったら、何もかも放り出して?」

「「バックレる!」」

 見事にハモッた。

「くくく……」

「ははは……」

 二人は、あの野営の時と同じように笑いあった。

「あたしがマジでヤバくなりそうなら、シノさんがM82(バレット)でも擲弾でもLAMでも出してその場をムッチャクチャにしてよ。その後は魔導国もアデリアもポータリアもアンドロウムも何もかも放り出してフケちゃいましょ!」

「レベルアップって図太さの方かよ!」

 龍海は笑いながら呆れた声で言った。

「せっかく出来た彼女には恨まれちゃうけどねぇ~」

「一生呪われそうだな~」

 もちろん龍海としてはここまで深まった縁を、そうそう簡単にないがしろにする気はない。そういう事態にならないのが当然ベストではあるが縦しんばそうなったとしても、洋子の安全が確保されたらメルのところへ駆けつけてひたすら謝り、例え焼き土下座してでも許してもらうつもりだが。

 と言うか、こんなのは洋子が龍海を安心させるために飛ばした戯言に過ぎない。彼女自身は勝つ気満々なのだから。

「カレンに鍛えられた身体強化、その強化(バフ)魔法を武器や防具にも付加するやり方も教えてもらったし。普段は火器の方が効率がいいから使ってなかったけどね」

「でもその戦法はシーエスも使って来るだろう。まあ、魔力自体は今のおまえの方が上だし、それがどう出るか? 予断は許さんな。しかし洋子?」

「ん? なに?」

「ずいぶん自信満々、だな?」

「ん~……そうねぇ……。やっぱ、期待に応えたいなって」

「メルたちの?」

「メルさんたち、魔導国の人たち。システさんやティーグ、それにビアンキ夫人だっけ? あの人たちにアデリアのみんな。大国に良いように利用されないように、餌食にならないようにしたいもの。その辺ほったらかしにして日本に帰っても、ずっと気に病みそうだし?」

「そう、だな……。最初に来た時より、ずいぶんと状況も目的も変わっちまったが……達成できれば一番いい方向には向かっているよな」

「そのためにあの人は……」

「ああ……」

「あの人の期待にも応えなくっちゃ、ね……」

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